島の中心に建つ、いまは博物館となった建物

長島の中央、園内の道が集まる位置に、丸みを帯びた車寄せと厚いパラペットをもつ鉄筋コンクリート造の建物が建っている。昭和5年(1930年)に長島愛生園の事務本館として竣工したもので、愛生園は日本で最初の国立ハンセン病療養所であった。主体部は2階建てで、一部が平屋、西側には後から木造の翼棟が加えられ、合わせて建築面積はおよそ371平方メートルになる。2003年からは、この建物が「長島愛生園歴史館」となっている。

20世紀の大半を通じて、日本ではハンセン病と診断された人びとが法律によって療養所に終生隔離された。入園の手続き、患者作業の割り当て、郵便の管理など、入所者の生活を左右する判断は、この建物の内側で下されていた。建物が残り、博物館へと変わったことで、かつて施設の中枢であった場所は、いまその歴史を率直に語る場へと姿を変えている。

意外な近代建築の一例

事務本館は平成31年(2019年)3月に登録有形文化財となり、「造形の規範となっているもの」という基準で登録された。評価の理由はその建築表現にある。南側の車寄せの正円アーチ形の開口部、2階の窓、幅広のパラペットには表現主義の影響が見て取れる。20世紀初頭の建築潮流の一つであり、離島の医療施設に現れるのは珍しい。

コンクリートそのものが、ここでは一つの主張だった。多くの地方の建物が木造であった時代に、中枢施設を鉄筋コンクリートで建てた選択は、愛生園が内務省の直轄事業であり、相応の体裁を求められていた事情を映している。木造で増築された西翼や、1998年・2003年の改修は、建物の年代を覆い隠すのではなく、その来歴の層として目に見える形で残されている。

歴史館の内部

歴史館の展示は二つに分けられている。一つは隔離政策と愛生園で起きた出来事を解説するもの、もう一つはここで暮らした人びとの心情や創作に当てられたものである。第一映像室では映像資料を視聴でき、ギャラリーには入所者の陶芸作品などが並ぶ。かつて隔離政策の発信基地と称された園長室も再現されている。

この連載で取り上げる5件の登録建造物のうち、実際に内部へ入れるのはこの建物であり、見学の起点にふさわしい。職員による案内では、波止場の収容所、浴場、洗濯場へと足を延ばす。見学は予約が必要で、長島は今も入所者が暮らす場であるため、定められた条件のもと、配慮をもって行われる。

Q&A

Q歴史館は一般に公開されていますか。
A予約のうえで公開されています。歴史館は旧事務本館に置かれ、ハンセン病政策の歴史や愛生園での暮らしを展示しています。開館はおおむね9時30分から16時で、夏季と年末年始に休館があります。日程を確認し、事前に予約してから訪ねてください。
Q表現主義の建築とは、わかりやすく言うと何ですか。
A左右対称の整然さよりも、大胆で彫塑的な造形を好んだ20世紀初頭の様式です。ここでは玄関車寄せの丸いアーチ、窓のかたち、屋根まわりの厚いパラペットにその特徴が現れています。
Qなぜ事務本館をコンクリート造にしたのですか。
A愛生園は内務省が直接手がけた中心的な事業であり、耐久性と存在感をもって建てられました。鉄筋コンクリートは、新しい国立施設を代表する建物にふさわしい、意図的で費用のかかる選択でした。
Q当時の園長室を見られますか。
A園長室は再現展示として歴史館に設けられています。隔離政策が方向づけられた中心としての、この部屋の歴史的な役割を反映しています。
Qどうやって行きますか。
A長島は1988年開通の邑久長島大橋で本土とつながっています。橋は「人間回復の橋」と呼ばれます。車なら岡山ブルーラインの虫明インターチェンジから約10分、JR赤穂線邑久駅からのバス便もあります。歴史館は特定日に見学バスや船での見学も用意しています。

基本情報

名称長島愛生園旧事務本館(ながしまあいせいえんきゅうじむほんかん)/現・長島愛生園歴史館
所在地岡山県瀬戸内市邑久町虫明6539
指定区分登録有形文化財(建造物)
登録年月日2019年(平成31年)3月29日
登録番号33-312
構造鉄筋コンクリート造2階一部平屋建及び木造平屋建、建築面積約371平方メートル
年代昭和5年(1930年)/昭和前期増築、平成10年・同15年改修
員数1棟
所有者国立療養所長島愛生園
見学歴史館として要予約で公開。邑久長島大橋経由

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)長島愛生園旧事務本館
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00012811
文化遺産オンライン 長島愛生園旧事務本館
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/379604
長島愛生園歴史館
https://www.aisei-rekishikan.jp/
国立療養所 長島愛生園(Leprosy.jp 笹川保健財団)
https://leprosy.jp/japan/sanatoriums/sanatorium07/

最終更新日: 2026.06.25