保育室から一歩で園庭へ

若竹の園保育園舎幼児保育南棟は、岡山県倉敷市中央1丁目にある大正14年(1925年)建築の木造平屋建の保育園舎で、平成21年(2009年)4月28日に国の登録有形文化財となった。

若竹の園で登録されている2棟のうち、規模の小さいほうにあたる。建築面積は56平方メートル。北隣に建つ事務室棟の131平方メートルと比べれば半分にも満たない。内部は南北に2室の保育室を並べた構成で、南室の東側に煉瓦敷のテラスが設けられ、そのまま園庭へと続く。

この建物の主題は、そのテラスに尽きる。玄関も廊下も式台もない。南室にいる子どもは、一歩踏み出せばもう外である。

西村伊作の「居間」思想が保育室に置き換わるとき

設計者の西村伊作(1884〜1963)は、単独の代表作よりも、生活そのものを設計対象とする態度によって記憶されている建築家である。大正8年に著書『楽しき住家』を刊行し、来客本位の座敷を連ねる住まいではなく、家族が集まる居間を中心に据えた住宅を説いた。日本における居間式住宅の先駆けとされる考え方である。

大正10年、娘の教育のために東京駿河台に文化学院を創立。与謝野鉄幹・晶子らを教授陣に迎え、文部省令に縛られない自由な教育を実践した。校舎は英国のコテージ風に自ら設計している。倉敷との縁は、倉敷文化協会に招かれて「文化生活の実行」と題する講演を行ったことに始まり、大正12年の日本基督教団倉敷教会教会堂、そして大正14年のこの園舎へとつながった。

南棟の平面を『楽しき住家』の主張と重ねて読むと見通しがよい。庭に向かって開く居間という発想を、そのまま園庭に向かって開く保育室に置き換えたものと理解できる。保育室は儀礼の場ではなく、子どもが日々を過ごす生活の器として設計されている。

開園の経緯そのものも、この設計思想と無縁ではない。倉敷紡績の女性労働者が急増するなか、大原壽恵子を中心とする倉敷さつき会が大原孫三郎と倉敷紡績の援助を得て、大正14年3月15日に定員80名で開設した施設である。

矩折れの平面と、緩む軒先

外周をたどると平面の操作が見えてくる。南北に伸びる棟は、その北側で東へ矩折れに曲がる。この折れによって、長い側面ではなく切妻の妻面が正面に向く。小さな建物に正面性を与えるための操作である。

屋根はスレート葺。軒先で勾配を緩め、ほぼ水平に近い裾を張り出す扱いは、事務室棟と共通している。屋根の見かけの重さが減り、軒の線が使う人の背丈に近づく。

装飾はほとんど加えられていない。彫刻的な持送りも、貼り付けた繰形もない。文化庁の解説はこの棟を簡明で優美と評しており、その二語の組み合わせが西村の狙いをよく言い当てている。

残ったこと自体は当然ではなかった。若竹の園は当初部分を核としながら周囲を建て替え続けてきた。昭和46年に定員を220名へ増やすため鉄筋コンクリート2階建を増築し、平成元年に遊戯室、平成13年に乳児室と保健室を加えている。平成20年から22年には木造園舎の耐震補強工事が実施され、その直後に登録が実現した。大正14年の姿を伝えるのは、この南棟と事務室棟の2棟だけである。

見学にあたっての条件も、そこから決まる。現役の認可保育所であり、園舎内部も園庭も一般公開されていない。公開時間という概念自体が存在しない。外観は周辺の道路から見ることができるが、園児の撮影や園内への立ち入り、敷地内へ向けた撮影は避けること。建築に関する問い合わせは園ではなく倉敷市教育委員会文化財保護課へ。所在地は倉敷美観地区の中で、JR倉敷駅南口から南東へ徒歩約15分、大原美術館のすぐ近くである。

Q&A

Q若竹の園保育園舎幼児保育南棟の特徴は何ですか。
A南北に2室の保育室を配し、南室の東側に煉瓦敷のテラスを設けて園庭と一体につないでいる点です。北側では平面が東へ矩折れに曲がり、切妻の妻面を正面に見せる構成をとっています。
Q若竹の園保育園舎幼児保育南棟は見学できますか。
Aできません。定員220名の現役の認可保育所の一部であり、園舎内部も園庭も非公開です。外観のみ、周辺の公道から眺めることができます。
Q若竹の園保育園舎幼児保育南棟の規模はどのくらいですか。
A文化庁の記録では員数1棟、木造平屋建、スレート葺、建築面積56平方メートルです。登録番号は33-0229、登録は平成21年4月28日、告示は同年5月14日となっています。
Q若竹の園保育園舎幼児保育南棟と事務室棟の関係を教えてください。
A同じ若竹の園に残る大正14年建築の2棟で、平成21年4月28日に同時に登録されました。南棟は事務室棟の南に位置し、建築面積は事務室棟の半分以下です。
Q若竹の園保育園舎の写真を撮ってもよいですか。
A公道からの外観撮影は一般に問題ありませんが、園児が写り込む撮影や敷地内へ向けた撮影は行わないでください。私的な児童福祉施設としての配慮が求められます。

基本情報

名称若竹の園保育園舎幼児保育南棟(わかたけのそのほいくえんしゃようじほいくみなみとう)
所在地岡山県倉敷市中央1-262-1他
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 33-0229
指定年平成21年(2009年)4月28日登録、5月14日告示(第63回)
員数1棟
寸法木造平屋建、スレート葺、建築面積56平方メートル
所有者社会福祉法人若竹の園
公開状況非公開(現役の認可保育所。外観のみ道路から見学可)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— 若竹の園保育園舎幼児保育南棟
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007690
文化遺産オンライン — 若竹の園保育園舎幼児保育南棟
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/172992
倉敷市 生涯学習部 文化財保護課 — 若竹の園保育園舎
https://www.city.kurashiki.okayama.jp/culture/art/1007596/1007597/1011206/1007792/1007804.html
社会福祉法人若竹の園 — 園について
https://wakatakenosono.jp/about_pre/

最終更新日: 2026.08.06