久金属工業 ― 木津川沿いに残る昭和戦前の工場群
久金属工業は、大阪府大阪市西成区北津守にある瓶や缶のキャップを製造する会社の本社工場で、昭和9年(1934年)から昭和12年(1937年)にかけて建てられた事務所・工場・倉庫など9件が、令和3年(2021年)2月4日に登録有形文化財となった。
読みは「ひさきんぞくこうぎょう」。創業者は久庄次郎で、社名の「久」はその姓と同じ字である。英語では Hisa Kinzoku Kogyo と表記し、金属工業を意味する。
場所は、工場や倉庫が並ぶ木津川沿いの一角。登録された建物は、いまも会社の業務に使われている。工場の建物は老朽化を理由に建て替えられることが多いが、久金属工業では移転した昭和9年の建物と、昭和12年前後に加わった建物がひとまとまりで残っている。大阪文化財ナビは、この群としてのまとまりを戦前の工場景観の手がかりとして評価している。
久製作所から久金属工業へ
会社の沿革によると、創業は大正4年(1915年)4月にさかのぼる。久庄次郎が大阪市浪速区桜川1丁目で個人経営の「久製作所」を開き、輸出用の金属容器とガラス瓶のキャップの製造を始めた。大正8年(1919年)には西区南堀江へ移り、大正14年(1925年)には浪速区小田町に工場を増やしている。
転機は昭和9年だった。1月に個人経営から合名会社久金属製作所へ組織を改め、7月に現在の西成区北津守へ移転した。社史は同じころの写真として「最初の動力プレス機」を掲げる。大阪文化財ナビの解説によれば、動力プレスの導入で製造費が大きく下がり、菓子瓶の蓋の市場を押さえたという。
昭和19年(1944年)7月、関係する4社が企業合同し、資本金100万円の久金属工業株式会社が設立された。戦後の社史には、アルミ箔によるキャップシールの完成(昭和28年、1953年)や、医薬品瓶用フリップオフキャップの開発(昭和46年、1971年)が、いずれも国内初として記されている。
北津守の敷地は、移転直後の室戸台風をはじめとする自然災害や戦時の空襲を経ながら、増改築と修理を重ねて使い続けられてきた。
久金属工業の登録9件と敷地の配置
登録されたのは、事務所、正門、守衛室、技術室、旧社長室、品質管理室、旧倉庫、旧第一工場、旧防空壕の9件である。文化庁のデータでは、技術室・旧第一工場・旧倉庫・旧防空壕が昭和9年頃、事務所・旧社長室・品質管理室・守衛室・正門が昭和12年頃の建設とされる。登録基準はすべて「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。
配置は、文化庁の解説文からおおよそ読み取れる。道路に接する敷地南側のほぼ中央に正門があり、その西脇に事務所、正門を挟んだ東側に旧倉庫が建つ。正門を入った正面は築山で、その裏手に旧防空壕が隠れている。
敷地の北側、東門の脇には技術室が建つ。この東門がかつての正門で、門の内側に守衛室が残る。技術室の南隣に旧社長室、その南に品質管理室が接して続き、旧第一工場は敷地の南東側を占める。東門の袖には、昭和9年の旧社名を記した銅板のプレートも残っている。
道路に向く事務所と正門はタイルや洗い出しで表情をつけ、敷地の内側の工場や倉庫は下見板張や鉄板張を中心に仕上げる。品質管理室と旧倉庫の南面は、下見板張と小庇付きの引違い窓で意匠をそろえている。なお事務所の解説文は道路側を北面としており、正門の位置の記述とは方位が一致しない。
大阪市の景観施策と久金属工業
久金属工業の本社社屋は、平成30年(2018年)3月に大阪市の都市景観資源に登録された。令和元年度(2019年度)には、市の地域魅力創出建築物修景事業を活用して事務所棟の外回りが整えられている。市の事例紹介は、大空間の工場を含む建物群が操業を続けながら保たれてきた点を高く評価し、大阪の工業化と市街地の広がりを理解するうえで重要な建築だとしている。
令和5年(2023年)には「生きた建築ミュージアム・大阪セレクション」に選ばれた。選定時の解説は、戦前の木造工場群が敷地ごと残るさまを映画のセットにたとえ、戦前のプレス加工機などの工作機械が保存されていることにも目を向けている。
久金属工業の見学案内 ― 公開の機会とアクセス
久金属工業は現役の工場で、登録された建物も業務に使われているため、ふだんは敷地に入ることができない。建物の内部を見学できるのは、公開行事が行われるときに限られる。
久金属工業は令和3年(2021年)から「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」(イケフェス大阪)に参加している。2024年は10月26日に45分間のガイドツアーが2回組まれ、定員は各回15名、事前申込による抽選だった。案内には、急な階段があること、建物内部に撮影できない場所があることが記されていた。大阪文化財ナビは公開日を年1回としている。
2026年のイケフェス大阪は10月24日(土)と25日(日)がメイン期間で、プログラムの詳細は9月25日に公表される予定である。久金属工業が今年のプログラムに入るかどうかは、公式サイトで確かめてほしい。
最寄り駅は南海高野線(汐見橋線)の木津川駅で、地図上では歩いて6分ほどの距離にある。運行本数が多い路線ではないので、時刻を調べてから出かけたい。公開日以外に訪れた場合は、道路から外観を眺めるだけになる。門の前では車両や従業員の出入りを妨げないよう気をつけてほしい。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)久金属工業事務所
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013599
- 国指定文化財等データベース(文化庁)久金属工業正門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013607
- 国指定文化財等データベース(文化庁)久金属工業守衛室
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013603
- 国指定文化財等データベース(文化庁)久金属工業技術室
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013602
- 国指定文化財等データベース(文化庁)久金属工業旧社長室
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013600
- 国指定文化財等データベース(文化庁)久金属工業品質管理室
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013601
- 国指定文化財等データベース(文化庁)久金属工業旧倉庫
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013605
- 国指定文化財等データベース(文化庁)久金属工業旧第一工場
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013604
- 国指定文化財等データベース(文化庁)久金属工業旧防空壕
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013606
- 文化遺産オンライン 久金属工業事務所
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/579826
- 久金属工業株式会社 本社建造物
- https://www.hisakinzoku.co.jp/structure/
- 久金属工業株式会社 沿革
- https://www.hisakinzoku.co.jp/history/
- 大阪市 修景事例紹介「久金属工業株式会社」
- https://www.city.osaka.lg.jp/toshiseibi/page/0000563596.html
- 大阪市 生きた建築ミュージアム・大阪セレクション 久金属工業株式会社 社屋
- https://www.city.osaka.lg.jp/toshiseibi/page/0000649779.html
- 大阪文化財ナビ 久金属工業株式会社
- https://osaka-bunkazainavi.org/bunkazai/%E4%B9%85%E9%87%91%E5%B1%9E%E5%B7%A5%E6%A5%AD%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE
- 生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2024 久金属工業株式会社
- https://ikenchiku.jp/ikefes2024/program/hisakin/
- 生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2026
- https://ikenchiku.jp/ikefes2026/
最終更新日: 2026.09.23
基本情報
| 名称 | 久金属工業 |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府大阪市西成区北津守三丁目52 |
| 所有者 | 合名会社ヒサ・コーポレーション |
| 指定 | 登録有形文化財 9件 |
| 座標 | 34.65178, 135.48238 |