はじめに

佐賀県小城市牛津町、旧長崎街道沿いに静かにたたずむ牛津町会館(旧田中丸家住宅)は、大正時代の住宅建築の粋を今に伝える貴重な建造物です。九州財界の雄として知られ、玉屋デパートの基礎を築いた田中丸善蔵の本宅として建設されたこの邸宅は、2001年(平成13年)に国の登録有形文化財に登録されました。豪壮な外観と繊細な数寄屋風の内装が調和するこの建物は、かつて「西の浪花」と称された商都・牛津の栄華を物語る象徴的な存在です。

歴史的背景

田中丸家の歴史は、1806年(文化3年)に初代・田中丸市衛が肥前国小城郡牛津村の西町で荒物店「田中丸商店」を開業したことに始まります。1866年(慶応2年)、わずか14歳で家督を継いだ初代・田中丸善蔵は、事業を呉服商へと転換し、京都・大阪の呉服問屋との直接現金取引によって財を成しました。「九州の商王」と称されるまでに事業を拡大し、その基盤の上に二代目・田中丸善蔵が佐世保、福岡、佐賀、小倉へと百貨店「玉屋」を展開しました。

牛津は江戸時代、長崎街道の13番目の宿場町として栄えた地です。有明海に面した港町であり、佐賀平野西部の米の積出港として繁栄しました。「一(市)は高橋、二(荷)は牛津」と謳われ、水陸交通の要衝として荷受問屋や卸問屋が軒を連ね、「西の浪花」と呼ばれるほどの商業的な賑わいを見せていました。田中丸家の邸宅は、このような商都牛津の繁栄を背景に、大正時代初期(1912年〜1925年頃)に建設されました。

文化財指定の理由

牛津町会館(旧田中丸家住宅)は、2001年(平成13年)8月28日に登録有形文化財(建造物)として登録されました(登録番号:41-0025)。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」です。

文化庁による解説では、九州の財界人として著名な田中丸善蔵の本宅として建設されたこと、中央の玄関棟を挟んで南に座敷棟、北に居室棟を配する特徴的な平面構成、その平面に合わせて複雑な屋根を架ける構造、豪壮な外観に対して繊細な木割の数寄屋風にまとめられた内部意匠、そして近代の牛津を代表する建物であることが評価されています。

また、2005年(平成17年)11月18日には「22世紀に残す佐賀県遺産」にも認定されており、地域の文化的アイデンティティを形成する重要な存在として高く評価されています。

建築的特徴と見どころ

建築面積は約410平方メートルに及ぶ木造2階建て、瓦葺の大規模な住宅建築です。大正時代の九州における裕福な商家の暮らしぶりを伝える貴重な建造物といえます。

建物は大きく三つの部分から構成されています。中央に玄関棟を置き、南側には座敷棟が配されています。座敷棟には広間があり、その脇には茶室が設けられています。北側には居室棟が置かれ、日常生活の空間として使われていました。南棟と北棟は畳廊下でつながれており、公式な接客空間と私的な生活空間が巧みに融合しています。

この建物の最大の特徴は、外観と内部のデザインの見事なコントラストにあります。外部からは、各部屋の配置に合わせて複雑に組み合わされた大屋根が力強く連なり、豪壮な印象を与えます。一方で内部に足を踏み入れると、繊細な木割の数寄屋風意匠が展開し、茶の湯の美意識に通じる静謐で洗練された空間が広がります。

庭園も見どころの一つです。もともとの庭園は、国の名勝「九年庵」(神埼市)の庭園を手がけたことでも知られる福岡県久留米市の誓行寺の阿(ほとり)和尚による作庭で、松と槙を配した格式高い庭園でした。残念ながら太平洋戦争時の空襲により当時の庭園は破壊されてしまいましたが、現在も美しい日本庭園として整備されています。庭園内には、田中丸家の祖である初代・田中丸善蔵の銅像が建てられており、商家の歴史を偲ぶことができます。

見学案内

牛津町会館は現在、小城市が管理する公共施設(集会場)として利用されています。建物の外観と庭園は常時見学が可能です。館内の見学については常時公開は行っていませんが、管理人がいる場合には内部を見学させていただけることがあります。館内見学を希望される場合は、事前に小城市教育委員会文化課までお問い合わせください。

隣接する牛津赤れんが館(旧田中丸商店れんが造り倉庫)も国の登録有形文化財であり、あわせて見学されることをおすすめします。この二つの建造物は、かつての商都・牛津の繁栄を物語る佐賀県の貴重な文化遺産です。

最寄り駅はJR長崎本線の牛津駅で、駅から徒歩約10分です。お車でお越しの場合は、敷地内に駐車場がございます。

周辺情報

牛津町会館の周辺には、小城市ならではの見どころが数多くあります。

  • 牛津赤れんが館(旧田中丸商店れんが造り倉庫):牛津町会館に隣接する明治時代の赤レンガ倉庫。オランダ積みのレンガ造りと「むくり屋根」が特徴的で、国の登録有形文化財に登録されています。展示やコンサートなどの会場として活用されています。
  • 小城公園:約3,000本の桜が植えられた佐賀県有数の花見スポット。小城藩主・鍋島家ゆかりの日本庭園も見どころです。
  • 清水の滝:落差約75メートルの美しい滝。周辺には鯉料理の名店が軒を連ね、夏場には涼を求める人々で賑わいます。
  • 村岡総本舗羊羹資料館:小城羊羹の歴史と製造工程を紹介する資料館。明治時代のレンガ造りの建物を改装した施設で、羊羹の試食も楽しめます。
  • 旧長崎街道:牛津を通る歴史ある街道の面影を今に伝える散策路。かつてシーボルトや象が行き交ったとされるこの道を歩けば、往時の賑わいを偲ぶことができます。

Q&A

Q牛津町会館(旧田中丸家住宅)とはどのような建物ですか?
A玉屋デパートの創始者として知られる田中丸善蔵の本宅として大正時代に建てられた木造2階建ての住宅建築です。2001年に国の登録有形文化財に登録され、現在は小城市が管理する公共施設(牛津町会館)として利用されています。
Q館内の見学はできますか?
A外観と庭園は常時見学できます。館内は常時公開していませんが、管理人がいらっしゃる場合は見学に対応していただけることがあります。見学を希望される場合は、事前に小城市教育委員会文化課(TEL:0952-73-8809)にお問い合わせください。
Qアクセス方法を教えてください。
AJR長崎本線の牛津駅から徒歩約10分です。お車の場合は敷地内に駐車場があります。住所は佐賀県小城市牛津町牛津586-1です。
Q建物の建築的な特徴は何ですか?
A建築面積約410平方メートルの木造2階建て・瓦葺の大規模住宅です。中央の玄関棟を挟んで南に座敷棟、北に居室棟を配し、複雑な屋根を架けた豪壮な外観が特徴です。内部は茶の湯の美意識を反映した繊細な数寄屋風の意匠にまとめられています。
Q庭園の見どころは何ですか?
A庭園はもともと、国の名勝「九年庵」の庭園も手がけた誓行寺の阿(ほとり)和尚による作庭でした。太平洋戦争の空襲で当時の庭園は破壊されましたが、現在も美しい日本庭園が整備されており、園内には初代・田中丸善蔵の銅像が建立されています。

基本情報

名称 牛津町会館(旧田中丸家住宅)
よみがな うしづちょうかいかん(きゅうたなかまるけじゅうたく)
指定区分 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 2001年(平成13年)8月28日
登録番号 41-0025
登録基準 国土の歴史的景観に寄与しているもの
時代 大正時代初期(1912年〜1925年頃)
構造 木造2階建、瓦葺、建築面積約410㎡
種別 住居建築
所在地 〒849-0302 佐賀県小城市牛津町牛津586-1
所有者 小城市
アクセス JR長崎本線 牛津駅より徒歩約10分
お問い合わせ 小城市教育委員会 文化課 TEL:0952-73-8809

参考文献

文化遺産オンライン – 牛津町会館(旧田中丸家住宅)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/139591
国指定文化財等データベース – 牛津町会館(旧田中丸家住宅)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002321
小城市の文化財(登録有形文化財) – 小城市役所
https://www.city.ogi.lg.jp/main/9887.html
牛津赤れんが館(Akarengakan) – オギナビ|小城市観光協会
https://www.ogi-kankou.com/tourist/akarengakan.html
玉屋 (百貨店) – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8E%89%E5%B1%8B_(%E7%99%BE%E8%B2%A7%E5%BA%97)

最終更新日: 2026.04.13