横道川に面して建つ造り酒屋の顔
津和野町西部、旧日原の左鐙を流れる横道川沿いの通り。その北側に、下森酒造場の建物群が並ぶ。中央に南面して構えるのが店舗兼主屋である。明治前期、およそ1868年から1911年の間に建てられた木造二階建で、桁行約15メートル、梁間約9.8メートル。かつて酒を商った店と、造り手の暮らしの場とが一棟に収まる。
屋根は入母屋造。四周に下屋庇をまわし、正面中央には一段小さな入母屋屋根を突き出して、通りへ向かう軸を示す。西側は土間として店舗にあて、東側には六間取の床上部を設ける。商いの空間と居住の空間が、ひとつの平面のなかで役割を分け合う構成である。
登録の理由
2008年7月、下森酒造場の七棟が国の登録有形文化財となった。うち六棟が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録されたのに対し、店舗兼主屋のみは「造形の規範となっているもの」の基準で登録されている。古さよりも、造作の質を評価した位置づけである。
その根拠は座敷にある。トコや違棚の意匠に良質な仕事が見られ、地方の造り酒屋が主室に込めた格式が読み取れる。登録は、建物が建物群の中心を担う役割とともに、この内部の造作を守る意味を持つ。
見どころ
まず屋根を見上げたい。正面中央に張り出す入母屋は装飾のためではなく、出入りの軸を示し、長い正面に重心を与えている。店の土間から東の床上部へと移る空間の切り替えは、酒造家が一日をどう組み立てたか、表の商いと奥の暮らしの分け方を伝える。
酒蔵は現役で営まれているため、敷地内は私有地として扱い、外観は通りから眺めるのがよい。店舗兼主屋を中心に、旧酒蔵、旧米蔵、旧精米所、土蔵、門、そして高い鉄筋コンクリート造の煙突が集まる。石州赤瓦に覆われたこれらを一群として見渡せることに、この地を訪ねる価値がある。
Q&A
- 店舗兼主屋はいつ建てられたのですか。
- 明治前期、1868年から1911年の間です。正確な建築年は公的記録に残らず、資料では年代で示されています。
- なぜこの棟だけ登録基準が異なるのですか。
- 七棟のうち店舗兼主屋のみが「造形の規範」の基準で登録されました。主室の造作の質が主な理由です。
- 内部を見学できますか。
- 現役の酒造場であり一般の見学公開は行われていません。外観を通りから眺めるかたちになります。
- 場所はどこですか。
- 島根県西部、旧日原地区の津和野町左鐙です。横道川沿いにあり、津和野の城下町中心部とは離れています。
基本情報
| 名称 | 下森酒造場店舗兼主屋 |
|---|---|
| 所在地 | 島根県鹿足郡津和野町左鐙字立山ノ麓992 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 2008年7月8日(告示7月23日) |
| 登録番号 | 32-0075 |
| 時代 | 明治前期(1868-1911) |
| 構造 | 木造2階建、瓦葺、建築面積164㎡、桁行約15m・梁間約9.8m |
| 登録基準 | 造形の規範となっているもの |
| 公開状況 | 現役の酒造場。外観は通りより見学可 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) — 下森酒造場店舗兼主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007310
- 津和野文化ポータル — 津和野町の登録文化財
- https://tsuwano-bunka.net/cultural-property/
- Sakenomy — 合名会社下森酒造場
- https://www.sakenomy.jp/brewery/K01N032033/
最終更新日: 2026.07.06