米蔵の妻に据えられた鏝細工の鶏

下森酒造場の旧米蔵、その東正面上部を見上げると、鶏がいる。妻の高いところに漆喰で盛り上げられた、鼓の上にとまる一羽。これは鏝細工、鏝で湿った漆喰に直接かたちを起こす左官の技であり、素朴な貯蔵蔵の正面を、建物群のなかで最も静かに雄弁な一面へと変えている。

蔵そのものは土蔵造の平屋建。貴重品を守るために築かれる厚壁の形式で、ここでは酒造の原料である米を収めた。明治期、1868年から1911年の間に建てられ、店舗兼主屋の西南に東西棟で建つ。桁行9.2メートル、梁間5.1メートル、建築面積は約47平方メートル。切妻造の桟瓦葺で、東正面に庇、北面中央に瓦の水切りを設け、それぞれを出入口とする。腰はモルタル塗、上部は白漆喰で仕上げる。

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この意匠には名と由来がある。諫鼓鶏である。中国の古い政治思想に基づく図柄で、賢明な君主は門前に太鼓を据え、訴えのある民が打って直訴できるようにしたという。世が平らかに治まると太鼓は長く打たれず、やがて鶏がそこにとまって巣くう。その情景を建物に象ることは、繁栄と安寧を願うことにあたり、穀物の蔵の上にふさわしい主題となる。

訪ねる者にとって、この鏝細工は左官技術の手がかりでもある。2008年の登録は、旧米蔵を歴史的景観への寄与として評価した。この漆喰の鶏のような細部こそが、現役の酒造場を単なる機能的な施設ではなく、固有の表情を持つ場としている。

見どころ

まず東正面に立ちたい。漆喰の鶏はゆっくり眺めるほど応える。鶏冠や尾の造形に目を凝らす価値がある。次に一歩下がると、旧米蔵がすぐ西の旧精米所と一連に並び、通りに沿って連続した端正な正面を形づくっていることが見えてくる。

建物は現役の酒造場に属するため、通りにとどまり外観のみを見学したい。建物群に共通する石州赤瓦の下で、白漆喰の米蔵は、この一画を立ち止まって見る価値のある小さな驚きのひとつを抱えている。

Q&A

Q妻の鶏は何ですか。
A諫鼓鶏です。太鼓の上にとまる鶏で、平穏に治まった世を表す古い象徴です。ここでは鏝細工の漆喰浮彫で表されています。
Q何を収めた蔵ですか。
A酒の原料である米です。厚壁の土蔵造が、火と湿気から穀物を守りました。
Q旧米蔵はどれくらい古いのですか。
A明治期、1868年から1911年の間の建築です。登録では正確な年ではなく年代で示されています。
Q鏝細工は間近で見られますか。
A東妻の外部にあり、通りから見えます。酒造場は私的な事業のため、外から眺めてください。

基本情報

名称下森酒造場旧米蔵
所在地島根県鹿足郡津和野町左鐙字立山ノ麓992
指定区分登録有形文化財(建造物)
登録年月日2008年7月8日(告示7月23日)
登録番号32-0079
時代明治期(1868-1911)
構造土蔵造平屋建、瓦葺、建築面積47㎡、桁行9.2m・梁間5.1m
登録基準国土の歴史的景観に寄与しているもの
公開状況現役の酒造場。外観は通りより見学可

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) — 下森酒造場旧米蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007314
津和野文化ポータル — 津和野町の登録文化財
https://tsuwano-bunka.net/cultural-property/
Sakenomy — 合名会社下森酒造場
https://www.sakenomy.jp/brewery/K01N032033/

最終更新日: 2026.07.06