三棟の中央に挟まれた木造三階建

加登屋旅館別館は、栃木県那須塩原市板室字塩沢にある昭和12年(1937年)頃の木造旅館建築で、平成28年(2016年)2月25日に国の登録有形文化財に登録された。

単独では成立しない建物である。大正8年(1919年)建立と伝わる本館と、昭和27年(1952年)築の悠仙閣に挟まれ、三棟同時に登録された。板室温泉の道を上がって加登屋の前に立つと、三棟が連続した一枚の木造壁面として現れ、各棟の床レベルと軒高がわずかにずれながら並ぶ。

規模は間口4.545メートル、奥行7.272メートル。京間の割りでいえば二間半×四間にあたる。屋根は寄棟造、鉄板瓦棒葺。建築面積33平方メートルの敷地面積の上に三層を積む。

昭和48年(1973年)、本館・悠仙閣と内部で接続され、三棟が一体として運用されるようになった。以後この別館に独立した入口はない。到達経路は内部廊下のみである。

洋風意匠の混入と、三階に残る旧状

内部は簡素である。各階とも客室とし、座敷飾を備えた和室を並べる。床構えや違い棚を備えつつ、装飾の密度は抑えられている。

外観の方針は異なる。壁面の一部をドイツ壁風の粗い掻き落とし仕上げとし、側面には上下窓を入れる。日本人大工が日本人客のために建てた旅館に、明確に洋風の建具と仕上げを差し込んでいる。大正後半から昭和初期にかけて流行した折衷であり、別館はこれを取り入れ、前後の二棟は取り入れなかった。

その痕跡の多くは、現在使用されていない三階部分に残る。10畳の客室の西・北・東の三方に廊下が廻り、西側広縁には階段跡が残る。上下窓が一部現存し、窓枠にはペンキ塗りであった痕跡が認められ、東側出窓上の外壁部分にはドイツ壁が残っている。

細部に二点、注意しておきたい箇所がある。三階客室の違い棚に用いられた海老束が珍しい形状をとること。もう一点は廊下角の吹き寄せ竿縁天井で、隅を留めずに扇張りとしていることである。いずれも当時の旅館建築における造作の水準を示す部分で、簡素という全体評価だけでは捉えきれない。

登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。那須塩原市の解説はその理由を明示している。昭和53年(1978年)の大火で板室の木造旅館の多くが焼失した中、加登屋旅館は残った。評価の対象は突出した一棟ではなく、大正・昭和初期・戦後の三段階が建てられた順序のまま連続して残っている状態そのものである。

板室温泉と訪問時の留意点

板室温泉は、那珂川の支流である湯川沿いの山峡に開けた湯治場で、康平2年(1059年)の発見と伝わる。泉質はアルカリ性単純泉。古来より神経痛やリウマチに効くとされ「下野の薬湯」と呼ばれ、国民保養温泉地に指定されている。加登屋旅館は温泉街の最も奥まった位置、道が尽きる地点に建つ。

訪問には確認を要する。別館には街路に面した入口がなく、単独の見学設定もない。近年は三棟の宿泊利用そのものが縮小している。加えて、旅館が現在「別館」の呼称で案内している宿泊棟は鉄筋コンクリート造の別建物であり、登録対象の別館とは異なる。実見や宿泊を希望する場合は、加登屋旅館へ直接連絡のうえ、登録建造物を名指しで確認するのが確実である。

常時可能なのは街路からの外観見学である。道路から三棟を一望でき、これは登録の趣旨そのものにあたる。公道からの撮影は自由だが、敷地内への立ち入りと宿泊客の撮影は控えたい。

東京からの所要は約2時間30分。東北新幹線で那須塩原駅まで約70分、在来線で黒磯駅まで5分、黒磯駅からバスで板室温泉まで約35分。那須塩原駅西口を発着する便もある。車の場合、東北自動車道黒磯板室インターチェンジから約20分。谷筋のバスは本数が限られるため、到着後ではなく出発前に時刻を確認しておきたい。

Q&A

Q加登屋旅館別館に宿泊したり見学したりできますか。
A登録対象の別館には独立した入口がなく、隣接する本館または悠仙閣からの内部廊下でのみ通じます。近年は三棟の宿泊利用が縮小しています。旅館は鉄筋コンクリート造の別建物にも「別館」の呼称を用いているため、直接問い合わせて登録建造物を名指しで確認してください。
Q加登屋旅館別館はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A文化庁のデータベースは年代を昭和12年(1937年)頃、昭和48年(1973年)改修としています。那須塩原市は「大正後半から昭和初期の建築と考えられる」とより幅を持たせた記述をしています。登録は平成28年(2016年)2月25日、登録番号09-0222で、本館・悠仙閣と同時です。
Q加登屋旅館別館の洋風意匠とは具体的に何を指しますか。
A壁面のドイツ壁風仕上げと、側面に設けられた上下窓です。現在使われていない三階部分に、上下窓の現物、窓枠のペンキ塗り痕、東側出窓上外壁のドイツ壁が残っています。室内は座敷飾を備えた和室で構成されており、和洋の折衷が外皮に集中する構成です。
Q加登屋旅館別館のある板室温泉へはどう行きますか。
A東北新幹線で那須塩原駅まで約70分、在来線で黒磯駅まで5分、黒磯駅からバスで板室温泉まで約35分です。那須塩原駅西口発の便もあります。車では東北自動車道黒磯板室インターチェンジから約20分。バスは本数が少ないため事前に時刻の確認が必要です。
Q加登屋旅館別館はなぜ文化財として評価されたのですか。
A登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」です。昭和53年(1978年)の大火で板室の木造旅館の多くが失われた中、大正8年の本館、昭和12年頃の別館、昭和27年の悠仙閣が建設順のまま連続して残り、湯治場の景観を構成している点が評価されました。

基本情報

名称加登屋旅館別館(かどやりょかんべっかん)
所在地栃木県那須塩原市板室字塩沢854他(那須塩原市は旅館所在地を板室字塩沢859と記載)
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号09-0222/登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」
指定年平成28年(2016年)2月25日登録・告示(第83回登録)
員数1棟
寸法木造3階建、鉄板葺、建築面積33平方メートル。間口4.545メートル、奥行7.272メートル
所有者個人所有
公開状況独立した入口はなく、公道からの外観見学のみ。登録建造物への立ち入りは旅館へ要確認

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)/加登屋旅館別館
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010915
文化遺産オンライン/加登屋旅館別館
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/284116
文化遺産オンライン/加登屋旅館本館
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/254505
那須塩原市生涯学習課/加登屋旅館
https://www.city.nasushiobara.tochigi.jp/soshikikarasagasu/shogaigakushuka/bunkazai/2/6/2615.html
那須塩原市/交通アクセス
https://www.city.nasushiobara.tochigi.jp/soshikikarasagasu/shoko/shinoprofile/2767.html

最終更新日: 2026.08.24