箸蔵寺高灯籠 ― 吉野川を見下ろす、二層の木造灯籠
日本の灯籠といえば、参道脇に石を積んで火袋を載せた、せいぜい人の腰高ほどのものを思い浮かべる方が多いだろう。徳島県三好市の箸蔵寺にある高灯籠は、その先入観をきれいに裏切る。屋根は瓦葺、柱は木造、二層に組み上げられた建物そのものに近い灯籠が、吉野川を見下ろす丘の上に立っている。
明治17年(1884年)の建立。かつては夜になると灯がともされ、四国一の大河・吉野川を行き来する舟の目印になっていた。現在は仁王門前の駐車場のすぐそばに静かに立ち、本殿へと続く参詣の最初の一歩を迎える役目を果たしている。
明治期に試みられた、特異な灯籠建築
箸蔵寺は文政9年(1826年)の火災で多くを失い、再建が進められた寺院である。本殿や護摩殿、方丈などの主要伽藍は江戸末期から幕末にかけて整えられ、その流れの末尾に明治期の付属建築群が続いた。高灯籠も、仁王門・中門・手水舎とともにこの最終段階で建てられた一棟である。
この灯籠が研究者の関心を引くのは、寺院建築の語彙を惜しげなく取り込んだ点にある。形は方一間、宝形造の瓦葺屋根。下部には袴腰と呼ばれる末広がりの腰壁を巻き、北面の出入口には唐破風屋根を架ける。これは通常、格式ある門や社殿にしか用いられない装飾である。
細部を見ていくと、二層で組物の手法が切り替わる点が面白い。下重は出組と呼ばれる一手先の組物で軒を支え、その軒は扇垂木――一点から放射状に開く垂木――で構成されている。これに対し上重は絵様を施した肘木を用い、二軒繁垂木という、間隔を詰めた二段の垂木で軒裏を埋める。上層は方一間、柱と天井を漆喰で塗り込め、四面それぞれに花頭窓を開く。建築面積はわずか15平方メートルでありながら、装飾的な情報量は相当なものだ。
登録有形文化財への登録
平成23年(2011年)10月28日、高灯籠は国の登録有形文化財(建造物)に登録された。同じ日に登録されたのは、箸蔵寺の仁王門、中門、手水舎の三棟である。登録制度は平成8年(1996年)に始まった比較的新しい仕組みで、近代建築を含む幅広い範囲の建造物を緩やかに保護することを目的とする。すでに重要文化財に指定されていた本殿、護摩殿、方丈、薬師堂、鐘楼、天神社(平成16年指定)に、この登録四棟が加わったことで、箸蔵寺の文化財建築の全体像がほぼ揃ったことになる。
文化庁の解説は、この灯籠を「特異な形式の木造灯籠」と一言で表現している。寺院本堂や山門で用いられる組物・垂木・破風の手法を、灯籠というごく小さな建物に凝縮した例は、全国の寺社境内を見渡してもそう多くはない。
訪ねたときに見ておきたいところ
高灯籠は標高約405メートルの地点、車で上がれる道の突き当たりに位置する。手前の駐車スペースに車を停め、48段の石段を上がれば仁王門に出る。徒歩で本殿へ向かう参拝者にとって、最初に出会う本格的な箸蔵寺建築がこの灯籠ということになる。
足を止めて確かめたいのは次の三点である。
- 下重と上重で異なる軒の表情。放射状に開く扇垂木と、整然と並ぶ繁垂木とでは、見上げたときのリズムがまったく違う。同じ建物の上下で、別種の木組みを楽しめる構成は珍しい。
- 北面入口の唐破風。曲線は控えめだが、平凡な戸口ではなく儀礼的な入口として灯籠を性格づけている。
- 花頭窓越しに覗く上層内部の漆喰。外側の木部の濃い色と、内部の白漆喰のコントラストが、夜に灯がともった姿を想像させる。
灯籠が立つ丘からは、眼下に吉野川の流れが見渡せる。蛇行する川面と河岸段丘の関係が一望でき、なぜ舟人が川面ではなく丘の上の灯を頼りにしたのか、現地に立つと自然に納得できる。
周辺の見どころ
箸蔵寺は、灯籠と仁王門の先にこそ本領がある。平成16年に重要文化財に一括指定された本殿・護摩殿・方丈・薬師堂・鐘楼・天神社の六棟は、いずれも江戸最末期の作で、傾斜地を活かした複雑な配置と装飾彫刻の濃密さに見応えがある。なかでも護摩殿では、開創以来千二百年絶やしたことがないと伝えられる朝夕の護摩行が今日も続けられている。仁王門から本殿までは769段の石段。徒歩で登りきるには30分ほどを見ておきたい。
箸蔵山ロープウェイを使えば、山麓駅から方丈脇の山上駅まで、高低差342メートルを約4分で運んでくれる。ロープウェイは高灯籠と仁王門の真上を通る経路で、空中から灯籠の屋根を見下ろす視点が得られる。ただし、ロープウェイ乗り場と高灯籠の駐車スペースは別の登山ルートにあり、車で約3.7キロ離れている点には注意が必要だ。
春の桜(約400本)、11月12日の秋季大祭にあわせた紅葉、8月4日の箸供養(柴灯大護摩・火渡り)と、季節ごとの行事も豊富である。JR土讃線の坪尻駅は「秘境駅」として鉄道ファンに知られる無人駅で、箸蔵寺参拝の前後に立ち寄る旅程を組む人も多い。
Q&A
- 高灯籠は中に入れますか?
- 外観は四方から自由に見学できますが、内部は非公開です。駐車場から仁王門へ向かう道すがら、各面の意匠をじっくり観察できます。
- 「重要文化財」と「登録有形文化財」はどう違うのですか?
- 重要文化財は厳格な保存義務を伴う指定制度であるのに対し、登録有形文化財は平成8年に始まった登録制度で、緩やかな規制のもと幅広い建造物を保護対象とします。近代以降の建築でも対象になる点が特徴で、箸蔵寺では江戸末期建築は重文、明治期建築は登録という棲み分けがされています。
- 灯籠を見たあと、本殿まで登るのは大変ですか?
- 仁王門から本殿まで769段あり、徒歩なら片道30分前後を見ておく必要があります。脚に自信がない場合は、別ルートからロープウェイで方丈まで上がる方法があります。その場合でも方丈から本殿までは「般若心経昇経段」と呼ばれる278段が残ります。
- 訪れるのにおすすめの時期はいつですか?
- 桜が見頃を迎える4月上旬、紅葉と秋季大祭が重なる11月中旬が特におすすめです。8月4日の箸供養では火渡り神事も行われ、多くの参拝者で賑わいます。
- 公共交通機関でのアクセスは可能ですか?
- JR土讃線の箸蔵駅から箸蔵山ロープウェイ登山口駅まで徒歩約500メートル、そこから山上まではロープウェイで約4分です。ただし高灯籠と仁王門は別ルート上にあり、車道で約3.7キロ離れています。灯籠単独で訪れる場合はJR阿波池田駅からのタクシー利用が便利です。
基本情報
| 名称 | 箸蔵寺高灯籠(はしくらじたかとうろう) |
|---|---|
| 所在地 | 徳島県三好市池田町州津蔵谷1006他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成23年(2011年)10月28日 |
| 建立年 | 明治17年(1884年) |
| 構造 | 木造二重灯籠、瓦葺、建築面積15㎡ |
| 員数 | 1棟 |
| 所有者 | 宗教法人箸蔵寺 |
| アクセス | JR土讃線箸蔵駅から箸蔵山ロープウェイ登山口駅まで徒歩約500m。高灯籠そのものは仁王門前の駐車場脇に立ち、車またはタクシーでアクセス可能。 |
参考文献
- 箸蔵寺高灯籠 ― 文化遺産オンライン(文化庁)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/237656
- 国指定文化財等データベース ― 箸蔵寺高灯籠
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009066
- 箸蔵寺本殿 ― 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/191713
- 箸蔵寺 ― Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/箸蔵寺
- 四国別格二十霊場 第15番 箸蔵寺 ― ツーリズム四国
- https://shikoku-tourism.com/event/20615
最終更新日: 2026.05.16