刻みたばこの町に建つ明治の町家

佐藤家住宅主屋は、徳島県三好市池田町マチにある明治29年(1896年)建築の木造二階建の町家で、平成28年(2016年)11月29日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

名称について先に断っておきたい。全国には同名の佐藤家住宅が複数あり、徳島県内にも東へ八十キロほど離れた徳島市入田町に別件の登録物件が存在する。本項が扱うのは三好市池田町マチ2343、登録番号36-0147の一棟である。

建物は町家である。道路に面する間口を狭く、奥行を深くとり、正面に商いの場を、その背後に居住空間を置く。棟と平行な面を正面とする平入で、屋根は本瓦葺。建築面積は119平方メートル。

平面は当地の標準的な構成に従う。正面右手にミセを配し、左手に通り土間を通す。この通り土間が半間幅しかない。町家の類型としてはかなり狭い部類で、間口の制約が平面に直接あらわれている。ミセの背後には一〇畳間を介して中庭が開き、二階は四室からなる。

登録基準と町の成り立ち

登録基準は「造形の規範となっているもの」。ある類型を明快に示す作例に適用される基準で、この住宅の場合、評価の根拠は正面外観に集中している。

要素は二つある。ひとつは袖うだつ。軒先の脇に張り出す防火壁で、隣家からの延焼を遮る目的をもつ。費用がかかり、しかも道路から見える位置にあるため、商家の資力を示す装置としても機能した。吉野川流域はうだつを備えた町家がまとまって残る地域として知られる。もうひとつは海鼠壁。方形の平瓦を並べ、目地に漆喰をかまぼこ状に盛り上げる仕上げで、その断面がナマコに似ることから名がついた。この住宅では一階の袖壁を漆喰塗とし、その脇に海鼠壁を配する。同じ通りに並ぶ町家のなかでも、顔つきの識別できる外観になっている。

背景にはたばこ産業がある。江戸期から阿波西部の山間では葉たばこの耕作が盛んで、その葉は阿波葉、刻んだ製品は阿波刻みと呼ばれた。四国山地の道が吉野川で交わる池田は集散地となり、幕末から明治にかけて大きく潤う。最盛期には町内に百軒を超える刻みたばこ業者があったと伝えられる。旧街道沿いの町家群はその富の上に建った。この一棟が普請されたのは明治29年である。

平成28年11月29日には、池田地区の建造物7件がまとめて登録されている。四軒ほど西のマチ2339-1に建つ宮本家住宅主屋(明治31年から45年頃)もこのときの登録で、通りの南面には同じ構成の町家が並ぶ。個別の一棟ではなく群として登録された経緯は、この街路の価値がどこにあるかをよく示している。

見どころ

旧街道、地元でうだつの町並みと呼ばれる通りを歩き、立面を互いに比較しながら読むのがいい。佐藤家住宅は右手にミセの開口、左手に土間の入口をとる。この配列が頭に入ると、左右を入れ替えた家、構成を崩した家がにわかに見えてくる。地域の作法が一貫しているぶん、外れた例が際立つ。

軒先には袖うだつを探す。同じ機能でありながら、張り出しの寸法や漆喰の厚みは家ごとに違う。その違いは、各戸が自分をどう見せたかったかの指標として読める。

海鼠壁は目地を近くで見たい。かまぼこ状に盛り上げた漆喰は手仕事で、稜線の切れ、断面のそろい、瓦の角での納まりに職人の技量が出る。雨のあたり方と補修の履歴によって、通りのなかでも区画ごとに状態が異なる。

実用情報は、この物件については丁寧に区別して書く必要がある。佐藤家住宅主屋は個人の住宅であり、内部は公開されていない。拝観時間も拝観料も設定がなく、屋内に入ることはできない。いっぽう建物の正面は、市が歴史的町並みとして案内する公道に面している。外観を眺めること、公道から写真を撮ることに問題はない。敷地への立入りと、戸口越しに内部を撮影する行為は避けること。

同じ類型の内部を見たい場合は、通りを数分進んだところにある阿波池田うだつの家・たばこ資料館がよい。マチ2465-1の旧真鍋家住宅を用いた施設で、市指定有形文化財にあたる。旧刻みたばこ作業場が資料館として公開され、たばこ産業に関わる資料およそ200点が並ぶほか、庭園と離れ座敷も見学できる。開館日や入館料は訪問前に市の案内で確認したい。

アクセスは、地方の歴史的街路としてはかなり良好である。JR土讃線の阿波池田駅から旧市街まで徒歩5分ほど、徳島自動車道の井川池田インターチェンジからは車で5分ほどの距離にある。

Q&A

Q佐藤家住宅主屋(三好市池田町)は見学できますか。
A外観は市が案内する旧街道沿いにあり、公道から見ることができます。ただし個人の住宅で内部は公開されておらず、拝観時間・拝観料の設定もありません。敷地内には立ち入らないでください。
Q佐藤家住宅主屋は徳島市の佐藤家住宅と同じ文化財ですか。
A別件です。本項の主屋は三好市池田町マチ2343、登録番号36-0147で平成28年の登録。徳島市入田町の佐藤家住宅は隠居屋と門柱が平成26年に登録されたもので、関係はありません。
Q佐藤家住宅主屋の袖うだつとはどのようなものですか。
A正面の脇、軒の高さで張り出す防火壁です。隣家からの延焼を防ぐためのもので、費用がかかり道路からよく見えることから、商家の資力を示す意味も帯びました。吉野川流域はうだつを備えた町家が多く残る地域です。
Q佐藤家住宅主屋はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A明治29年(1896年)の建築で、登録は平成28年(2016年)11月29日付、第85回登録です。このとき池田地区の建造物7件がまとめて登録されました。
Qなぜ池田町マチには佐藤家住宅のような町家が並んでいるのですか。
A池田は阿波西部の山間で採れた葉たばこの集散地で、阿波刻みと呼ばれる製品によって幕末から明治にかけて栄えました。最盛期には百軒を超える刻みたばこ業者があったと伝えられ、旧街道沿いの町家群はその時期に建てられています。
Q佐藤家住宅主屋のある池田の町並みへはどう行きますか。
AJR土讃線の阿波池田駅から徒歩5分ほど、徳島自動車道の井川池田インターチェンジから車で5分ほどです。同じ通りには内部を見学できる阿波池田うだつの家・たばこ資料館があります。

基本情報

名称佐藤家住宅主屋(さとうけじゅうたくしゅおく)
所在地徳島県三好市池田町マチ2343
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号36-0147/登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年平成28年(2016年)11月29日登録(第85回登録)
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積119平方メートル/明治29年(1896年)建築
所有者個人(国のデータベースに所有者名の記載なし)
公開状況非公開。個人住宅のため内部見学不可、公道から外観の見学は可能

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「佐藤家住宅主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00011418
文化遺産オンライン「佐藤家住宅主屋」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/254875
文化遺産オンライン「宮本家住宅主屋」(同日登録の隣接物件)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/221144
三好市教育委員会「三好市の文化財」
https://www.miyoshi.i-tokushima.jp/education/category/bunya/bunka/bunkazai/
大歩危祖谷ナビ「うだつの町並み・阿波池田うだつの家たばこ資料館」
https://miyoshi-tourism.jp/spot/udatsunomachinamiawaikedaudatsunoietabakosiryokan/

最終更新日: 2026.08.05