蔵人が冬を過ごした建物
中和商店杜氏宿舎は、徳島県三好市池田町サラダにある大正15年(1926年)頃の木造二階建の宿舎で、令和元年(2019年)12月5日に国の登録有形文化財となった。
敷地の東端に建ち、西面の南半が酒造蔵と接する。建築面積82平方メートル、切妻造の桟瓦葺。この敷地に登録された四棟のうち最も小さい。人を住まわせるために建てられた建物であり、そこに住んだ人々は池田の者ではなかった。
杜氏は造りの全体を統べる技術者であり、その下で働く者を蔵人という。近世以来、彼らの多くは出稼ぎであった。冬に仕事のない農漁村から酒蔵へ入り、寒の間を他所で過ごして春に帰る。中和商店は兵庫県北部の但馬から蔵人を迎えてきた。但馬は丹波・越後と並ぶ杜氏の供給地であり、その体制は現在も続いている。
間取りを暮らしとして読む
内部の構成は比較的細かく記録されている。様式ではなく生活の形を示すものなので、順に追う価値がある。
一階は、南側にオクドを据えた土間のダイドコロを置く。オクドは西日本で用いられる竈の呼び名である。炊事の場であると同時に、土間は履物を脱ぐ前の溜まりであり、暖を取り、食事をする場でもあった。北側には板間と畳敷の四室が並ぶ。便所は土間の南西隅から突き出す。二階は板間と八畳の二室。
竈ひとつを共有し、上下あわせて六つの室を使う。大正期の蔵人の一団がどれほどの規模だったかが、この数から具体的に見えてくる。部屋を分ける必要があるだけの人数であり、しかし一つの火で賄える人数でもあった。
文化庁はこの建物を、酒蔵を構成する附属施設と位置づけている。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、登録番号は36-0204。機能の上では附属だが、歴史の上ではそう言い切れない。同種の宿舎は各地の酒蔵に建てられ、そのほとんどが失われた。蔵人が通いに変わればまず不要になる建物である。仕えた蔵と接したまま残り、同じ日に登録された例は、生産棟だけでは分からない労働の側面を記録している。
季節と、訪ねるなら
この建物が前提とした周期は、いまも動いている。中和商店の仕込みは11月末から3月末まで。吉野川上流、山に囲まれた池田盆地がこの時期に冷え込み、低温での緩やかな発酵が可能になる。但馬の蔵人との関係は数十年にわたって続いてきた。
会社そのものの出発点は享和2年(1802年)で、酒ではなく刻み煙草の製造業であった。池田の商いを支えたのはその葉煙草である。専売制によって民間の製造が閉ざされると家業は酒造へ移り、この敷地の建物は大正15年頃に造り替えられた。杜氏宿舎はその造り替えに属する。酒造蔵や煙突と年代を共有し、明治中期の仕込蔵とは時期を異にする理由がここにある。
これらは通常、公開されていない。杜氏宿舎は稼働中の酒蔵の敷地内にある私有建物で、拝観の制度はなく、道からその姿を確かめることも難しい。敷地に入れる確実な機会は2月の「四国酒まつり」で、中和商店は近隣の三芳菊・芳水とともに11時から15時まで開放する。第28回は2027年2月20日(土)、地酒試飲会の会場は三好市池田総合体育館。それ以外の時期は事前に問い合わせたい。JR阿波池田駅は西へ徒歩7分ほど。同じ敷地に立つ煉瓦煙突は公道からいつでも見えるので、場所の見当をつける目印になる。門の内側での撮影は、必ず許可を得てから行いたい。
Q&A
- 中和商店杜氏宿舎は何のための建物ですか。
- 仕込みの季節に蔵入りする杜氏と蔵人が寝起きするための建物です。酒造りの働き手は他地域から冬期のみ出稼ぎで訪れるのが通例で、その滞在の場でした。
- 中和商店杜氏宿舎の間取りを教えてください。
- 一階は南側にオクドを据えた土間のダイドコロ、北側に板間と畳敷四室を配し、土間の南西に便所が突出します。二階は板間と八畳の二室です。
- 中和商店の蔵人はどこから来ていましたか。
- 兵庫県北部の但馬です。但馬は杜氏の供給地として知られ、中和商店では長年にわたり但馬から杜氏を迎える体制が続いています。
- 中和商店杜氏宿舎は見学できますか。
- 通常は見学できません。稼働中の酒蔵の敷地内にあり、公道からもよく見えません。敷地が開くのは毎年2月の四国酒まつりの日、11時から15時までです。
- 中和商店杜氏宿舎はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
- 大正15年(1926年)頃、敷地が酒造用に造り替えられた際の建設です。令和元年(2019年)12月5日に登録有形文化財となり、登録番号は36-0204です。
基本情報
| 名称 | 中和商店杜氏宿舎(なかわしょうてんとうじしゅくしゃ) |
|---|---|
| 所在地 | 徳島県三好市池田町サラダ1755他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号36-0204 |
| 指定年 | 令和元年(2019年)12月5日 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、建築面積82平方メートル |
| 所有者 | 合名会社中和商店 |
| 公開状況 | 非公開(2月の四国酒まつりで敷地開放、他は要問合せ) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 中和商店杜氏宿舎
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013196
- 合名会社中和商店 蔵について
- https://www.imakomachi.com/warehouse.php
- 三好やまびこふるさと会 生産者の声 合名会社中和商店
- https://miyoshi-yamabiko.jp/?tid=3&mode=f26
- 徳島池田 四国酒まつり イベント概要
- https://www.shikoku-sakematuri.com/event/
最終更新日: 2026.08.02