中和商店仕込蔵:四国の山あいに息づく明治の酒造建築

徳島県三好市池田町サラダ。ユニークなカタカナ地名が残るこの町の一角に、明治時代から120年以上の歴史を刻む酒蔵が静かに佇んでいます。中和商店仕込蔵(なかわしょうてんしこみぐら)は、合名会社中和商店の酒造施設の一部として、2019年(令和元年)12月5日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。

中和商店は享和2年(1802年)に刻み煙草の製造業として創業し、その後酒造業に転じた歴史ある蔵元です。仕込蔵はもともと煙草工場の蔵として使われていた建物を転用したもので、明治期の産業建築がそのまま現役の醸造施設として機能している、全国的にも希少な存在です。四国の中央部に位置する池田町の澄んだ空気と吉野川上流の清冽な水に恵まれたこの場所で、今も伝統の技が受け継がれています。

中和商店の歴史

中和商店の歴史は、享和2年(1802年)に刻み煙草の製造業として始まりました。「中和」という名は、初代中村和右衛門の名前に由来しています。煙草製造業は順調に発展していましたが、明治時代後期に煙草が専売制となったことで転業を余儀なくされました。

この大きな転換期に、三代目中村和右衛門が1904年(明治37年)に酒造業を開始し、「今小町」の商標で酒の醸造・販売を始めました。注目すべきは、かつての煙草工場の蔵をそのまま酒蔵として活用したことです。仕込蔵はまさにこの歴史的な転業の証人であり、明治の煙草産業から大正・昭和の酒造業への移り変わりを今に伝える貴重な建造物です。

現在は六代目の中村盛彦氏が社長を務め、兵庫県但馬の上田穰杜氏をはじめとする蔵人たちが毎年11月末から3月末にかけて蔵入りし、伝統の技で「今小町」を醸しています。平成6年、8年、10年、12年、13年度の全国新酒鑑評会で金賞を受賞するなど、その品質は全国的にも高い評価を受けています。

仕込蔵の建築的特徴

中和商店仕込蔵は、敷地の北端に位置し、南面の西半が酒造蔵と接する木造平屋建ての建物です。切妻造桟瓦葺で、建築面積は約282平方メートルと、蔵としては大規模な造りとなっています。建築年代は明治16年〜30年(1883〜1897年)頃とされています。

この建物の最大の特徴は、その小屋組(屋根の骨組み構造)にあります。丸太を水平や斜めに組み上げ、方杖(ほうづえ)と呼ばれる斜めの補強材で固定するという独特の工法が用いられており、柱を最小限に抑えながら広大な内部空間を実現しています。この構造は、大きな醸造タンクを配置するために必要不可欠な開放的な空間を生み出しており、当時の建築技術と醸造業の実用性が見事に融合した好例です。

内部は一室構成で、コンクリートの土間に発酵用のタンクが整然と並んでいます。外観は伝統的な日本の産業建築らしい簡素で機能的な佇まいを見せ、周辺の歴史的な街並みと調和しています。

文化財としての価値

中和商店仕込蔵は、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準に基づき、国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。同時に登録された建造物は、事務所、酒造蔵、杜氏宿舎、煙突の計4棟で、仕込蔵を含めると合計5棟が文化財として認められています。

事務所は大正期の建造で、正面一階にスクラッチタイル張りの外壁を持つ洋風建築。杜氏宿舎は大正15年(1926年)築の木造2階建てで、一階にオクド(かまど)を備えた土間のダイドコロ(台所)を配した伝統的な間取りが残ります。これらの建物群は、創業から現在に至る中和商店の歴史を物語ると同時に、池田町の街並み景観にも大きく貢献しています。

特筆すべきは、これらの建物が現在も酒造施設として現役で使用されていることです。文化財として保護しながら実際の醸造業に活用するという、登録有形文化財制度の理念を体現する好例といえるでしょう。

見どころ・魅力

中和商店を訪れる醍醐味は、登録有形文化財の建造物群を間近に見学できるだけでなく、現役の酒蔵ならではの生きた醸造文化に触れられることにあります。

蔵見学は事前予約制で、9時から16時まで受け付けています。見学では、明治時代から受け継がれてきた蔵の内部構造や醸造設備を間近に見ることができ、仕込み期間中(11月末〜3月末)であれば、実際の酒造りの工程を目にする機会もあります。

また、中和商店の敷地のすぐ隣には三芳菊酒造の蔵があり、二つの酒蔵が並んで建つ光景は全国的にも珍しいものです。池田町は「酒の町」としても知られ、三好市内には複数の酒蔵が存在します。良質な米、吉野川上流の清らかな水、そして冬の厳しい寒さという、酒造りに最適な自然条件がそろったこの地ならではの風景です。

直売所では「今小町」をはじめとする自社製品を購入することができます。繊細かつ米の旨味を活かした味わいは、全国新酒鑑評会で複数回金賞に輝いた実力の証です。

四国酒まつり

毎年2月末に開催される「四国酒まつり」は、池田町を代表するイベントの一つです。2001年に阿波池田商工会議所青年部を中心に始まったこの祭りは、四国各地の銘酒が一堂に会する大規模な試飲イベントです。

期間中は中和商店を含む三好市内の三つの酒蔵が一般開放され、蔵人しか味わえない搾りたての新酒を楽しむことができます。初期は近隣住民が中心でしたが、現在では来場者の約9割が三好市外からの訪問者となるほど人気が高まっています。文化財見学と日本酒の試飲を同時に楽しめる、またとない機会です。

周辺情報

中和商店がある池田町は、四国を代表する観光エリアへの玄関口としても知られています。

車で約35分南に向かうと、国指定の天然記念物・名勝である大歩危・小歩危(おおぼけ・こぼけ)の渓谷が広がります。吉野川の激流が2億年の歳月をかけて削り出した壮大な渓谷美は圧巻で、遊覧船やラフティングなどのアクティビティも充実しています。

日本三大秘境の一つに数えられる祖谷(いや)渓では、かつて平家の落人が隠れ住んだとされる深い山あいの集落や、山のつるで編まれた祖谷のかずら橋、断崖に立つ小便小僧、ひの字渓谷などの絶景スポットが点在しています。大歩危祖谷温泉郷では、山々と清流を眺めながら天然温泉を楽しむこともできます。

また、池田町自体にもユニークな魅力があります。「サラダ」「ハヤシ」「シマ」「マチ」など、明治時代に採用されたカタカナの地名が残っており、散策しながら街角の住所表示を見つけるのも楽しいものです。地元の名物であるいや蕎麦や祖谷豆腐、鮎の塩焼きなどのグルメも、旅の思い出を彩ってくれるでしょう。

アクセス

中和商店はJR土讃線の阿波池田駅から徒歩圏内に位置しています。阿波池田駅は高松駅から特急で約1時間30分、高知駅から特急で約1時間です。駅に隣接する阿波池田バスターミナルからは、大歩危・祖谷方面へのバスも運行しています。

車の場合は、徳島自動車道の井川池田インターチェンジから約5分です。高松方面からは約1時間30分、徳島市内からは約1時間20分、高知市内からは約1時間30分が目安となります。

Q&A

Q中和商店仕込蔵の見学はできますか?
Aはい、事前予約制で蔵見学が可能です。見学時間は9:00〜16:00で、不定休となっています。見学のご予約は電話(0883-72-0126)またはウェブサイトのオンライン予約から受け付けています。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A酒造りの仕込み期間である11月末から3月末がおすすめです。実際の醸造工程を間近に見ることができます。特に毎年2月末に開催される「四国酒まつり」の期間中は、蔵が一般開放され、搾りたての新酒を味わう特別な体験ができます。
Qお酒の購入はできますか?
Aはい、蔵元の直売所で「今小町」をはじめとする自社製品を購入できます。営業時間は平日の8:00〜12:00、13:00〜17:00で、土日は定休日です。全国新酒鑑評会で金賞を複数回受賞した銘酒をお土産にいかがでしょうか。
Q仕込蔵以外にも文化財はありますか?
A仕込蔵のほか、大正期のスクラッチタイル張りの事務所、酒造蔵、杜氏宿舎、煙突の計4棟も同時に登録有形文化財に登録されています。これら5棟が一体となって、伝統的な日本の酒蔵の全体像を今に伝えています。
Q周辺の観光スポットとあわせて訪問できますか?
Aはい、池田町は大歩危・小歩危渓谷や祖谷かずら橋など、四国を代表する観光地への玄関口です。車で約35分で大歩危に到着でき、遊覧船やラフティングを楽しめます。阿波池田駅からは大歩危・祖谷方面へのバスも出ていますので、公共交通機関での周遊も可能です。

基本情報

名称 中和商店仕込蔵(なかわしょうてんしこみぐら)
文化財区分 国登録有形文化財(建造物)
登録年月日 2019年(令和元年)12月5日
建築年代 明治16年〜30年(1883〜1897年)頃
構造・形式 木造平屋建、切妻造桟瓦葺、建築面積約282㎡
所有者 合名会社中和商店
所在地 〒778-0003 徳島県三好市池田町サラダ1756-2他
電話番号 0883-72-0126
アクセス JR土讃線 阿波池田駅から徒歩すぐ
蔵見学 事前予約制(9:00〜16:00、不定休)
売店営業時間 8:00〜12:00、13:00〜17:00(土日定休)
同時登録文化財 中和商店事務所、酒造蔵、杜氏宿舎、煙突(計5棟)

参考文献

中和商店仕込蔵 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/458429
中和商店事務所 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/380507
中和商店杜氏宿舎 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/452160
合名会社中和商店 - 蔵について
https://www.imakomachi.com/warehouse.php
生産者の声 合名会社中和商店 - 三好市
https://www.miyoshi-yamabiko.jp/?tid=3&mode=f26
合名会社 中和商店 - Sakenomy
https://www.sakenomy.jp/brewery/K01N036010/
池田町サラダ - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%A0%E7%94%B0%E7%94%BA%E3%82%B5%E3%83%A9%E3%83%80

最終更新日: 2026.03.07