敷地北端に置かれた作業棟
中村家住宅刻み煙草工場は、徳島県三好市池田町マチの中村家敷地北端に建つ明治中期(1883年から1897年)の木造建築で、令和元年(2019年)12月5日に登録有形文化財(建造物)として登録された。
主屋と同じく南面し、木造二階建、切妻造桟瓦葺。建築面積は95平方メートルで、通りに面した主屋の237平方メートルに対しておよそ四割にとどまる。表構えに費用を投じ、生産の場は必要最小限に収める。刻み煙草商家の敷地構成はこの比率に集約される。
刻み煙草は葉たばこを毛髪ほどの細さに刻んだ製品で、煙管の小さな火皿に詰め、二、三服で吸い切る。手刻みの工程は、葉脈を除いた葉を数種組み合わせて重ね、四つ折りにした巻き葉を押え板で押さえながら、たばこ包丁で刻むというもので、一日の製造量は熟練者で1貫目(約3.75キログラム)程度であったとされる。
床仕上げに残る作業の区分
一階は三室に分かれ、中央室を広くとる。床の仕上げが室ごとに異なり、その配分が具体的である。中央室の西半と東室の北半を板張とし、残りは土間とする。
土間と板張は、この種の作業棟では代替の利かない使い分けである。土間は温度が上がりにくく湿気を保つため、刻む前に柔らかさを保っておきたい葉の扱いに適する。板張は乾いた水平面が得られ、作業台の設置、選別、計量に向く。文化庁の解説はどの室でどの工程を行ったかまでは踏み込んでいないため、以上は仕上げからの推定にとどまる。確実に読み取れるのは、内部の作業が区分されており、その区分が建設時点で想定されていたという点である。
二階は間仕切のない一室で、和小屋組を現しとする。天井を張らず、瓦の直下に一体の空間を確保する構成は、葉の保管や乾燥調整を行う場として無理がない。ただし文化庁の記載は「煙草の刻み工場と伝わる」「葉たばこの加工場に使用したと伝わる」という伝承の形をとっており、用途が文書で裏づけられているわけではない。
作業棟が残らない理由
最盛期の池田町には刻み煙草業者が百軒を超えたとされる。阿波西部の山間で産した阿波葉を原料とし、阿波刻みの名で流通させた。しかし当時の作業棟はほとんど残っていない。
主屋は住み継がれ、手も入る。工場は違う。明治37年7月の煙草専売法施行によって製造が国営に移った時点で、この種の建物は一斉に用途を失った。用途を失った建物は取り壊されるか、原形を留めないほど転用される。
だからこの一棟が登録された意味は小さくない。文化審議会の答申は令和元年7月19日、登録は同年12月5日、登録番号36-0200で、主屋の36-0199に続く番号が与えられている。登録基準は第一号「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。種別は産業1次・建築物で、葉たばこの加工を農産加工として扱う整理である。同じ登録回で池田町の中和商店(酒造)が産業2次に区分されているのと対照的で、生業の性格に応じた区分がなされている。
敷地は個人所有で非公開。工場は敷地の奥に位置するため、道路から視認できる部分はごく限られる。拝観の受付も内部公開もなく、敷地内への立ち入りは避けたい。うだつの町並みはJR阿波池田駅から徒歩約10分で、池田町マチ2465-1の阿波池田うだつの家・たばこ資料館(旧真鍋家住宅)では、たばこ包丁や押え板、包装材など生業の道具が展示されている。開館は9時から17時、入館受付は16時30分まで、水曜と年末年始(12月28日から1月4日)が休館、入館料は大人320円、高校生・大学生210円、小中学生100円。駅前の三好市観光案内所は0883-76-0877。
Q&A
- 中村家住宅刻み煙草工場は見学できますか。
- 個人所有の敷地の奥に建つ非公開建造物で、道路から見える部分はごく限られます。拝観受付や内部公開はなく、敷地内への立ち入りはご遠慮ください。同じ生業の道具や製品は、徒歩圏内の阿波池田うだつの家・たばこ資料館で見ることができます。
- 中村家住宅刻み煙草工場の建築年代と登録年月日を教えてください。
- 文化庁は明治中期、西暦1883年から1897年の範囲としています。明治24年(1891年)建築の主屋とほぼ同時期にあたります。登録は令和元年12月5日、これに先立つ同年7月19日に文化審議会が答申を出しています。登録番号は36-0200。
- 中村家住宅刻み煙草工場で行われた刻み煙草の製造とはどのような作業ですか。
- 葉たばこの葉脈を除き、数種の葉を重ねて四つ折りにし、押え板で押さえながらたばこ包丁で毛髪ほどの細さに刻む手作業です。一日の製造量は熟練者で1貫目(約3.75キログラム)程度とされます。手刻みは地方によっては明治37年の専売制施行まで続きました。
- 中村家住宅刻み煙草工場の床が土間と板張に分かれているのはなぜですか。
- 中央室の西半と東室の北半が板張、その他が土間です。土間は湿気を保ち葉の含水を扱う作業に、板張は乾いた水平面として作業台や選別・計量に適するため、工程による使い分けがあったと考えられます。ただし文化庁の解説は各室の用途まで示しておらず、推定の域を出ません。
- 中村家住宅刻み煙草工場と中村家住宅主屋はどのような関係ですか。
- 同一敷地内の二棟で、登録番号36-0199(主屋)と36-0200(刻み煙草工場)が続けて付されています。中通りに面した主屋が取引と居住を、敷地北端の工場が生産を担いました。二棟を一括して登録することで、商いと製造の関係が敷地単位で読み取れる形になっています。
基本データ
| 名称 | 中村家住宅刻み煙草工場(なかむらけじゅうたくきざみたばここうじょう) |
|---|---|
| 所在地 | 徳島県三好市池田町マチ2265他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 36-0200/登録基準 国土の歴史的景観に寄与しているもの/種別 産業1次・建築物 |
| 指定年 | 令和元年(2019年)12月5日登録(答申は同年7月19日) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、建築面積95平方メートル/明治中期(1883年から1897年)建築 |
| 所有者 | 個人(文化庁データベースに所有者名の記載なし) |
| 公開状況 | 非公開。敷地奥に位置し、道路からの視認範囲は限定的 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「中村家住宅刻み煙草工場」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013192
- 文化庁 国指定文化財等データベース「中村家住宅主屋」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013191
- 文化庁「登録有形文化財(建造物)の登録について」令和元年7月19日(PDF)
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/pdf/91972801_01.pdf
- たばこと塩の博物館「江戸時代のたばこ文化:手刻みから機械へ」
- https://www.tabashio.jp/collection/tobacco/t16/index.html
- たばこと塩の博物館「明治以降のたばこ文化:専売の時代(戦前)」
- https://www.tabashio.jp/collection/tobacco/t21/index.html
- 大歩危祖谷ナビ(三好市公式観光サイト)「うだつの町並み・阿波池田うだつの家たばこ資料館」
- https://miyoshi-tourism.jp/spot/145/
- 阿波ナビ(徳島県観光情報サイト)「池田の町並み(うだつ通り)」
- https://www.awanavi.jp/archives/spot/2847
最終更新日: 2026.08.23