間口十五・九メートルの正面

中村家住宅主屋は、徳島県三好市池田町マチにある明治24年(1891年)建築の町家で、令和元年(2019年)12月5日に登録有形文化財(建造物)として登録された。

池田町の中通りに南面して建つ。間口は15.9メートル、木造二階建、切妻造桟瓦葺、建築面積237平方メートル。周辺の町家が三間から四間の間口で並ぶなかにあって、この正面幅は明らかに突出している。

注目すべきは両端に上げた袖卯建で、屋根は本瓦葺とする。主屋本体が桟瓦葺であるのに対し、幅二メートル足らずの防火壁にのみ本瓦を用いているわけで、選択の意図は防火性能では説明がつかない。

卯建はもともと隣家との境界に立てて延焼を防ぐ装置だったが、近世後期以降は商家の格式を示す造作へと性格を変えている。池田の町並みに袖卯建が連なるのは、刻み煙草の景気がそれを可能にしたためである。

登録の経緯と種別の読み方

文化審議会の答申は令和元年7月19日、官報告示による登録は同年12月5日、登録番号は36-0199。適用された登録基準は第一号「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。

種別の記載は「産業1次・建築物」であり、「住宅」ではない。同じ第94回の登録では、池田町の中和商店(酒造)が「産業2次」に区分されている。醸造は製造業、葉たばこの加工は農産加工という整理で、居住機能を備えた商家主屋であっても、生業の側から種別が付されている点は押さえておきたい。

中村家は、池田で最初に刻み煙草工場を創業した家と伝わる。断定的な記録として提示されているわけではないが、文化庁の登録説明にもこの由緒が採られている。

阿波西部の山間で栽培された葉たばこは阿波葉と呼ばれ、これを細く刻んだ製品が阿波刻みとして流通した。最盛期の池田町内には刻み煙草業者が百軒を超えたとされる。明治31年の葉煙草専売法施行で原料が政府の統制下に入り、明治37年7月の煙草専売法施行によって製造そのものが国営に移る。民間の刻み煙草業はここで終わる。

通り土間と洋風応接間

内部は通り土間に沿って諸室を配する構成をとる。特徴的なのは、その土間沿いに洋風の応接間を設けている点で、そこから廊下を介して四間取の座敷につながる。

明治24年という年次を考えれば、地方商家における洋間の導入としては早い部類に入る。椅子座で来客に応対する空間を、床座を前提とした四間取の直前に差し込んだ形になる。伝統的な平面の骨格は保ったまま、接客の作法だけが更新されている。

個人の居宅であり、内部は公開されていない。拝観の受付も見学施設もなく、鑑賞は前面道路からの外観に限られる。道路上からの撮影は差し支えないが、敷地内への立ち入りは避けたい。

JR阿波池田駅からうだつの町並みまでは徒歩約10分。駅前の三好市観光案内所(0883-76-0877、9時から18時)で登録物件の位置を確認できる。同種の町家の内部を見るなら、池田町マチ2465-1の阿波池田うだつの家・たばこ資料館(旧真鍋家住宅)が公開されており、開館9時から17時、入館受付は16時30分まで、水曜と年末年始(12月28日から1月4日)が休館、入館料は大人320円、高校生・大学生210円、小中学生100円である。

Q&A

Q中村家住宅主屋は見学できますか。内部公開はありますか。
A個人の住宅であり、内部は公開されていません。拝観受付や見学施設もなく、前面道路からの外観鑑賞にとどまります。同時期・同形式の町家の内部を見たい場合は、徒歩圏内の阿波池田うだつの家・たばこ資料館が公開されています。
Q中村家住宅主屋はいつ建てられ、いつ登録有形文化財になりましたか。
A建築年代は明治24年(1891年)です。令和元年7月19日の文化審議会答申を経て、同年12月5日に登録有形文化財(建造物)として登録されました。登録番号は36-0199です。
Q中村家住宅主屋の袖卯建はどのような造りですか。
A正面両端、隣地との境界に立ち上げた防火壁で、屋根を本瓦葺とします。主屋本体の桟瓦葺に対して格上の瓦を用いており、防火装置であると同時に商家の格式を示す造作として扱われていたことがうかがえます。
Q中村家住宅主屋の平面はどのような構成ですか。
A通り土間に沿って諸室を並べ、土間沿いに洋風の応接間を配し、廊下を介して四間取の座敷に接続します。伝統的な町家平面に椅子座の接客空間を組み込んだ点が、明治中期の地方商家として特徴的です。
Q中村家住宅主屋の種別が「住宅」でなく「産業1次」なのはなぜですか。
A文化庁は登録建造物を生業・機能によって区分しており、中村家の二棟は葉たばこ加工を担った施設として産業1次に整理されています。同じ登録回で池田町の中和商店(酒造)が産業2次とされているのと対比すると、区分の基準が読み取れます。

基本データ

名称中村家住宅主屋(なかむらけじゅうたくしゅおく)
所在地徳島県三好市池田町マチ2265
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 36-0199/登録基準 国土の歴史的景観に寄与しているもの/種別 産業1次・建築物
指定年令和元年(2019年)12月5日登録(答申は同年7月19日)
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積237平方メートル、間口15.9メートル/明治24年(1891年)建築
所有者個人(文化庁データベースに所有者名の記載なし)
公開状況非公開。道路からの外観鑑賞のみ

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「中村家住宅主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013191
文化庁「登録有形文化財(建造物)の登録について」令和元年7月19日(PDF)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/pdf/91972801_01.pdf
文化庁「登録有形文化財(建造物)」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/
大歩危祖谷ナビ(三好市公式観光サイト)「うだつの町並み・阿波池田うだつの家たばこ資料館」
https://miyoshi-tourism.jp/spot/145/
阿波ナビ(徳島県観光情報サイト)「池田の町並み(うだつ通り)」
https://www.awanavi.jp/archives/spot/2847
たばこと塩の博物館「明治以降のたばこ文化:専売の時代(戦前)」
https://www.tabashio.jp/collection/tobacco/t21/index.html
三好市ホームページ
https://www.miyoshi.i-tokushima.jp/

最終更新日: 2026.08.23