杉尾通りに向いた一面
中和商店事務所は、徳島県三好市池田町サラダにある大正後期の木造建築で、昭和32年(1957年)の改修を経て、令和元年(2019年)12月5日に国の登録有形文化財となった。
池田町の杉尾通りに西面して建つ。この酒造の敷地で、通りを歩く者の目に触れるよう造られた部分はここだけである。奥に控える酒造蔵、仕込蔵、杜氏宿舎、そして煉瓦煙突は、いずれも道から引いた位置にあり、別件として登録されている。
建物はひとつの塊ではない。北端に木造二階建の事務所棟が立ち、そこから南北棟の平屋が続き、背面にはさらに住居棟が連なる。建築面積は140平方メートル、屋根はスレート葺で一部を瓦葺とする。
洋と和を一棟に収める
登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、登録番号は36-0201。同日に同じ敷地から登録された五件のうち、番号の最も若い一件である。評価は、この建物が二つの役割をどう処理しているかに向けられている。
外観では、正面一階をスクラッチタイル張とする。縦に細い引っ掻き目を入れた化粧煉瓦タイルで、大正末から昭和初期にかけて日本の建築に広まった仕上げである。他の壁面はモルタルの刷毛引仕上。いずれも、明治期の地方商家が用いた材料ではない。近代的に見せようとする意思がそのまま材料の選択に出ている。
内部は、事務所棟が洋風、住居棟が和風で構成される。商いの場と暮らしの場が数メートルを隔てて隣り合い、様式の上では半世紀ほどの距離を置いている。地方の商業地にはこうした折衷の建物が数多くあったが、まとまって残る例は減った。記録に留められた理由の少なくない部分がここにある。
昭和32年の改修にも触れておきたい。登録有形文化財では建設当初の姿を保つことが評価されやすいが、文化庁の解説はこの事務所について、戦後の市街地の街路景観を形づくる建物として位置づけている。改修は損傷ではなく履歴の一部として読まれている。
刻み煙草から酒へ
合名会社中和商店の創業は享和2年(1802年)、刻み煙草の製造業としてであった。池田は煙草の産地である。吉野川沿いの段丘で葉が育ち、それを加工して積み出すことが町の商いの中心にあった。煙草が国の専売となって民間の製造の道が閉ざされると、三代目中村和右衛門が酒造業へ舵を切る。屋号はその名を縮めたもので、中村の「中」と和右衛門の「和」を取る。
転業の年については記録が一致しない。会社の沿革は明治37年(1904年)とし、これは煙草専売法の施行年にあたる。一方、同社の挨拶文をはじめ、大正15年(1926年)とする記述も広く見られる。文化庁のデータベースは酒造蔵・杜氏宿舎・煙突を大正15年頃、仕込蔵を明治中期としており、敷地の造り替えが大正末に及んだことと、煙草時代の建物が一棟持ち越されたことを同時に示す。二つの年次は、それぞれ別の出来事を指しているとみるのが自然だろう。
主銘柄「今小町」の名は、初代和右衛門の妻「イマ」に由来すると伝わる。仕込みは例年11月末から3月末まで。兵庫県但馬から杜氏を迎える体制が長く続いており、但馬杜氏が各地の蔵へ季節ごとに入る近世以来の慣行を、いまも受け継いでいる。
事務所は現役である。拝観の制度はなく、見学の受付もない。できるのは、杉尾通りに立って正面を読むことで、それには五分もあれば足りる。JR阿波池田駅から東へ約500メートル、徒歩7分ほどの距離である。売店では平日に酒を求められる。敷地がまとめて開くのは年に一度、2月の「四国酒まつり」の日で、第28回は2027年2月20日(土)、酒蔵開放は11時から15時まで。撮影は公道からなら自由、門の内側では先に一声かけたい。
Q&A
- 中和商店事務所はどのような建物ですか。
- 大正後期の木造2階一部平屋建で、建築面積は140平方メートル、スレート葺一部瓦葺です。北端の事務所棟、南北棟の平屋、背面の住居棟が連なる構成をとります。
- 中和商店事務所のスクラッチタイルとは何ですか。
- 表面に縦の引っ掻き目を入れた化粧タイルで、大正末から昭和初期に流行した仕上げです。正面一階に用いられ、他の壁面はモルタル刷毛引仕上となっています。
- 中和商店事務所の内部は見学できますか。
- 内部は非公開です。現在も会社の事務所兼住居として使われています。外観は杉尾通りからいつでも見られ、敷地は2月の四国酒まつりの日に開放されます。
- 「中和商店」という社名の由来は何ですか。
- 酒造業へ転じた当主・中村和右衛門の名から、「中」と「和」を取ったものと伝わります。創業は享和2年(1802年)で、当初は刻み煙草の製造業でした。
- 中和商店事務所と同時に登録された建造物はありますか。
- 令和元年12月5日に、同じ敷地の酒造蔵(36-0202)、仕込蔵(36-0203)、杜氏宿舎(36-0204)、煙突(36-0205)が同時に登録されました。事務所は36-0201です。
基本情報
| 名称 | 中和商店事務所(なかわしょうてんじむしょ) |
|---|---|
| 所在地 | 徳島県三好市池田町サラダ1755他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号36-0201 |
| 指定年 | 令和元年(2019年)12月5日 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階一部平屋建、スレート葺一部瓦葺、建築面積140平方メートル |
| 所有者 | 合名会社中和商店 |
| 公開状況 | 内部非公開。外観は杉尾通りから見学可(2月の四国酒まつりで敷地開放) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 中和商店事務所
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013193
- 文化遺産オンライン 中和商店事務所
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/380507
- 合名会社中和商店 蔵について
- https://www.imakomachi.com/warehouse.php
- 文化庁 登録有形文化財(建造物)の登録について(令和元年7月19日)
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/pdf/91972801_01.pdf
最終更新日: 2026.08.02