谷中の寺町に建つ明治後期の煎餅店

手焼せんべい嵯峨の家店舗(てやきせんべいさがのやてんぽ)は、東京都台東区谷中の寺町の通りに東面する木造二階建の店舗兼住居で、明治後期(1898年から1912年)の建築として令和5年(2023年)8月7日に国の登録有形文化財に登録された。建築面積は32平方メートルである。

32平方メートルは小さい。間口の狭い敷地に奥へ延びる建物で、屋根は切妻造の平入、桟瓦を葺く。店に入ると床の高さが変わる。一階の表側は土間のミセ、その奥が板敷の作業場になっている。

その奥の床に、この建物が外観だけの文化財ではない理由が据えられている。煎餅焼の窯が床面より低い位置に置かれ、下部に炭入が付く。二階は三室と増築部分で構成され、西側の室では煎餅の生地を干す作業を行う。

商いと建物は同い年ではない。嵯峨の家がこの場所で開業したのは大正3年(1914年)。すでに建っていた建物に入り、以来同じ場所で営業を続けている。

出桁造の町家から看板建築へ

文化庁が適用した登録基準は「造形の規範となっているもの」である。解説文はこの建物を、出桁造の伝統的な町家を改修した看板建築と説明し、改修の時期を昭和48年頃としている。

二つの用語が要点を担っている。出桁造は、軒桁を腕木で壁面より前へ出して支える町家の構法で、軒下に深い影の線ができる。東京の古い商家らしい表情はここから生まれる。看板建築は、店の正面に平らな装いの前面を張った建物を指し、多くは大正12年の関東大震災のあと、木造の骨組みを残したまま短期間で建て直した商店に見られる形式である。

嵯峨の家に残っているのは、ひとつの時点というより一連の経過だろう。明治の町家があり、のちに前面が加えられ、その間ずっと使われ続けてきた。登録有形文化財という枠組みは、こうした事例によく合う。平成8年に始まったこの制度は、所有者が建物を使い続ける自由を残したまま保護をかける仕組みで、毎朝店を開けなければならない建物にとっては重要な点である。重要文化財の「指定」よりゆるやかな区分にあたり、この違いは押さえておきたい。

登録の背景には谷中という土地もある。この一帯は大正12年の震災でも昭和20年の空襲でも大きな被害を免れた区域を含み、寺院と戦前の木造建築が路地沿いにまとまって残る。ただし、創業時の商売を続けたままの小さな商業建築は、寺院よりも数が少ない。令和5年の登録は、その一軒に光を当てたものといえる。

店を訪ねる

この建物には二つの住所が流通しているが、どちらも誤りではない。文化庁は所在地を地番で「台東区谷中六丁目14」と記録し、店舗の住居表示は「谷中6-1-27」である。指す場所は同じだ。

営業中の店であって、博物館ではない。入館料も受付もなく、内部を見せるための公開時間も設定されていない。客として入る場所である。営業はおおむね朝から夕方までだが、小さな家族経営の店は予定が変わる。遠方から訪ねるなら、事前に03-3821-6317へ確認しておくとよい。作業場は台所にあたるので、屋内での撮影はひと声かけてからにしたい。

売られているものはすべて店内で焼かれる。国産米を使い、備長炭で手焼きする。せんべいはうるち米、あられやかき餅はもち米で、餅は店で搗き、生地を天日で乾かしてから焼く。100グラム単位で買って店先で食べ始める客は珍しくない。

行くには少し歩く。JR山手線の日暮里駅からが一般的で、反対側からなら東京メトロ千代田線の根津駅も使える。上野公園までは徒歩10分ほど。店の面する通りは寺町を抜けて谷中霊園の方向へ延びており、この建物は界隈の散策と組み合わせやすい。近くには戦前からの角地の喫茶店、カヤバ珈琲がある。

Q&A

Q手焼せんべい嵯峨の家店舗の建物には入れますか。
A客として入れます。一階は通常の販売スペースで入場料もかかりません。ただし見学のために公開されている建物ではないため、二階や作業場は見学の対象になっていません。
Q手焼せんべい嵯峨の家店舗はいつ文化財に登録されましたか。区分は何ですか。
A令和5年(2023年)8月7日に登録有形文化財(建造物)として登録されました。登録番号は13-0485、登録基準は「造形の規範となっているもの」です。重要文化財の指定とは異なる区分です。
Q嵯峨の家の建物と商売はそれぞれいつからのものですか。
A建物は明治後期、1898年から1912年の間の建築で、昭和48年頃の改修が記録されています。店の開業は大正3年(1914年)なので、建物のほうが10年あまり古いことになります。
Q手焼せんべい嵯峨の家店舗の住所と行き方を教えてください。
A店舗の住所は台東区谷中6-1-27、文化財の記録上の所在地は谷中六丁目14です。JR山手線の日暮里駅、または東京メトロ千代田線の根津駅から徒歩で向かいます。上野公園からは徒歩10分ほどの距離です。
Q嵯峨の家で写真は撮れますか。煎餅を焼くところは見られますか。
A通りからの外観撮影は自由です。屋内はひと声かけてからにしてください。焼く作業は店の奥の作業場で行われ、カウンター越しに見えることもありますが、実演ではなく仕事場です。

基本情報

名称手焼せんべい嵯峨の家店舗(てやきせんべいさがのやてんぽ)
所在地東京都台東区谷中六丁目14(店舗住所は谷中6-1-27)
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 13-0485/登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年令和5年(2023年)8月7日登録・告示
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積32平方メートル。明治後期(1898年から1912年)建築、昭和48年頃改修
所有者文化庁データベースに記載なし
公開状況営業中の店舗。一階は客として利用可(入場料なし)。見学のための公開時間の設定はなし

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース — 手焼せんべい嵯峨の家店舗
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014570
文化庁 文化遺産オンライン — 手焼せんべい嵯峨の家店舗
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/579432
台東区 — 国指定・登録文化財、選定保存技術
https://www.city.taito.lg.jp/gakushu/shogaigakushu/shakaikyoiku/bunkazai/kunibunkazai.html
東京都米菓工業協同組合 — 嵯峨の家
https://arareosenbei.com/shop/saganoya/
谷根千小さなお店巡りスタンプラリー — 嵯峨の家
https://www.yanesen-shops.com/shopdata/saganoya

最終更新日: 2026.08.23