2巻の書跡 ― 2024年に国宝

和漢朗詠集(雲紙)は、東京都千代田区千代田にある平安時代の書跡で、2024年(令和6年)8月27日に国宝に指定された。所有は国(文化庁)である。

2024年の指定は、ここまで扱った物件のなかで最も新しい。三藐院記、更級日記、喪乱帖の2023年よりさらに新しい。

皇居三の丸尚蔵館の記録では、名称を雲紙本和漢朗詠集とし、員数を2巻、寸法を巻上27.0×1418.3センチメートル、巻下27.0×1433.2センチメートルとする。巻物の長さは14メートルを超える。

伝えられた作者と、推定される筆者が違う

作者の欄と解説とで、名が食い違っている。

作者の欄は、伝 藤原行成とする。藤原行成は天禄3年(972年)から万寿4年(1027年)の人である。伝は、そう伝えられているという意味である。

ところが解説はこう記す。筆者は源兼行(11世紀中頃)が考えられている。

伝承では藤原行成、推定では源兼行になる。同じ記録のなかで、二つの名が併記されている。

刀〈金象嵌銘正宗本阿花押〉では、鑑定した人が正宗の名を金で入れていた。太刀〈銘正恒〉では、同名の刀工が複数いて銘だけでは決まらなかった。本件は、伝承と推定という別々の根拠から二つの名が出ている。作者を定める方法が、物件ごとに違う。

名称が紙の名から来ている

雲紙という語が、名称に入っている。

雲紙は料紙の名である。記録は、藍色の雲形のある料紙の使用によって呼ばれる、と説明する。紙に藍色の雲の形が入っていることから、その名がある。

使い方も記される。雲紙を主として、一紙の右下と左上に配置し、それを連続させて美的効果を作っている、とある。一枚ごとに雲の位置を決め、つないだときに全体が整うようにしている。

ここまで名称の由来をいくつか見てきた。太刀は銘文の転記、喪乱帖は本文の冒頭語、絹本著色や紙本墨画は材質である。本件は、材質のなかでも特定の装飾紙の名が使われている。

関連作品には和漢朗詠集(唐紙)がある。同じ和漢朗詠集で、紙が違えば別の物件になる。紙が物件を分ける基準になっている。

一つの巻に三つの書体が交じる

書き方についても記述がある。

字形は、楷書・行書・草書の三体を交える、とある。

楷書は一画ずつ区切って書く形、行書はやや続けて書く形、草書は大きく崩す形をいう。この三つが一つの作品のなかに混在している。

線刻釈迦三尊等鏡像では、表と裏で主題が違った。玳玻天目茶碗では、内と外で文様の出し方が反対だった。本件は同じ面のなかで書体が変わる。

記録はまた、雲紙本の現存最古のもの、とする。ただしこれは皇居三の丸尚蔵館の記録にある評価で、文化庁の記録では確認していない。本稿は出所を明示して記す。

断簡が多数、別々に記録されている

和漢朗詠集については、断簡の記録が非常に多い。

和漢朗詠集巻下断簡(法輪寺切)、和漢朗詠集巻上断簡(益田本)、和漢朗詠集巻上断簡(戊辰切)、和漢朗詠集断簡 太田切、和漢朗詠集断簡 久松切、和漢朗詠集巻下断簡(山井切)、和漢朗詠集巻上断簡(内侍切)、和漢朗詠集巻上断簡(長谷切)、和漢朗詠集断簡(山城切)といった名が並ぶ。

切は切り離された断片をいい、その前に付く語は伝来や旧蔵者などに由来する。同じ作品の断簡が、切ごとに名を与えられて別々に記録されている。

紙本墨画鳥獣人物戯画や紙本著色西行法師行状絵詞でも、断簡が本体と別に記録されていた。本件はその数が桁違いに多い。

所有は国(文化庁)で、所在は東京都千代田区千代田である。常設で公開される性格のものではなく、紙に書かれたものは光に弱いため公開期間が限られる。展示の予定は変わることがあるため、訪問前に確認したい。

Q&A

Q和漢朗詠集(雲紙)はいつ国宝に指定されましたか。
A2024年(令和6年)8月27日です。所在は東京都千代田区千代田、所有は国(文化庁)です。ここまで扱った物件のなかで最も新しい指定にあたります。
Q誰が書いたものですか。
A作者の欄は「伝 藤原行成」とし、解説は「筆者は源兼行が考えられている」とします。伝承では藤原行成、推定では源兼行と、同じ記録のなかに二つの名が併記されています。
Q雲紙とは何ですか。
A藍色の雲形のある料紙です。記録は「雲紙を主として、一紙の右下と左上に配置し、それを連続させて美的効果を作っている」とします。一枚ごとに雲の位置を決め、つないだときに全体が整うようにしています。
Q書体は一つですか。
Aいいえ。「字形は、楷書・行書・草書の三体を交える」とあります。区切って書く形、やや続ける形、大きく崩す形の三つが一つの作品のなかに混在しています。
Q断簡も記録されているのですか。
A多数あります。法輪寺切、益田本、戊辰切、太田切、久松切、山井切、内侍切、長谷切、山城切といった名で、切ごとに別々に記録されています。切は切り離された断片をいいます。

基本情報

名称和漢朗詠集(雲紙)(わかんろうえいしゅう)/皇居三の丸尚蔵館の表記は「雲紙本和漢朗詠集」
所在地東京都千代田区千代田
指定区分国宝(書跡)/和漢朗詠集(唐紙)は紙の違う別の物件
指定年2024年(令和6年)8月27日 国宝
員数2巻
寸法皇居三の丸尚蔵館の記録によれば、巻上27.0×1418.3センチメートル、巻下27.0×1433.2センチメートル。紙本墨書で、本紙は藍色の雲形のある雲紙。楷書・行書・草書の三体を交える。時代は平安(11世紀)
所有者国(文化庁)
公開状況常設の公開ではない。紙に書かれたものは光に弱く、公開期間が限られる

参考文献

皇居三の丸尚蔵館 雲紙本和漢朗詠集
https://shozokan.nich.go.jp/collection/object/SZK003047
皇居三の丸尚蔵館 お知らせ
https://shozokan.nich.go.jp/news/20240319_01.html
皇居三の丸尚蔵館
https://shozokan.nich.go.jp/
文化庁 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/

最終更新日: 2026.09.05