29平方メートルの仕事場
金澤家住宅洋館は、東京都文京区西片二丁目にある昭和5年(1930年)建築の木造平屋建で、平成10年(1998年)12月11日に国の登録有形文化財(建造物)となった。建築面積29平方メートル、外壁は下見板張り、屋根は金属板葺である。
29平方メートルは小さい。ワンルーム住戸ほどの床面積しかなく、隣に建つ主屋の6分の1に満たない。それでも、建築家金澤庸治(1900〜1982)がこの敷地に何を求めたかは、この一棟に最もはっきり出ている。
鍵は開口である。北西面は外壁の一部と屋根の一部がガラス張りになっている。製図や絵画に携わる者なら見た瞬間に用途がわかる構えで、直射のような明暗の移動を伴わない北面採光を、一日を通じて安定して取り込む仕掛けである。文化庁の解説も、一見してアトリエの造りと判断できると明記する。
設計事務所と住居を兼ねる
文化庁の記録は、この洋館が建築設計事務所兼自宅を意図したものとされる、と伝える。この一句には背景がある。金澤は大正13年(1924年)、東京美術学校建築科の第1回卒業生となった。建築科は前年に図案科第二部から改組されたばかりの新設学科である。卒業後は恩師岡田信一郎の事務所に加わり、母校でも教鞭を執った。
昭和5年のこの立場にあった建築家に必要だったのは、図面を引く場所である。家族の居室を間借りするのではなく、適切な光があり、独立した出入口があり、来客を通せる広さのある場所。平面はその三つを同時に満たす。切妻屋根の下が製図室、右手の寄棟部分が応接室にあてられ、訪問者は家族の生活空間を通らずに用を済ませることができた。
建物は敷地中央ではなく板塀に沿って建つ。門と通りに近い位置である。この種の小規模棟は残りにくい。駐車場や増築が必要になれば真っ先に取り壊され、写真も残らないため建築史の記述からも抜け落ちる。登録基準「造形の規範となっているもの」により登録番号13-0046として登録された背景には、建築家の職業生活の形がそっくり保たれている点がある。
金澤の後年の作は訪ねやすい。昭和6年(1931年)の六角堂は平櫛田中作の岡倉天心像を納める寄棟屋根の覆屋、昭和10年(1935年)の正木記念館は鉄筋コンクリート造の和風建築で2階に書院造の座敷を設ける。いずれも東京藝術大学上野キャンパスに現存する。
路上からの見方
本件は個人の所有で、公開されていない。拝観料も開館時間もなく、内部に入ることはできない。見られるのは道路からの外観であり、文京区も登録制度の説明のなかで、道路から見える外観が登録の対象になると述べている。
注目したいのは表面の対比である。下見板張りは水平の目地を細かく刻み、壁面に低い陰影を与える。ガラス面はその連なりを断ち切り、空の明るさをそのまま映す平滑な面として現れる。曇天の午後には淡い灰色に沈んでほとんど溶け、日が傾くと持ち上がる。午前10時と午後4時では、同じ建物が違って見える。
3棟の関係も押さえておきたい。門と塀が境界を定め、その線に沿って洋館が延び、奥に棟を東西へ振った主屋が構える。昭和5年にひとつの構成として設計されたものが、平成10年に3件として同日登録された。棟ごとに数える登録制度の数え方によるものである。
東京メトロ南北線「東大前」駅から徒歩約7分、都営三田線「白山」駅から約12分。西片はゆっくり歩く価値のある町である。二区画先の西片2-9-12には平成10年9月2日登録の平野家住宅があり、大正11年(1922年)の洋館は白タイル貼りにハーフティンバー、煉瓦造の蔵は窓庇をガラスで葺く。下見板張りで簡素に納めた金澤の仕事場と並べると、同じ「洋館」という語を二人の建築家がいかに違う形に置き換えたかがわかる。
Q&A
- 金澤家住宅洋館は何のために建てられたのですか?
- 文化庁の記録では、建築設計事務所兼自宅を意図したものとされています。北西面の外壁と屋根の一部をガラス張りとした製図室に、切妻屋根の右手の寄棟部が応接室として付きます。
- 金澤家住宅洋館の内部は見学できますか?
- できません。個人所有で一般公開されておらず、拝観料も開館時間も設定されていません。公道から外観を見ることのみ可能です。
- 金澤家住宅洋館の規模はどのくらいですか?
- 木造平屋建、金属板葺で建築面積29平方メートルです。同じ敷地の主屋は建築面積200平方メートルで、洋館はその6分の1に満たない規模です。
- 金澤家住宅洋館はいつ登録有形文化財になりましたか?
- 平成10年(1998年)12月11日登録、同年12月25日告示、登録番号13-0046です。主屋と門及び塀も同日付で登録されています。
- 金澤家住宅洋館の周辺に見るべき建物はありますか?
- 西片2-9-12の平野家住宅が徒歩圏にあります。保岡勝也設計の6棟が登録されています。金澤家からは東大前駅まで徒歩約7分、白山駅まで約12分です。
基本情報
| 名称 | 金澤家住宅洋館(かなざわけじゅうたくようかん) |
|---|---|
| 所在地 | 東京都文京区西片2-2-7 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号13-0046 |
| 指定年 | 平成10年(1998年)12月11日登録/同年12月25日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、金属板葺、建築面積29平方メートル |
| 所有者 | 個人(文化庁データベースに所有者名の記載なし) |
| 公開状況 | 非公開。外観のみ道路から見学可 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 金澤家住宅洋館
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000955
- 文化遺産オンライン 金澤家住宅洋館
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/147565
- 文化庁 国指定文化財等データベース 金澤家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000954
- 文京区 国登録文化財
- https://www.city.bunkyo.lg.jp/bunka/bunkazai/bunkazai/kunitoroku.html
最終更新日: 2026.08.04