日本に一隻だけ残った鉄の船

明治丸は、東京都江東区越中島の東京海洋大学構内に陸上保存されている明治7年(1874年)竣工の鉄船で、昭和53年(1978年)5月31日に国の重要文化財に指定された。

発注したのは工部省である。整備が始まったばかりの灯台を巡回する船が必要になり、英国グラスゴーのネピア造船所へ注文が出された。明治7年に竣工し、翌明治8年(1875年)に横浜へ回航されている。鋼ではなく鉄。当時の造船界は木造から離れつつあったものの、鋼板への移行はまだ終わっていなかった。この船体が価値を持つ理由はそこにある。

灯台巡廻船にしては仕様が贅沢だった。一等飛脚船と同等の出来と評され、サロンと特別室を備えている。灯台業務だけでなく、必要に応じてロイヤルシップの役目を兼ねることが前提だったからである。明治天皇をはじめ、多くの高官がこの船に乗った。

領土と祝日を動かした二つの航海

明治8年、小笠原諸島の領有権をめぐる問題が持ち上がった。日本政府は調査団を明治丸に乗せて送り出し、同じ目的で向かった英国船よりも先に島へ到達している。小笠原は日本の領土となった。東京海洋大学は、この到達が現在の排他的経済水域につながっていると説明する。日本が領海と合わせて確保する約447万平方キロメートルのうち、およそ3分の1にあたる約150万平方キロメートルが東京都小笠原村に属している。

翌明治9年(1876年)、船は国民の暦にも刻まれることになった。東北・北海道巡幸の際、明治天皇は青森から明治丸に乗船し、函館を経由して7月20日に横浜へ安着した。この日を記念して昭和16年(1941年)に「海の記念日」が制定され、平成8年(1996年)には国民の祝日「海の日」となっている。7月の休日を鉄船一隻と結びつけて考える人は、そう多くない。

約20年の灯台巡廻船勤務を終えた明治丸は、明治29年(1896年)に商船学校へ譲渡された。同校は東京海洋大学の前身にあたる。以後は係留練習船として昭和20年(1945年)まで約50年、5000人を超える海の若人がこの甲板で訓練を受けた。大正12年(1923年)の関東大震災と昭和20年の東京大空襲では、被災した住民を船内に収容している。

指定の理由と、いま見られるもの

昭和53年5月31日の指定、指定番号02062。根拠は明快で、日本に現存する鉄船がこの一隻しかないという事実である。文化庁の解説文は、木船から鋼船へ移行する段階の鉄製の補助帆付汽船であり、当時日本が所有した鉄船としては最大だったと記す。同時に、改造をかなり受けている点も隠さず書いたうえで、船骨および船体、中甲板の士官室などは当初の姿がよく残っていると評価している。船舶が重要文化財に指定されたのは、明治丸が最初である。

老朽化とは二度向き合った。昭和63年(1988年)の修理を経て、平成25年(2013年)12月からは大学と文部科学省による大規模修復工事が始まり、平成27年(2015年)3月に竣工している。

現在の明治丸は明治丸海事ミュージアムの中心に据えられている。ミュージアムは昭和53年開館の百周年記念資料館、平成28年(2016年)の明治丸記念館、そして明治36年(1903年)建設の第一・第二観測台を含む。観測台はそれ自体が登録有形文化財で、第一観測台は現存する日本最古のドーム屋根形状の天体観測室である。令和3年(2021年)には日本天文学会が両者を日本天文遺産に認定した。明治丸記念館には建造指示書、重要文化財指定書、船内で使われていた銀製の食器類などが並ぶ。

見学は無料で、船内にも入れる。サロンや船室、明治天皇が使用した御座所を実際に目で確かめられる。ただし公開日は限られている。基本は火曜・木曜と第1・第3土曜だが、大学が月ごとに公開予定日を発表する形をとっており、荒天の場合や荒天が予報された場合には予告なく閉館することがある。個人の予約は不要、10人以上のときは事前に電話かメールで連絡するのが望ましい。ボランティアガイドが甲板を案内してくれる日も多い。

行き方は、JR京葉線越中島駅から徒歩約5分。地下鉄の月島駅・門前仲町駅からはいずれも徒歩約12分である。現役の大学構内にあるため、正門で見学の旨を伝えて構内に入り、案内表示に従う。見学者用の駐車場は構内にない。

Q&A

Q明治丸は船内を見学できますか。見学料と公開日は?
A見学は無料で、船内にも入れます。公開日は基本的に火曜・木曜と第1・第3土曜ですが、東京海洋大学が月ごとに公開予定日を発表しています。荒天時は予告なく閉館することがあるため、訪問前に大学の公開予定を確認してください。
Q明治丸はどこで、いつ建造されたのですか?
A工部省が灯台巡廻業務用に発注し、英国グラスゴーのネピア造船所で建造されました。明治7年(1874年)に竣工し、翌明治8年に横浜へ回航されています。船体は鋼ではなく鉄で、造船技術の移行期にあたる時期の船です。
Q明治丸と「海の日」にはどんな関係がありますか?
A明治9年(1876年)の東北・北海道巡幸で、明治天皇が青森から明治丸に乗船し、函館を経由して7月20日に横浜へ安着しました。この日を記念して昭和16年に「海の記念日」が制定され、平成8年に国民の祝日「海の日」となっています。
Q明治丸はなぜ重要文化財に指定されたのですか?
A日本に現存する唯一の鉄船であり、当時日本が所有した鉄船としては最大だったためです。昭和53年(1978年)5月31日の指定は、船舶としては初の重要文化財指定でした。船骨および船体、中甲板の士官室などに当初の姿がよく残っている点も評価されています。
Q明治丸のほかに、明治丸海事ミュージアムでは何が見られますか?
A百周年記念資料館、平成28年(2016年)の明治丸記念館、明治36年(1903年)建設の第一・第二観測台があります。観測台は登録有形文化財で、令和3年(2021年)に日本天文遺産に認定されました。記念館では建造指示書や船内で使われた銀製食器などが展示されています。

基本情報

名称明治丸
所在地東京都江東区越中島二丁目1番6号 東京海洋大学構内
指定区分重要文化財(近代/産業・交通・土木) 指定番号02062
指定年昭和53年(1978年)5月31日
員数1隻
寸法鉄製、三牆シップ型帆船(補助帆付汽船)、明治7年(1874年)竣工
所有者国立大学法人東京海洋大学
公開状況明治丸海事ミュージアムとして無料公開、船内見学可。公開日は限定(基本は火曜・木曜と第1・第3土曜)で月ごとに発表。10人以上は事前連絡が必要

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース — 明治丸
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/555
文化遺産オンライン — 明治丸
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/155095
東京海洋大学 — 明治丸海事ミュージアム(公式)
https://www.kaiyodai.ac.jp/overview/facility/meijimaru/

最終更新日: 2026.08.22