東京商船大学旧天体観測所(第一観測台) ― 船乗りが星を読む場所

越中島の正門を入ってすぐ、大きな校舎から少し離れた木立のなかに、明治36年(1903年)に建てられた小さな煉瓦造の塔が建つ。住宅ほどの規模でありながら、その用途は精密だった。商船の航海士を養成する学校には天測航海、すなわち太陽や星の観測から船位を求める技術を教える必要があり、この第一観測台は、学生が海へ出る前にその修練を地上で行うための場であった。

構造は煉瓦造2階建、鉄板葺、建築面積はわずか約26平方メートル。その平面幾何が見どころとなる。一階は八角形、二階は円形の平面をもち、二階の外壁は漆喰塗りとし、上部にドーム屋根をかける。第一観測台は一般に赤道儀を据えた観測室として説明されるが、赤道儀は一つの動きで星の日周運動を追える形式の望遠鏡である。ただし古い記録では別の観測機器名でも呼ばれており、名称には資料間の揺れがある。

登録の意味と価値

第一観測台は登録有形文化財で、登録年月日は平成9年(1997年)12月12日、告示は平成10年(1998年)1月8日、登録番号は13-0006である。登録は指定より緩やかな制度で、現役の機関のなかに残り続ける建造物に適した枠組みである。

同じキャンパスの校舎と観測台を分けるのは、登録基準の違いにある。1号館や2号館が「造形の規範となっているもの」として登録されたのに対し、観測台の基準は「再現することが容易でないもの」である。評価の核は稀少性にある。明治期に建てられた天体観測専用の施設で現存するものは極めて少なく、第一観測台は現存する日本最古級のドーム屋根をもつ観測室ともいわれる。丁寧な小規模の造りは再現が難しく、その希少さこそが登録の守るものである。

見どころ

外からでも設計の理屈は目で追える。下の八角が安定した多面体の基部をつくり、上の円がドームの回転を可能にする。ドームは手動で全周を回転できるように造られ、開口部を天空のどの方向にも向けられた。その下には口径約4インチの望遠鏡が据えられていたと記録される。歳月と使用の痕跡は残り、望遠鏡の鏡筒は失われ、機器も完品ではない。それでも観測を成り立たせた躯体は今も読み取れる。

第一観測台とその相棒である第二観測台は正門近くに並び、キャンパスの敷地から見ることができる。建物の内部には立ち入らない。両者は現在、重要文化財の鉄船・明治丸を中心とする明治丸海事ミュージアムの一部を構成し、この形での一般公開は平成28年(2016年)に始まった。観測台を眺め、あわせて明治丸に乗り込めば、この学校が海をどう教えたか、空からと船体からの両面を確かめられる。

Q&A

Qなぜ商船の学校に観測所があったのですか。
A航海士は海上で太陽や星を測って船位を求めました。天測航海の訓練には観測機器を扱う安定した場所が必要で、観測台がそれを陸上で提供したのです。
Qなぜ一階は八角形で二階は円形なのですか。
A八角の基部は堅固な多面体の据わりを与え、円形の上階はその上のドームが回転できるようにするためです。二つの形はそれぞれ別の構造的役割を担っています。
Q当時の望遠鏡は今も残っていますか。
A残っていません。ドームの下に口径約4インチの赤道儀式望遠鏡があったと記録されますが、鏡筒は失われ、架台も完品ではありません。建物と回転するドームは現存します。
Q内部を見学できますか。
A観測台はキャンパスの敷地から外観を眺める形で、内部には立ち入りません。第二観測台とともに越中島キャンパスの正門近くに建っています。
Q実際どのくらい古いのですか。
A建設は明治36年(1903年)です。現存する日本最古級のドーム屋根をもつ観測室ともいわれ、この表現は明治期のこうした施設がいかに残りにくいかを反映しています。

基本情報

名称東京商船大学旧天体観測所(第一観測台)
所在地東京都江東区越中島2-1-6(東京海洋大学 越中島キャンパス)
指定区分登録有形文化財(登録番号 13-0006)
登録年月日平成9年(1997年)12月12日(告示 平成10年1月8日)
建設年明治36年(1903年)
構造煉瓦造2階建、鉄板葺、建築面積約26平方メートル。一階八角・二階円形の平面にドーム屋根
員数1棟
所有者国立大学法人東京海洋大学
公開状況キャンパス敷地からの外観見学、内部立ち入りなし

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) — 東京商船大学旧天体観測所(第一観測台)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000391
東京海洋大学 — 明治丸海事ミュージアム
https://www.kaiyodai.ac.jp/overview/facility/meijimaru/
東京海洋大学 — 越中島キャンパスマップ
https://www.kaiyodai.ac.jp/admission-cms/sp/mt/map/ettyuujima.html

最終更新日: 2026.07.10