正法寺川砂防施設の概要

正法寺川砂防施設は、山形県天童市大字下荻野戸を流れる正法寺川に、山形県が大正11年(1922年)から昭和2年(1927年)にかけて築いた石堰堤と水制工の群で、平成17年(2005年)にそのうち29件が登録有形文化財(建造物)に登録された。

正法寺川は雨呼山(あまよばりやま)を水源とし、天童市の南東部を流れて倉津川に合わさり、最上川へ注ぐ普通河川である。山形県の資料によれば、倉津川を含めた流路延長は16.2キロメートル、流域面積は34.3平方キロメートル。古くから下流の農業用水の水源だったが、集中豪雨のたびに氾濫を繰り返してきた。

本格的な砂防工事の引き金は大正2年(1913年)の大洪水である。第1期工事は北沢で大正11年(1922年)から14年(1925年)まで、第2期工事は南沢で昭和元年(1926年)から2年(1927年)まで行われた。山形県の資料は、北沢に石堰堤21基・床止石堰堤2基・石積護岸10か所・鉄線蛇籠水制工32か所、南沢に石堰堤15基・石積護岸6か所が設けられたと記す。正法寺川砂防施設として登録されたのは、このうち現存状態の良い29件である。

三つの沢と施設の並び

正法寺川砂防施設は、正法寺川上流の三つの沢に分かれて並ぶ。北沢には第一号から第十六号までの石堰堤が上流から番号順に据えられ、第一号の約55メートル下流には第一号の甲石堰堤が加わる。登録された北沢の堰堤に第十一号は無く、番号は第十号から第十二号へ飛ぶ。

北沢の第一号から第十号は、モルタルを使わない空積の堰堤で、大正11年(1922年)から12年(1923年)に築かれた。第十号の約190メートル下流の第十二号から下は、石を斜めに組んで目地をモルタルで固める谷積の練積に変わり、大正12年(1923年)から14年(1925年)にかけて第十五号まで続く。第十五号の下流には大正13年(1924年)の北沢鉄線蛇籠水制工が、さらに下流の第十六号石堰堤(大正14年(1925年))の下には北沢下流鉄線蛇籠水制工が配される。

北沢第二号石堰堤の上手では、右支の狸沢(たぬきさわ)が合流する。狭い谷に大正12年(1923年)の小さな練積堰堤が3基、30〜35メートルおきに詰めて置かれている。

南沢(みなみさわ)には第2期工事の石堰堤のうち8基が登録されている。大正15年(1926年)と昭和2年(1927年)の築造で、第五号から第十四号まで番号が並ぶ(第九号は「第九号の一」、第十号・第十一号は登録されていない)。第八号だけが空積で、ほかは谷積の練積である。文化庁の解説は、南沢の石堰堤が高さ10尺(約3.0メートル)でほぼ統一されていると記す。

技術と登録の意義

正法寺川砂防施設の見どころは、一つの小河川の中で石の積み方が移り変わっていく点にある。上流の北沢では切石を水平に通す布積の空積で堰堤を築き、下流へ進むと谷積の練積に切り替わる。文化庁は北沢第十二号石堰堤をわが国に築かれた初期の練積砂防堰堤と位置づけ、北沢第一号石堰堤の切石空積・布積を類例の少ない構造形式と評価している。

水制工には、機械で亀甲形の網目に編んだ、いわゆる川崎式の鉄線蛇籠が使われている。蛇籠を2段に重ね、その上に蛇籠を鞍のように覆いかぶせた鞍掛水制工で、文化庁は北沢下流鉄線蛇籠水制工を、屈撓性に優れた蛇籠水制工の中で最も堅牢な形式の一つとしている。山形県は、空積・練積の石堰堤と鞍掛式の水制工の組み合わせを全国的にも初期の事例と説明する。

工事の調査は県技師の木幡長命(こはた ちょうめい)を中心に行われ、現場監督は県土木技手補の佐藤總一郎が務めたと伝わる。29件は平成17年(2005年)の7月12日に19件、11月10日に10件と2回に分けて登録された。登録基準は施設によって異なり、北沢の空積堰堤には「再現することが容易でないもの」、練積堰堤には「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、二つの水制工には「造形の規範となっているもの」が当てられている。

見学方法

正法寺川砂防施設は観光施設として整えられた場所ではなく、山形県・天童市とも見学路や駐車場を案内していない。最寄りの鉄道駅はJR奥羽本線(山形線)の天童南駅で、堰堤の並ぶ谷は地図上では駅から東へ直線でおよそ4〜5キロメートルの山すそに当たる。路線バスは近くまで通っていないため、車かタクシーで沢の近くまで行き、そこから歩いて近づくことになる。

屋外の河川施設なので入場料や公開時間の定めはなく、撮影を制限する記載も公式資料には無い。北沢の上流側の堰堤は数十メートルおきに並ぶので、一基を見つければ前後の堰堤もたどりやすい。ただし沢は急で足場が悪く、雨のあとや増水時には近づかないこと。冬は雪で沢筋に入りにくい。山林に入るので、山歩きの装備で出かけたい。

現地の状況は、天童市の商工観光課(電話023-654-1111)に問い合わせると確実である。

名称と読み

正法寺川砂防施設は「しょうほうじがわさぼうしせつ」と読む。三つの沢は文化庁のデータベースと山形県の資料でそれぞれ「きたさわ」「たぬきさわ」「みなみさわ」と読まれている。

北沢第一号の甲石堰堤の「甲」は、文化庁と山形県が「こう」と読むのに対し、天童市の観光情報サイトは「甲石(かぶといし)堰堤」としている。また天童市のサイトの一覧には北沢第十一号石堰堤が含まれるが、文化庁のデータベースと山形県の資料の登録一覧には見当たらない。本サイトは文化庁と山形県の表記に従っている。

参考文献

山形県「登録有形文化財登録 正法寺川(しょうほうじがわ)砂防施設」(PDF)
https://www.pref.yamagata.jp/documents/4123/syohozigawa.pdf
山形県「いのちとくらしを守る砂防」
https://www.pref.yamagata.jp/180010/bosai/kochibou/bousaijouhou/fuusuidosha/doshasaigai/inotitokurasisabo.html
国指定文化財等データベース(文化庁)「正法寺川北沢第一号石堰堤」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004851
国指定文化財等データベース(文化庁)「正法寺川北沢第十二号石堰堤」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004861
国指定文化財等データベース(文化庁)「正法寺川北沢下流鉄線蛇籠水制工」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004904
国指定文化財等データベース(文化庁)「正法寺川南沢第十三号石堰堤」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004894
天童市観光情報サイト「登録有形文化財ほか」
https://www.city.tendo.yamagata.jp/tourism/history/tourokubunkazaihoka.html

最終更新日: 2026.09.24

基本情報

名称正法寺川砂防施設
所在地山形県天童市大字下荻野戸
所有者山形県
指定登録有形文化財 29件
座標38.32579, 140.41375