二度移された、建築面積23平方メートルの洋館
旧井上家住宅西洋館は、愛知県豊田市平戸橋町の豊田市民芸館の敷地内に建つ明治時代の木造2階建の洋風建築で、平成12年(2000年)10月18日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。建築面積は23平方メートルと小さい。
文化庁の国指定文化財等データベースは、この建物が名古屋で開かれた博覧会の貴賓館として建てられたと伝わることを記す。その後は用途を変えながら移築と増改築を重ねた。豊田市民芸館の説明によれば、博覧会の迎賓館として使われたのち関戸銀行の建物となり、同行に勤めていた井上徳三郎(1867年から1936年)によって猿投の井上農場へ移されて、農場の迎賓館や住宅として長く使われた。
平成元年(1989年)、豊田市はこれを市内井上町から平戸橋町の豊田市民芸館の敷地へ移築復元した。井上町という地名は、井上農場を開き三河鉄道へ土地を寄付するなど地域の発展に関わった徳三郎の名に由来する。旧井上家住宅西洋館は、その井上家の記憶を建物のかたちで残したものといえる。
「造形の規範」として登録された理由
登録の基準は「造形の規範となっているもの」である。愛知県内の登録有形文化財の多くが「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で登録されているなかで、この基準が使われている点にまず意味がある。景観への貢献ではなく、意匠そのものの水準が評価されたということである。
評価の対象は擬洋風建築としての意匠である。構造は木造2階建、屋根は寄棟造の桟瓦葺、外装は下見板を張り、ベランダが付く。西洋の様式を正確に写したものではなく、日本の大工が見よう見まねで西洋風を仕立てた建築で、明治初期に各地で建てられた。
文化庁データベースが具体的に挙げるのは開口部の多様さである。連子格子、上げ下げ窓、引違窓、回転窓と、四種類の異なる形式が一棟のなかに同居する。加えて軒板飾と高欄に擬洋風建築らしい意匠が読み取れるとする。
建築年代は明治10年代、すなわち1877年から1886年ごろと推定されている。豊田市民芸館も「推定明治10年代」と記しており、竣工年を特定する史料は示されていない。
見どころ
建物の東側、2階の外壁に付く窓枠の意匠に注目したい。カブに似た形をしており、豊田市民芸館はこれについて五七桐紋とする見方と、カブが「株が上がる」に通じるとする見方の両方を紹介している。銀行として使われた時期のある建物であることを思うと、後者の解釈は面白い。ただしどちらも定説として示されているわけではない。
1階と2階で表情が変わるのも旧井上家住宅西洋館の特徴である。1階の外観と屋根瓦は和風で、2階には西欧に由来する意匠が随所に入る。和洋の切り替えが上下で起きている。
四種類の窓を探すのも見学の楽しみになる。竪の桟を並べた連子格子、上下に滑らせる上げ下げ窓、左右に引く引違窓、軸で回る回転窓。一棟の建物にこれだけの形式を混ぜたのは、様式の統一より新しい技術や意匠を試すことに関心が向いていた時代の空気を示している。
建築面積23平方メートルという数字も覚えておきたい。畳にすればおよそ14畳分にあたる。豊田市民芸館の施設一覧では延床46平方メートルとされ、2階建てであることと符合する。小さな建物が二度の移築を経て残ってきた事実そのものが、旧井上家住宅西洋館の来歴を示している。
見学方法
旧井上家住宅西洋館は豊田市民芸館の敷地内にあり、開館時間内であれば外観を見学できる。内部は公開されていない。
豊田市民芸館の開館時間は午前9時30分から午後5時まで。休館日は毎週月曜日で、祝日の場合は開館する。年末年始は12月28日から1月4日まで休みとなる。展示替えの期間は第1民芸館と第2民芸館が休館する。
展示館の観覧料は展覧会ごとに異なり、中学生以下は無料である。豊田市内在住で満70歳以上の方など、減免の対象も定められている。
電車では名鉄三河線平戸橋駅から徒歩15分。車では東海環状自動車道の豊田勘八インターチェンジから約10分で、駐車場は前田公園駐車場(無料)を利用する。青木町1丁目の信号を北へ進み、案内看板を右折して坂を下った場所にある。問い合わせは豊田市民芸館(電話0565-45-4039)まで。(開館時間と観覧料は2026年9月1日時点の情報)
Q&A
- 旧井上家住宅西洋館の内部は見学できますか?
- 内部は公開されていません。豊田市民芸館の敷地内に建っており、開館時間内であれば外観を見学できます。
- 旧井上家住宅西洋館へのアクセスと開館時間、料金は?
- 名鉄三河線平戸橋駅から徒歩15分です。豊田市民芸館の開館時間は午前9時30分から午後5時まで、月曜休館(祝日は開館)。展示館の観覧料は展覧会により異なり、中学生以下は無料です。駐車場は前田公園駐車場を無料で利用できます。
- 旧井上家住宅西洋館はもともとどこにあった建物ですか?
- 名古屋で開かれた博覧会の貴賓館として建てられたと伝わります。その後、関戸銀行の建物として使われ、井上徳三郎によって猿投の井上農場へ移築されました。平成元年(1989年)に豊田市民芸館の敷地へ再び移されています。
- 旧井上家住宅西洋館は何が評価されて登録有形文化財になったのですか?
- 「造形の規範となっているもの」という基準で平成12年(2000年)10月18日に登録されました。連子格子、上げ下げ窓、引違窓、回転窓という四種類の開口部が同居する点、軒板飾と高欄に擬洋風建築の意匠が見られる点が挙げられています。
- 旧井上家住宅西洋館はいつ建てられたのですか?
- 明治10年代、1877年から1886年ごろの建築と推定されています。豊田市民芸館も「推定明治10年代」としており、竣工年を確定する史料は示されていません。
基本データ
| 名称 | 旧井上家住宅西洋館(きゅういのうえけじゅうたくせいようかん) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県豊田市平戸橋町波岩86-100 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成12年(2000年)10月18日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、建築面積23平方メートル |
| 所有者 | 豊田市 |
| 公開状況 | 外観のみ公開。午前9時30分から午後5時まで、月曜休館。内部は非公開 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース「旧井上家住宅西洋館」(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00001912
- 文化遺産オンライン「旧井上家住宅西洋館」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/167222
- 豊田市民芸館「豊田市民芸館について」
- https://www.mingeikan.toyota.aichi.jp/about/
- 豊田市民芸館「ご利用案内」
- https://www.mingeikan.toyota.aichi.jp/guide/
- 豊田市民芸館「アクセス」
- https://www.mingeikan.toyota.aichi.jp/access/
最終更新日: 2026.08.31