二階建の煉瓦棟に接続する五階建の塔

半田赤レンガ建物のうち、二階建の煉瓦壁の一角から五階までせり上がる部分が、明治31年(1898)竣工の創建時主棟である。低い二階建には発酵室と貯蔵室が置かれ、そこへ接続する高い五階建には事務室と技師室が入った。複数の棟からなるこの工場群で最初に建てられたのが本棟で、以後の増築の意匠もここを基準に整えられていった。

建てたのは丸三麦酒。中埜酢店(現ミツカン)四代・中埜又左衛門と、甥で後に敷島製パン(現Pasco)を興す盛田善平らが、大都市ではなく醸造の町・半田に本格的なドイツ式ビール工場を築いた点に、この遺構の特異さがある。銘柄はカブトビールと称した。

主棟が評価される理由

創建時主棟は平成16年(2004)に登録有形文化財となった(登録番号23-0134)。登録基準は「造形の規範となっているもの」。明治期の煉瓦造産業建築は現存例が限られ、なかでも煉瓦造のビール工場は数えるほどしか残らない。その希少性が、本棟の資料的価値を支えている。

設計は妻木頼黄とされる。辰野金吾、片山東熊と並んで明治建築界の三巨匠に数えられた人物で、東京・日本橋の装飾部や横浜の臨海施設にも関与した。半田の工場は妻木の現存作のうち最も古いものと考えられている。窓の意匠には序列があり、下層は要石を据えた櫛形アーチ、五階では迫元石と要石を伴う半円アーチへと格を上げている。

構造を規定したのは醸造という用途である。発酵室・貯蔵室の二階床と天井は、I形鉄梁のあいだに煉瓦アーチを充填した耐火床とした。外壁は空気層を挟む複壁とし、四季を通じて室内の温度と湿度を一定に保つよう工夫している。日本の夏にビールを冷涼に保つという実際的な課題への解答が、そのまま躯体に残されている。

訪れて見るべき点

まず北面に回ると、煉瓦壁に機銃掃射の痕が刻まれている。昭和20年(1945)の半田空襲で、P-51戦闘機から受けたものである。この頃には工場は中島飛行機の倉庫に転用され、ビール醸造は既に止まっていた。えぐれた煉瓦は、この地域の登録文化財に残る数少ない戦災の痕跡といえる。戦後は一時コーンスターチ工場として使われ、のちに半田市の管理下に入った。

内部の一階には展示室と物販、そしてカフェ&ビアホールRe-BRICKが入る。明治33年(1900)のパリ万国博覧会で金牌を得ながら工場閉鎖とともに姿を消したカブトビールは、平成17年(2005)に地元の保存団体の手で復刻された。現在は明治期と大正期、二種の復刻版が生ビールで供される。建物は平成27年(2015)の耐震改修を経て通年公開されている。五階建の量塊は距離を取ると把握しやすいので、展示室だけでなく外周も歩いておきたい。

Q&A

Q主棟の設計者は誰ですか。
A明治建築界の三巨匠の一人、妻木頼黄とされます。半田の工場は妻木の現存作で最古と考えられ、基礎設計にはドイツの機械製作所が関わったと伝わります。
Qなぜ一部が五階建なのですか。
A高い五階建の部分に事務室と技師室が入り、接続する二階建に温度管理を要する発酵室・貯蔵室が置かれました。用途に応じて高さを分けた構成です。
Qカブトビールとは何ですか。
A明治31年からこの工場で醸造されたドイツ式ビールです。半田の企業が大手に挑んだ銘柄で、パリ万博で金牌を受け、平成17年に地元の団体が復刻しました。
Q内部に入って復刻ビールは飲めますか。
A通年公開されており、Re-BRICKで復刻カブトビールを味わえます。展示室の一部は有料で、撮影が制限される部屋もあります。
Qアクセスはどうなっていますか。
A半田市榎下町8にあり、名鉄住吉町駅から東へ徒歩圏、名古屋から車で約1時間です。敷地内に駐車場があります。

基本情報

名称半田赤レンガ建物(旧カブトビール工場)創建時主棟
所在地愛知県半田市榎下町8
指定区分登録有形文化財(平成16年7月23日登録/登録番号23-0134)
年代明治31年(1898)
構造煉瓦造2階建一部5階建、鉄板葺、建築面積約636㎡、員数1棟
設計妻木頼黄(基礎設計はドイツの機械製作所)
所有者半田市
公開通年公開(年末年始休)。館内にRe-BRICKおよび物販あり

References

文化庁 国指定文化財等データベース — 創建時主棟
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004241
半田赤レンガ建物 — 公式サイト「半田赤レンガ建物とは」
https://handa-akarenga.com/about/
半田市観光協会 — 半田赤レンガ建物
https://www.handa-kankou.com/spot/akarenga/
愛知県公式観光サイト Aichi Now — 半田赤レンガ建物
https://aichinow.pref.aichi.jp/spots/detail/31/

最終更新日: 2026.07.04