校名が変わっても残った呼び名

旧愛知県半田中学校武道場(七中記念館)は、愛知県半田市出口町の愛知県立半田高等学校の校地に建つ大正13年(1924年)の武道場で、令和4年(2022年)6月29日に国の登録有形文化財(建造物)となった。鉄筋コンクリート造平屋建、建築面積275平方メートル、員数は1棟である。

通称の「七中」は、この学校の最初の名前から来ている。学校の沿革によれば、愛知県立第七中学校として設立が認可されたのが大正7年(1918年)11月、開校は翌大正8年(1919年)4月で、当初は知多郡半田第一尋常高等小学校を仮校舎とした。大正9年(1920年)に半田町西ノ口の新校舎へ移り、大正11年(1922年)に愛知県半田中学校と改称する。校舎一式の竣工と落成式は大正13年(1924年)11月で、武道場が建ったのもこの年にあたる。

つまり建物が完成したとき、学校はすでに「半田中学校」を名乗っていた。文化財としての登録名が旧愛知県半田中学校武道場となっているのはそのためで、一方、卒業生のあいだで通ってきた呼び名のほうは「七中」を手放さなかった。昭和23年(1948年)に新学制で愛知県立半田高等学校となった後も、この一棟だけは七中記念館と呼ばれ続けている。

県立高校で初めて登録された「建築物」

登録の基準は「造形の規範となっているもの」。登録番号は23-0578、第102回の登録である。

愛知県立半田高等学校の説明によれば、旧愛知県半田中学校武道場(七中記念館)は、県内に現存する旧制中学校の鉄筋コンクリート造武道場としては最も古い。大正末から昭和初めにかけて、愛知県の学校建築は木造から鉄筋コンクリート造へ移っていく。その切り替わりのごく初期に属する一棟という位置づけになる。

制度の側から見ても、この登録には区切りの意味があった。愛知県立高校では、それまでに門柱などの工作物13か所が登録有形文化財となっていたが、建築物として登録されたものは一件もなかった。令和4年の登録で、七中記念館と名古屋市の瑞陵高等学校感喜堂(旧講堂)の2件が、県立高校では最初の建築物となっている。

愛知県教育委員会が平成27年度(2015年度)に実施した所在調査では、県立高校の校地に残る戦前の建築物は7校7件だけだった。津島中学校の旧講堂、瑞陵の感喜堂、碧南や西尾の武道場などが並ぶなかに、半田の旧武道場も名を連ねている。

半切妻の屋根と、天井の上にあったもの

屋根は半切妻造の桟瓦葺である。切妻屋根の両端、三角形になる頂部だけを切り落として寄棟のように寝かせた形で、真横から見ると屋根の稜線が途中で折れる。西を正面として切妻造の玄関突出部が前へ出て、東側、つまり運動場に面した側には出入りのための扉が設けられている。

外観の細部はセセッション、ウィーン分離派の系譜に属する意匠でまとめられている。縦長の窓が壁面に等間隔で並び、柱形の頭部には縦横の直線を組み合わせた簡素な飾りが置かれる。曲線も彫刻もない。鉄筋コンクリートという当時なお新しい材料に、幾何学だけで表情をつけた壁である。屋根に瓦を葺き、壁面から柱形を浮き出させた構成は、離れて見ると木造の真壁のようにも見える。和と洋のどちらとも決めがたいこの外観が、大正末という時代の位置を示している。

武道場は床に柱を立てられない。稽古の場の真ん中に柱があっては使いものにならないからである。ここで採られたのは、木材と丸鋼を組み合わせた混合トラスだった。引張材に丸鋼、圧縮側に木材を使い分けて小屋組を軽くまとめる方法で、鋼材が高価だった時代に大空間を架けるための現実的な解でもある。学校が公開している写真では、天井の上に隠れていたこの架構が室内から見上げられる状態になっている。

内部は床が板張り、腰壁はモルタル仕上げで、その上は白い壁である。装飾はほとんどない。縦長窓から入る光が白壁に縞をつくる、それだけの部屋だと言ってよい。

使われなくなり、また使われるまで

百年のあいだに、この建物の役目は何度か変わっている。同窓会館である柊陵会館ができるまでは図書館として使われた時期があり、その後は柔道や剣道、卓球の場になった。旧制半田中学校の生徒から戦後の半田高校生まで、世代を越えて通った建物である。昭和25年(1950年)には改修も受けている。

やがて耐震上の問題が明らかになり、七中記念館は使用を止められた。学校が平成29年(2017年)時点で公開していた文章では、建物は使われておらず、備品を置く場所になっていたと記されている。取り壊しの候補になってもおかしくない状態である。

ここで方向が変わったのは、創立100周年の記念事業だった。平成30年(2018年)、卒業生らの寄付を得て改修工事が行われ、七中記念館は再び使える建物として整備された。現在は生徒の授業や部活動、講演会の会場にあてられている。登録有形文化財としての価値が認められたのは、この改修から4年後のことである。

使われなくなった建物が、いったん退いてから現役に戻り、その状態で文化財になった。登録有形文化財という制度が想定している「活用しながら守る」という形が、そのまま実現している例と言える。

見学方法とアクセス

あらかじめ承知しておいてほしいことがある。旧愛知県半田中学校武道場(七中記念館)は、現に生徒が通う県立高校の校地の中央北寄りに建っている。観光施設ではなく、公開時間や見学料の設定はない。予約なしに校門を入って見学を求めれば、授業や部活動の妨げになる。

見学を希望する場合は、事前に愛知県立半田高等学校へ相談するのが筋である。文化財としての内容についての問い合わせ先は、愛知県の発表資料では半田市教育委員会の半田市立博物館とされている。いずれの連絡先も、参考文献に挙げた公式ページに掲載されている。

撮影についても同様で、校地内での撮影は学校の許可を得てからにしたい。生徒が写り込む時間帯は避けるべきである。

アクセスは、名鉄河和線の住吉町駅から西へ徒歩8分。JR武豊線の半田駅からは北西へ徒歩25分ほどかかる。名古屋方面からは、名鉄名古屋駅から河和線の列車で住吉町駅へ向かうのが分かりやすい。所在地は半田市出口町1丁目30である。

Q&A

Q旧愛知県半田中学校武道場(七中記念館)は見学できますか。
A現役の愛知県立半田高等学校の校地内にあり、一般公開は行われていません。公開時間や見学料の設定もありません。見学を希望する場合は、事前に学校へ相談してください。予約なしの訪問は避けてください。
Q旧愛知県半田中学校武道場(七中記念館)への行き方と最寄り駅を教えてください。
A名鉄河和線の住吉町駅から西へ徒歩8分です。JR武豊線の半田駅からは北西へ徒歩25分ほど。所在地は半田市出口町1丁目30、愛知県立半田高等学校の校地内です。
Q七中記念館という名前は何に由来しますか。
A学校の最初の校名である愛知県立第七中学校に由来します。大正8年(1919年)にこの名で開校し、大正11年(1922年)に愛知県半田中学校と改称しましたが、卒業生のあいだでは「七中」の呼び名が残り、建物の通称になりました。
Q旧愛知県半田中学校武道場(七中記念館)は現在どのように使われていますか。
A生徒の授業や部活動、講演会の会場として使われています。耐震上の問題からいったん使用が止まっていましたが、平成30年(2018年)の創立100周年記念事業で改修され、現役の施設に戻りました。
Q旧愛知県半田中学校武道場(七中記念館)はなぜ登録有形文化財になったのですか。
A登録の基準は「造形の規範となっているもの」です。県内に現存する旧制中学校の鉄筋コンクリート造武道場では最も古く、縦長窓や柱頭飾りにセセッションの意匠を用いた外観が評価されました。愛知県立高校では建築物として登録された最初の2件のひとつです。

基本情報

名称旧愛知県半田中学校武道場(七中記念館)(きゅうあいちけんはんだちゅうがっこうぶどうじょう/ななちゅうきねんかん)
所在地愛知県半田市出口町1丁目30
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 23-0578/登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年令和4年(2022年)6月29日登録/第102回登録
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造平屋建、瓦葺、建築面積275平方メートル/大正13年(1924年)建築、昭和25年(1950年)・平成30年(2018年)改修
所有者愛知県
公開状況愛知県立半田高等学校の校地内。一般公開なし。見学は事前に学校への相談が必要

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧愛知県半田中学校武道場(七中記念館)」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014244
文化遺産オンライン「旧愛知県半田中学校武道場(七中記念館)」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/521524
愛知県「登録有形文化財(建造物)の登録について」(2022年3月18日発表)
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/bunkazai/touroku-2022318.html
愛知県「県立高等学校の歴史的建造物について」
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/bunkazai/kenritsukokorekishirekikenzobutsu.html
愛知県立半田高等学校「七中記念館」
https://handa-h.jp/memorial_hall_old_7th_jr_high_school.html
愛知県立半田高等学校「沿革」
https://handa-h.jp/history.html
愛知県立半田高等学校「アクセス・校内散策」
https://handa-h.jp/access.html

最終更新日: 2026.08.31