3.2平方メートルの登録有形文化財

伊藤家住宅腰掛待合は、愛知県津島市橘町4-84にある昭和23年(1948年)建築の腰掛待合で、平成21年(2009年)4月28日に登録有形文化財(建造物)に登録された。木造平屋建、銅板葺で、建築面積は3.2平方メートルしかない。

桁行2.7メートル、梁間1.2メートル。畳に置き換えれば2枚分ほどの床面積で、国の文化財のなかでも最小の部類に入る。庭園の西側、その中ほどに建つ。

腰掛待合は、茶事に招かれた客が席入りの合図を待つあいだ腰を下ろす施設である。建物というより庭の設備に近く、壁で囲い込まず、外に向かって開いた形をとる。伊藤家住宅腰掛待合も三方に壁を立てるだけで、残る一方は庭に開かれている。

茶室より新しい建物であること

伊藤家住宅腰掛待合の建築年は昭和23年(1948年)である。この年は、同じ庭園にある茶席水鶏庵が弥富の佐野家から移築された年にあたる。明治元年(1868年)に建てられた茶室が80年をへて津島に移されたとき、この待合は新しくつくられた。

茶室を移すだけでは茶事は成り立たない。客が門から席まで歩く道すじ、途中で待つ場所、手を清める鉢の位置。それらを合わせた露地という空間がそろって、はじめて一連の所作が続く。伊藤家住宅腰掛待合は、移築された茶室のために新たに整えられた露地の一部として建てられた建物と考えられる。

文化庁の記録も、この待合が水鶏庵とともに落ち着いた露地空間を構成すると評価している。単独の建物としてではなく、庭のなかの役割として見られているということである。

登録基準は「造形の規範となっているもの」。登録番号は23-0318、告示は平成21年(2009年)5月14日である。同じ日に登録された水鶏庵と基準も日付も揃っており、2棟をひとつの露地として扱う判断が読み取れる。

見どころは材料の選び方にある

伊藤家住宅腰掛待合を細部から見ていくと、材料の選択がそのまま意匠になっていることが分かる。

屋根は招造。切妻屋根の棟をずらし、片方の屋根面を長く伸ばした形式である。小さな建物ほど屋根の形は目立つので、この非対称は近寄ったときの印象を決める要素になる。葺材は銅板で、これは同じ庭の水鶏庵と共通する。

軸部材には主として丸太が用いられている。角材に製材せず、木の丸みを残したまま使う。軒の垂木は竹である。木材ではなく竹を使うのは茶の建築で好まれた手法で、細く軽い線が軒先に並ぶ。

三方の壁は土壁とし、右手の壁には下地窓が開けられている。下地窓は、土壁を塗るときに下地の竹や葭の骨組みをあえて塗り残し、そのまま窓とするものである。窓枠をつくって開口を設けるのではなく、塗らないことで穴が生まれる。伊藤家住宅腰掛待合のような小さな建物では、この一つの窓が壁面の表情をほとんど決めてしまう。

丸太、竹、土壁、塗り残した下地。どれも高価な材ではない。素材の素性を隠さずに使うという茶の建築の考え方が、3.2平方メートルという極小の面積のなかに収まっている。

見学方法

伊藤家住宅腰掛待合は個人が所有する住宅の庭園内にあり、通常は非公開である。文化庁データベースにも津島市の文化財ページにも公開の記載はなく、拝観の受付、公開日、料金のいずれも確認できない。

庭園の西側という位置のため、公道からその姿を見ることも難しい。敷地に無断で入ることはできない。特別公開や茶会などの機会が生じる可能性は残るので、訪問を検討する場合は津島市役所(電話0567-24-1111)に事前に問い合わせるのが確実である。市の文化財情報は「津島市の歴史・文化遺産」というデジタルアーカイブで公開されている。

撮影も、私有地の庭園内であるため所有者の許可なく行うことはできない。

場所は、名鉄津島線・尾西線の津島駅から南西へおよそ1キロメートル、徒歩15分ほどの橘町4丁目である。同じ庭園には伊藤家住宅茶席水鶏庵が建ち、待合との距離は15メートルに満たない。待合が庭園の西側中ほど、茶席が南西隅という配置になっている。

Q&A

Q伊藤家住宅腰掛待合は見学できますか。拝観料はありますか。
A個人所有の住宅の庭園内にあり、通常は非公開です。公開日や拝観料の設定は文化庁データベースにも津島市の文化財ページにも記載がありません。訪問を検討する場合は津島市役所(電話0567-24-1111)へ事前の問い合わせをおすすめします。
Q腰掛待合とは何をするための建物ですか。
A茶事に招かれた客が、席入りの合図を待つあいだ腰を下ろすための施設です。露地と呼ばれる茶室の庭に置かれ、壁で閉じずに庭へ開いた形をとります。伊藤家住宅腰掛待合も三方だけを壁とし、残る一方を開いています。
Q伊藤家住宅腰掛待合はどれくらいの大きさですか。
A建築面積3.2平方メートル、桁行2.7メートル、梁間1.2メートルです。畳2枚分ほどの床面積にあたり、国の登録有形文化財のなかでも最小の部類に入ります。
Q伊藤家住宅腰掛待合はどのような材料でできていますか。
A屋根は招造の銅板葺、軸部材は主として丸太、軒の垂木は竹です。三方の壁は土壁で、右手の壁には下地の骨組みを塗り残した下地窓が開けられています。
Q伊藤家住宅腰掛待合と茶席水鶏庵はどのような関係ですか。
A同じ庭園にあり、ひとつの露地を構成する2棟です。水鶏庵は明治元年(1868年)の建築で昭和23年(1948年)に移築され、腰掛待合はその移築と同じ昭和23年に建てられました。登録も同じ平成21年(2009年)4月28日付です。

基本データ

名称伊藤家住宅腰掛待合(いとうけじゅうたくこしかけまちあい)
所在地愛知県津島市橘町4-84
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 23-0318
指定年平成21年(2009年)4月28日登録(告示は同年5月14日)
員数1棟
寸法桁行2.7メートル、梁間1.2メートル、建築面積3.2平方メートル
所有者文化庁データベースに所有者名の記載なし。個人所有の住宅の庭園内にある
公開状況非公開。公開日および拝観料の設定は確認できない

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース ― 伊藤家住宅腰掛待合
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007640
津島市の歴史・文化遺産 ― 伊藤家住宅腰掛待合
https://www.tsushima-bunka.jp/map/kenzoubutu/map000278.html
文化庁 国指定文化財等データベース ― 伊藤家住宅茶席水鶏庵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007637
津島市の歴史・文化遺産 ― 伊藤家住宅茶席水鶏庵
https://www.tsushima-bunka.jp/map/kenzoubutu/map000275.html
津島市 ― 文化財
https://www.city.tsushima.lg.jp/kosodate/manabu/bunkazai/index.html

最終更新日: 2026.08.29