宮殿の門に立っていた小屋
愛知県犬山市の丘陵にひろがる野外博物館・明治村に、見過ごされやすい小さな建物がある。明治村赤坂離宮正門哨舎は、建築面積わずか2平方メートルほど。八角形の平面をもつ木造の哨舎で、明治41年(1908年)、当時の東宮御所、すなわち現在の迎賓館赤坂離宮の正門わきに建てられた。
同じ哨舎は正門の内外あわせて4基あり、離宮を警護する者が立った。そのうちの1基が昭和58年(1983年)に明治村へ移築され、村内に組み直された。本体の宮殿は東京に残り、平成21年(2009年)に国宝へと指定されている。
「指定」ではなく「登録」
日本の建造物保護には、二つの制度が並び立っている。迎賓館赤坂離宮は、国家的に価値の高いものに限られる最上位、国宝に指定された建物である。一方で哨舎が受けたのは、より広い対象を守るために平成8年(1996年)に設けられた登録有形文化財という枠組みだった。従来の指定制度ではこぼれ落ちやすい近代の建物を、ゆるやかに保存へつなぐための仕組みである。
哨舎の登録は平成15年(2003年)12月1日、登録番号は23-0067。登録の理由は「造形の規範となっているもの」とされた。一人の衛兵が立つだけの小屋に、宮殿の門と同じだけの意匠の手が入っている。その小さな志が評価されたといえる。
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哨舎は、かつて寄り添っていた壮麗な正門の古典的な語彙を、縮尺を変えてくり返している。八面の壁は内外とも白いペンキ塗り。出入口には半円アーチがかかり、円形の小窓が壁を抜く。軒先には蛇腹がめぐり、その下に歯飾りと、雷文と呼ばれる角ばった連続文様が帯のように並ぶ。
頂には銅板で葺いた丸屋根がのる。屋根の頂部では巻軸の飾りに花綱が組み合わされ、最上部に球が据えられている。間近に立つと、衛兵が一人立てるだけの大きさの建物に、宮殿並みの装飾が施されている不思議さに気づく。
片山東熊と離宮
宮殿と正門を設計したのは片山東熊(1854〜1917年)である。工部大学校造家学科の第一回卒業生4人のうちの一人で、日本で最初の専門教育を受けた建築家の一群を、英国人建築家ジョサイア・コンドルが指導していた。片山は宮内省に入り、帝国奈良博物館や帝国京都博物館などを手がけて、宮廷建築の第一人者となった。
東宮御所の設計にあたり、片山は欧米各地を視察し、フランスのヴェルサイユ宮殿やルーヴル宮殿の意匠から着想を得た。明治42年(1909年)に竣工した宮殿は、日本で唯一のネオ・バロック様式の宮殿としばしば呼ばれる。その前年に完成した哨舎は、華やかな正門と調和するよう形づくられた。
明治村をめぐる
明治村は昭和40年(1965年)、近代化のなかで取り壊されてゆく明治期(1868〜1912年)の建物を救おうと開かれた。入鹿池のほとりの敷地には、いまや60を超える建造物が並び、そのうち11件が重要文化財である。なかでも知られるのが、米国の建築家フランク・ロイド・ライトが設計した旧帝国ホテルの中央玄関で、ここで一片ずつ組み直された。
村内では、古い蒸気機関車と京都市電が今も来訪者を区画から区画へ運ぶ。城下町の犬山も近く、現存する国宝天守のひとつ犬山城までは30分ほどの距離にある。
Q&A
- 哨舎の中には入れますか。
- 一人がやっと立てるほどの小屋で、内部に入る造りではありません。周囲をぐるりと歩けるので、アーチの出入口や円形の小窓、屋根の飾りを近くから観察するとよいでしょう。
- これは本物の建物ですか、それとも複製ですか。
- 明治41年(1908年)建造の本物です。東京で解体され、昭和58年(1983年)に明治村で組み直されました。村内の多くの建物が、こうして保存されています。
- 元になった宮殿も見られますか。
- はい。迎賓館赤坂離宮は東京都心にあり、一年の多くの時期に一般参観を受け付けています。公式行事の際は参観が休止されるため、訪れる前に公式サイトで日程をお確かめください。
- 明治村へはどう行けばよいですか。
- 名古屋から名鉄で犬山駅へ向かい、東口からバスで博物館に入るのが基本です。名古屋市内からのバスもあります。バスの本数が限られるため、車で訪れる人も多くいます。
- 開村時間はいつですか。
- 季節によって変わり、おおむね3月〜10月は9時30分〜17時、11月〜2月は10時〜16時です。敷地が広いので一日かけて回るのがおすすめです。休村日や整備による変更があるため、公式サイトでご確認ください。
基本情報
| 名称 | 明治村赤坂離宮正門哨舎(めいじむらあかさかりきゅうせいもんしょうしゃ) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県犬山市内山1 博物館明治村内 |
| 旧所在地 | 東京都港区元赤坂 |
| 区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成15年(2003年)12月1日(登録番号 23-0067) |
| 年代 | 明治41年(1908年)建造/昭和58年(1983年)移築 |
| 員数 | 1棟 |
| 構造 | 木造平屋建、銅板葺、八角平面、建築面積約2.0平方メートル |
| 設計(離宮) | 片山東熊 |
| 所有者 | 公益財団法人明治村 |
| 公開 | 野外博物館・明治村内に所在(入村は有料) |
参考文献
- 文化遺産オンライン(国立文化財機構)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/116534
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003654
- 博物館明治村 公式サイト(赤坂離宮正門哨舎)
- https://www.meijimura.com/enjoy/sight/building/1-5.html
最終更新日: 2026.06.17