焼け残った四棟という事実
名古屋城は、愛知県名古屋市中区本丸にある近世城郭で、慶長期に建てられた櫓三棟と門一棟が昭和5年(1930年)12月11日に国の重要文化財に指定されている。指定を受けているのは表二の門、本丸南西隅の西南隅櫓、本丸南東隅の東南隅櫓、御深井丸北西隅の西北隅櫓の四棟である。
この「四棟」という数字が、この城を理解する出発点になる。徳川家康が九男義直のために慶長15年(1610年)に築城を始め、同18年(1613年)頃までに大天守、御殿、多数の櫓、それらをつなぐ多門櫓が整った。国内でも屈指の規模をもつ城郭だった。それが昭和20年(1945年)5月14日の空襲で大半を失う。金鯱を頂いた大天守も、本丸御殿も、表一之門も、一夜で灰になった。
いま本丸の南口をくぐるとき目の前にある門、そして石垣の隅に見える三つの櫓が、その残りである。数十棟のうちの四棟。堀の内側に建つそれ以外の建物は、復元か再建である。
名古屋城全体は国の特別史跡に指定され、二之丸庭園は平成30年(2018年)に名勝となった。重要文化財の指定はそれとは範囲が異なる。火をくぐり抜けた木材と漆喰と瓦そのものにかかっている。
なぜ指定されたのか
四棟は昭和5年(1930年)に一括して、当時の国宝保存法にもとづく国宝として指定された。昭和25年(1950年)に文化財保護法が施行された際、重要文化財へ移行している。古い案内書が「国宝」と記しているのはこの経緯による。
小天守に迫る規模の櫓
西南隅櫓と東南隅櫓は、いずれも慶長17年(1612年)頃の建造とされる。外から見ると屋根は二重だが、内部は三階になっている。一重目に屋根を設けていないため、見た目の重数と実際の階数が食い違う。全国的にも例の少ない形式である。
大きさも櫓の域を超えている。西南隅櫓は東西約11.8メートル、南北約13.5メートル、高さ約14.1メートル。上下四方に屋根や庇を回した入母屋造で、平瓦と丸瓦を組み合わせた本瓦葺きとする。
西北隅櫓はさらに大きい。外観三重、内部三階で、東西約13.9メートル、南北約16.9メートル、高さ約16.2メートル。江戸時代から現存する三階櫓のなかでは全国二番目の規模にあたる。完成は元和5年(1619年)で、南側の二棟より七年遅い。
撃たれることを前提にした門
表二の門は、古くは南二之門と呼ばれた本丸大手の外門である。形式は高麗門。本柱の上に切妻屋根をかけ、控柱の上に小さな屋根を左右に振り分ける。柱と扉には鉄板が打ち付けてある。軒回りは厚く漆喰で塗り込め、火矢のかかる隙をつくらない。
その内側にはかつて櫓門形式の表一之門が建ち、二つの門で枡形を構成していた。外門を破って踏み込んだ敵が正方形の空間に閉じ込められ、頭上から攻撃を受ける仕掛けである。内門は昭和20年(1945年)に焼失した。外門は残った。
現地で見るべきところ
三つの隅櫓は通常非公開で、外から眺めることになる。もっとも、情報量の多い部分は外側に集中しているため、見るものに困ることはない。
鬼瓦の紋を見比べる
まず棟の端の瓦に目を向けてほしい。東南隅櫓には徳川家の家紋である三つ葉葵が用いられている。家康が息子のために築いた城なのだから、当然といえば当然である。
ところが西南隅櫓の鬼瓦と棟瓦には菊紋が入る。理由は偶発的な事故にある。大正10年(1921年)、下の石垣が崩れて西南隅櫓は倒壊した。当時の管理者は宮内省で、大正12年(1923年)に完了した再建修復に際して菊の紋を用いた。同じ年に同じ形式で建てられた二棟が、いまは別の主の紋を掲げている。
防御装置は外から見える
南側二棟の二階部分を見上げると、三角形の小さな屋根が張り出している。千鳥破風である。西南隅櫓では西面と南面に、東南隅櫓では東面と南面に設けられている。その下に突き出しているのが石落とし。石垣に取り付いた敵に対して石を落とし、あるいは銃眼として使う開口部である。
東南隅櫓には他の二棟にない意匠が加わる。三階の東側の軒に、弓なりに反った軒唐破風がついている。防御上の機能はまったくない。この櫓が城の正面側、格式ある来訪者の通る方角を向いていたからである。
清洲櫓という伝承
西北隅櫓には清洲櫓という別名がある。名古屋城に先立つ尾張の拠点だった清洲城の天守を解体し、ここへ移して建てたという伝承によるものだ。昭和37年から39年(1962年から1964年)にかけて解体修理が行われた際、元和4年(1618年)9月以降の日付をもつ墨書と、尾張徳川家の大工頭であった沢田庄左衛門の名が確認された。同時に、他の建物から転用された部材も見つかっている。
伝承は半分だけ当たっていた。清洲から運ばれた古材はたしかに使われている。ただし清洲城の天守がそのまま移築されたわけではない。御深井丸側に立つ解説板がこの点を説明しており、立ち止まって読む価値がある。
訪問の実際
開園は午前9時、入場は午後4時30分まで、閉門は午後5時。休園日は12月29日から1月1日までの4日間である。観覧料は大人500円、中学生以下は無料。ただし名古屋市の発表により、令和8年(2026年)10月1日から大人1,000円に改定される。改定前に購入した観覧券はそのまま使用できる。
昭和34年(1959年)に鉄骨鉄筋コンクリート造で再建された天守閣は、平成30年(2018年)から入場を停止している。木造復元事業が進められているが、完成時期は公表されていない。重要文化財の四棟はいずれも屋外にあるため、この閉館の影響を受けない。平成30年(2018年)に復元が完成した本丸御殿は、通常の観覧料で入館できる。
西南隅櫓は期間を限って特別公開されることがあり、8月の名古屋城夏まつりの期間中がもっとも確実である。櫓の内部に入りたい場合は、出発前に公式サイトで公開情報を確認しておきたい。外観の撮影は個人利用であれば制限がない。
アクセスは地下鉄名城線「名古屋城」駅7番出口から徒歩約5分。鶴舞線「浅間町」駅からは徒歩約12分である。なお同じ城内には二之丸大手二之門と旧二之丸東二之門という江戸時代の門が二棟現存しており、こちらは昭和50年(1975年)6月23日に別枠で重要文化財に指定されている。あわせて見ておきたい。
Q&A
- 名古屋城で重要文化財に指定されているのはどの建物ですか。内部に入れますか。
- 表二の門、西南隅櫓、東南隅櫓、西北隅櫓の四棟です。三つの隅櫓はいずれも通常非公開で、城内から外観を見学する形になります。西南隅櫓は期間限定で特別公開されることがあり、8月の夏まつり期間が代表的です。
- 名古屋城の天守閣には入れますか。もとの天守はどうなったのですか。
- 創建時の大天守は昭和20年(1945年)5月14日の空襲で焼失しました。昭和34年(1959年)に鉄骨鉄筋コンクリート造で再建された天守閣は、平成30年(2018年)から入場を停止しています。木造復元事業が進行中ですが完成時期は未公表です。天守閣は重要文化財の指定対象には含まれません。
- 名古屋城の観覧料と開園時間を教えてください。
- 観覧料は大人500円、中学生以下は無料です。令和8年(2026年)10月1日から大人1,000円に改定されます。開園は午前9時から午後4時30分まで(閉門午後5時)で、12月29日から1月1日は休園です。
- 名古屋城へは公共交通機関でどう行きますか。
- 地下鉄名城線「名古屋城」駅7番出口から徒歩約5分です。鶴舞線「浅間町」駅1番出口からは徒歩約12分。なごや観光ルートバス「メーグル」も城前に停車します。
- 名古屋城の西北隅櫓は清洲城から移築されたものですか。
- 建物まるごとの移築ではありません。昭和37年から39年(1962年から1964年)の解体修理で、他の建物からの転用材と元和4年(1618年)9月以降の墨書が確認された一方、清洲城の天守をそのまま移したものではないことが判明しました。清洲櫓という別名は、この調査結果より古い伝承にもとづくものです。
基本情報
| 名称 | 名古屋城(なごやじょう) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県名古屋市中区本丸1番地 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物)/指定番号 00866 |
| 指定年 | 昭和5年(1930年)12月11日 |
| 員数 | 4棟(表二の門、西南隅櫓、東南隅櫓、西北隅櫓)。東南隅櫓には附として板札1枚 |
| 寸法 | 西南隅櫓 東西約11.8メートル、南北約13.5メートル、高さ約14.1メートル/西北隅櫓 東西約13.9メートル、南北約16.9メートル、高さ約16.2メートル |
| 所有者 | 名古屋市 |
| 公開状況 | 開園午前9時から午後4時30分(閉門午後5時)、12月29日から1月1日休園。観覧料は大人500円、中学生以下無料。令和8年(2026年)10月1日から大人1,000円に改定。隅櫓の内部は通常非公開で、西南隅櫓のみ期間限定の特別公開あり |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/名古屋城 表二の門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/1187
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/名古屋城 西南隅櫓
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/1184
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/名古屋城 東南隅櫓
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/1185
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/名古屋城 西北隅櫓
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/1186
- 名古屋城公式ウェブサイト/隅櫓
- https://www.nagoyajo.city.nagoya.jp/guide/sumiyagura/
- 名古屋城公式ウェブサイト/利用案内
- https://www.nagoyajo.city.nagoya.jp/info/
- 名古屋城公式ウェブサイト/料金
- https://www.nagoyajo.city.nagoya.jp/info/fee/
最終更新日: 2026.08.29
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