設計競技から生まれた市庁舎
名古屋市庁舎(なごやしちょうしゃ)は、愛知県名古屋市中区三の丸三丁目にある昭和8年(1933年)竣工の官庁建築で、平成26年(2014年)12月10日に国の重要文化財に指定された。
建つのは名古屋城の旧三之丸。大津通に面して西を正面とし、南には愛知県庁本庁舎が隣り合う。北の出来町通を越えれば、旧本丸と二之丸が控えている。
この土地が空いたのは昭和3年のことだった。三之丸を使っていた陸軍騎兵第三連隊などが郊外へ移り、市庁舎の移転先が決まる。翌4年2月に市庁舎建築準備委員会が発足、同年10月に設計図案が公募された。応募は559通。佐野利器、武田五一、土屋純一らが審査にあたり、昭和5年1月、平林金吾の案が金賞に選ばれる。
平林は明治27年、愛知県西春日井郡豊山村(現在の豊山町)の生まれ。東京高等工業学校建築科を卒業し、大正11年には岡本馨と連名で応募した大阪府庁舎設計懸賞競技で一等に入選している。名古屋の競技に応募した当時は、関東大震災後の東京で復興建築助成株式会社の技師を務めていた。実施設計は名古屋市土木部建築課が進め、昭和6年11月8日に起工、同8年9月6日に竣工した。施工は大倉土木株式会社である。
指定基準は「意匠的に優秀なもの」
重要文化財としての指定基準は「意匠的に優秀なもの」。平林が掲げた設計趣旨は「日本趣味を基調としたる近世式」で、西洋式の躯体に和風の屋根を載せる、いわゆる帝冠様式の代表作に数えられる。
その考えが最も分かる形で出ているのが、西正面中央の時計塔だ。五階分の高さを持ち、頂部までは53.5メートル。銅板を貼った瓦葺の宝形屋根を二重に架け、軒は切妻に切り上げる。それぞれの中央に鯱を据え、頂部には四方睨みの鯱が載る。名古屋城と呼応させた意匠で、付柱によって垂直性が強調されている。名古屋という都市の輪郭を明確に打ち出したいという平林のこだわりであり、審査でも評価された点の一つとされる。
壁面は三層構成になっている。一階が石張、二階から四階が茶褐色のタイル張、五階が淡黄色のタイル張。タイルはこの地方の特産で、単なる仕上げ材ではなく構成の材料として使われている。車寄せやパラペットの頂部には瓦を載せ、テラコッタも併用された。
延床面積は2万4000平方メートルを超え、当時の市庁舎としては群を抜く規模だった。隣接する愛知県庁本庁舎(昭和13年竣工)も同じ平成26年12月10日に指定されており、二棟は名古屋城との調和を前提に設計されている。
見られる場所と、見られない場所
現役の市役所であるため、博物館を訪ねるのとは勝手が違う。平日の開庁日、午前8時45分から午後5時15分までなら、廊下や階段などの共用部分は誰でも無料で見学できる。執務室への立ち入りはできず、屋上とバルコニーにも出られない。
まずは中央広間へ。高さ約20メートルの吹抜けで、一階から見上げるとアーチ形の梁が連なり、上の階から見下ろすと吹抜けを取り巻く階段がだまし絵のように見える。柱や階段の手すりに使われているのは、山口県産の大理石「小桜」。国会議事堂の余材で、この石を使った建物は国会議事堂とここだけといわれている。
中央階段の手すりに付く照明器具は、釉薬研究で知られた陶芸家・小森忍の手によるもの。各階に設置され、開庁時間中は緑がかった穏やかな光を灯している。小森の仕事は廊下の各所や貴賓室の装飾タイルにも及ぶ。
北側の廊下は全長約100メートルある。これほど長い廊下は珍しく、映画やドラマの撮影でもよく使われる。ここから時計塔の下部を見ると、壁が黒く汚れたように見える箇所が見つかる。戦時中、空襲に備えて施した迷彩塗装の痕跡である。戦後に薬品で落としたが、一部が残った。
二階の中央廊下と議場前の壁面は、これも小森による陶製タイルで飾られている。廊下は濃紺と金でまとめられ、館内でここにしかない配色。議場前は青、赤、黄、茶、紫が混じり合う窯変タイルで、印象がまるで違う。廊下の窓には昭和初期のガラスが数多く残り、表面が波打っているため外の景色がゆがんで見える。
円形の議場
二階中央廊下の奥にあるのが議場。ほぼ正方形の平面に対して議席は円形に配され、中央の速記席を囲む。西を正面として議長席と演壇が置かれ、トップライトから外光が落ちる。市政を円滑に進めるようにという願いが込められたと伝えられる。内部の見学はできないが、名古屋市会の本会議は三階の傍聴席から傍聴でき、それが使用中の議場を目にする唯一の方法になる。五階の正庁と四階の貴賓室も、内部の見学はできない。
館内の写真撮影は可能だが、一般市民や職員の顔が写らないよう配慮が求められる。見学者用の駐車場はない。地下鉄名城線「名古屋城」駅(旧・市役所駅)を出ればすぐ目の前である。
Q&A
- 名古屋市庁舎は見学できますか。見学料はかかりますか。
- 平日の開庁日、午前8時45分から午後5時15分までであれば、廊下や階段などの共用部分を無料で自由に見学できます。現役の事務所ビルですので、静かに見学してください。
- 名古屋市庁舎で見学できない場所はどこですか。
- 五階の正庁、四階の貴賓室、議場の内部は見学できません。屋上やバルコニーに出ることもできず、執務室への立ち入りも認められていません。
- 名古屋市庁舎の円形議場を見る方法はありますか。
- 名古屋市会の本会議を三階の傍聴席から傍聴すれば議場を見ることができます。これが円形の議場を目にする唯一の方法で、傍聴の手続きは市会が案内しています。
- 名古屋市庁舎の館内で写真を撮ってもよいですか。
- 見学できる範囲であれば撮影できますが、一般市民や職員の顔が写り込まないよう配慮が求められます。のぼりや旗、看板を掲げる行為は禁止されています。
- 名古屋市庁舎への行き方と、駐車場の有無を教えてください。
- 地下鉄名城線「名古屋城」駅(旧・市役所駅)を出るとすぐ目の前です。見学者用の駐車場はないため、公共交通機関の利用が前提になります。
基本データ
| 名称 | 名古屋市庁舎(名古屋市役所本庁舎) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県名古屋市中区三の丸三丁目1番 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物)/指定番号 02619/指定基準:意匠的に優秀なもの |
| 指定年 | 平成26年(2014年)12月10日 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 鉄骨鉄筋コンクリート造、地上五階地下一階建、塔屋付、建築面積4,511.84平方メートル、延床面積約2万4400平方メートル、時計塔高さ53.5メートル。昭和8年(1933年)竣工 |
| 所有者 | 名古屋市 |
| 公開状況 | 平日の開庁日、午前8時45分から午後5時15分まで共用部分を無料公開。正庁・貴賓室・議場内部は見学不可 |
参考文献
最終更新日: 2026.08.29