名古屋カトリック伝道の黎明を伝えるコロニアル様式の洋館

カトリック主税町教会信者会館は、名古屋市東区の白壁・主税・橦木町並み保存地区に佇む、明治時代に建てられた木造2階建ての洋館です。名古屋・岐阜地方へのカトリック伝道の出発点となったこの教会の敷地内に、フランス人宣教師エルネス・ツルペン神父の司祭館として建設されました。2011年(平成23年)に国登録有形文化財に登録され、コロニアルスタイルを基調とした明治期洋館として、地域の歴史と景観を語り継ぐ貴重な建造物です。

主税町教会の創設と信者会館の誕生

信者会館の歴史は、名古屋におけるカトリック伝道の幕開けとともに始まります。1887年(明治20年)、岐阜県本巣郡出身のカトリック信徒・井上秀斎の招きに応じて、パリ外国宣教会のエルネス・ツルペン神父が名古屋を訪れました。ツルペン神父は井上の名義で主税町にあった420坪の士族屋敷を購入し、既存の建物を仮聖堂として転用。当時の名古屋・岐阜地方のカトリック信徒はわずか97人でしたが、ここから布教活動が本格的に始まりました。

ツルペン神父は1890年(明治23年)頃までに、啓蒙小学校や救老院とともに司祭館(現在の信者会館)を建設しました。建築史家の瀬口(2013)の研究によれば、建築年は1889年(明治22年)から1892年(明治25年)の間、すなわち濃尾地震(1891年)前後と推測されています。建築資材にはアメリカ産のチーク材が用いられました。その後、1922年(大正11年)にパリ外国宣教会からドイツの神言会に教会が移譲され、名古屋使徒座知牧区が設立されると、この建物は知牧区長館として使われました。1930年(昭和5年)に新しい知牧区長館(現在の司祭館)が新築されたことにより、旧司祭館は信者の集会所として「信者会館」に転用されました。

国登録有形文化財としての価値

信者会館は2011年(平成23年)7月25日、煉瓦塀とともに国登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録の理由は、この建物が中部地方に残る明治期のコロニアルスタイル洋館として希少な存在であることにあります。

敷地の角地に位置する北面する木造2階建ての建物は、桁行11メートル、梁間8.2メートル、建築面積89平方メートル。寄棟造の桟瓦葺屋根に、中央に切妻造の玄関ポーチを構えます。内部は中廊下式の平面構成で、南面にはベランダが設けられています。外壁は下見板張りに白いペンキが塗られ、欧米の植民地建築に由来するコロニアルスタイルの特徴をよく示しています。

明治期の洋風建築が都市開発や戦災で多くが失われた中、130年以上の歳月を経てなお当時の姿を伝えるこの建物は、名古屋の近代化と西洋文化受容の歴史を物語る貴重な文化遺産です。

建築の見どころ

信者会館の魅力は、その簡素ながらも品格のある佇まいにあります。白く塗られた下見板張りの外壁は周囲の和風住宅と穏やかなコントラストを成し、中央の切妻造玄関ポーチが建物に端正な表情を与えています。

南面のベランダは、日本の伝統的な縁側のような内外の中間的空間を洋風の意匠で実現しており、宣教師が持ち込んだ植民地建築のスタイルと日本の住まいの知恵が融合した興味深い空間です。中廊下式の間取りは、信者の集会場として転用された際にも機能的に活用できる合理的な構成となっています。

構造材にアメリカ産チーク材を使いながら、屋根には日本の桟瓦を葺くという建材の取り合わせは、明治期の宣教師建築ならではの国際性と在地性の融合を示しています。1980年(昭和55年)に国道41号の拡幅に伴い西側の一部が切断・撤去されましたが、建物の本質的な価値は損なわれていません。

教会敷地内の文化財群

信者会館は、カトリック主税町教会の敷地内に点在する複数の文化財のひとつです。1904年(明治37年)に建てられた礼拝堂は、正面玄関ポーチの白漆喰で仕上げられた三連アーチと黒く塗られた柱の色彩対比が美しく、和洋折衷の瓦屋根とあいまって独特の風情を醸し出しています。礼拝堂と司祭館は1992年(平成4年)に名古屋市の都市景観重要建築物等に指定されました。

1930年(昭和5年)建築の司祭館は、信者会館の東に接して建つ木造2階地下1階建ての洋館で、寄棟造の桟瓦葺屋根と下見板張りの外壁、東面のベイウィンドウが特徴的です。敷地北側の主税町筋沿いには、総延長29メートルのイギリス積み煉瓦塀が続き、歴史ある町並みの景観を形成しています。

教会の鐘楼は1890年(明治23年)頃に建てられたものが1965年(昭和40年)頃に撤去され、1990年(平成2年)に写真を元に復元されました。鐘楼の鐘は1890年にフランス・マルセイユで製造されたもので、太平洋戦争中に金属供出されて行方不明となりましたが、戦後に信徒たちが三重県で発見し、教会に戻されたという感動的なエピソードが伝えられています。

「文化のみち」と周辺の見どころ

カトリック主税町教会は、名古屋の「文化のみち」の西端に位置しています。文化のみちは、白壁・主税・橦木の各町を東西に結ぶ歴史的な散策路で、江戸時代の武家屋敷の区画を受け継いだ由緒ある街並みに、明治から昭和初期にかけての近代建築が数多く残されています。

周辺の主な見どころとしては、大正時代の和洋折衷邸宅を活用した文化のみち二葉館(旧川上貞奴邸)、発明王・豊田佐吉の弟で実業家の豊田佐助の旧邸宅、建築家・武田五一が設計した春田鉄次郎邸、名古屋の陶磁器輸出産業の繁栄を伝える名古屋陶磁器会館(1932年、重要文化財)などがあります。名古屋観光ルートバス「メーグル」を利用すれば、これらの歴史的建造物を効率よく巡ることができます。

Q&A

Qカトリック主税町教会信者会館とはどのような建物ですか?
A1889年から1892年頃に、フランス人宣教師ツルペン神父の司祭館として建てられた木造2階建ての洋館です。1930年に新しい司祭館が建設されたことにより、信者の集会場として転用されました。コロニアルスタイルを基調とした明治期洋館として、2011年に国登録有形文化財に登録されています。
Q信者会館の内部は見学できますか?
A通常は外観のみの見学となりますが、教会の庭園やマリア像は自由に拝観できます。毎年秋に開催される「あいたて博」(愛知登録有形文化財特別公開)などの特別イベント時には内部が公開されることがあります。事前に教会へお問い合わせください。
Q最寄り駅からのアクセスを教えてください。
A地下鉄名城線「名古屋城」駅から徒歩約15分、市バス「清水口」または「白壁」バス停から徒歩約5分です。地下鉄桜通線・名城線「高岳」駅からも徒歩約9分でアクセスできます。
Q教会敷地内にはほかにどのような文化財がありますか?
A敷地内には、1904年建築の礼拝堂(名古屋市都市景観重要建築物、1992年指定)、1930年建築の司祭館(同、1992年指定)、イギリス積みの煉瓦塀(国登録有形文化財、2011年登録)があります。また、1990年に復元された鐘楼には、1890年にフランス・マルセイユで製造された歴史ある鐘が収められています。
Q「文化のみち」とは何ですか?
A名古屋市東区の白壁・主税・橦木地区を中心とする歴史的な散策路です。江戸時代の武家屋敷の区画が残り、明治から昭和初期にかけての近代建築が数多く保存されています。カトリック主税町教会はその西端に位置し、文化のみち二葉館や旧豊田佐助邸など、多くの歴史的建造物を巡ることができます。

基本情報

名称 カトリック主税町教会信者会館
所在地 愛知県名古屋市東区主税町3-33
建築年代 明治22年〜25年頃(1889〜1892年頃)推定
構造 木造2階建、桟瓦葺(寄棟造、切妻造玄関付)、建築面積89㎡
建築様式 コロニアルスタイル(下見板張り、白ペンキ塗り)
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)(平成23年7月25日登録)
所有者 宗教法人カトリック名古屋教区
アクセス 地下鉄名城線「名古屋城」駅より徒歩約15分/市バス「清水口」「白壁」バス停より徒歩約5分/地下鉄「高岳」駅より徒歩約9分
駐車場 あり(約20台)
電話番号 052-931-1381

参考文献

カトリック主税町教会信者会館 - 文化遺産オンライン(文化庁)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/184198
カトリック主税町教会 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/カトリック主税町教会
カトリック主税町教会 - 名古屋コンシェルジュ(名古屋市観光情報)
https://www.nagoya-info.jp/spot/detail/73/
カトリック主税町教会礼拝堂・司祭館 - 名古屋市公式ウェブサイト
https://www.city.nagoya.jp/kankobunkakoryu/page/0000038220.html
カトリック主税町教会 - 文化のみち二葉館
https://www.futabakan.jp/goforastroll/f013.html

最終更新日: 2026.04.04