赤煉瓦と白花崗岩でできた裁判所

旧名古屋控訴院地方裁判所区裁判所庁舎(きゅうなごやこうそいんちほうさいばんしょくさいばんしょちょうしゃ)は、愛知県名古屋市東区白壁一丁目にある大正11年(1922年)竣工の官庁建築で、昭和59年(1984年)5月21日に国の重要文化財に指定された。

名称が長いのには理由がある。控訴院、地方裁判所、区裁判所という三つの裁判所が、一棟の合同庁舎に同居していた。現在の呼び名は「名古屋市市政資料館」で、門にもバス停にもそちらが掲げられている。

設計は司法省営繕課。現場は金刺森太郎が担当した。煉瓦壁に鉄筋コンクリートの梁と床を組み合わせた三階建で、屋根はスレート葺、正面には玄関ポーチと中央塔屋が立つ。建築面積は2,341.8平方メートル。

道路の向かい側に立つと、まず色が目に入る。赤い煉瓦、白い花崗岩、黒いスレート、緑の窓格子、黄色の窓枠。控えめな配色ではない。控訴院という役所が持つ権威を、外から見て分かる形にすることが求められた時代の建物である。

指定の理由と建築史上の位置

戦前の日本には控訴院庁舎が全国8か所に建てられた。現存するのは名古屋と札幌の二つだけで、札幌が大正15年(1926年)の建築であるため、大正11年竣工のこちらが現存最古の控訴院建築ということになる。

年代にはもう一つの意味がある。竣工の翌年、大正12年9月に関東大震災が起きた。以後、日本で大規模な煉瓦造建築が新築されることはほぼなくなる。この建物は、その系譜の最後尾に位置する。構造は煉瓦の耐力壁と鉄筋コンクリートの梁・床を組み合わせたもので、構造技法が入れ替わっていく過渡期の姿を残している。

指定範囲は建物全体ではない。外観部分と、玄関、中央階段室、三階会議室が対象で、それ以外の室内の内装は含まれない。訪れる前に知っておくと理解しやすい。公文書館として働いている部屋と、創建時の姿に戻された部屋とで、雰囲気がはっきり違う。

裁判所から公文書館へ

名古屋高等・地方裁判所は昭和54年(1979年)に中区三の丸へ移転した。約60年の役目を終えた建物は、いったんは取り壊しの方向で検討された。保存を求める市民の声を受けて昭和59年に重要文化財に指定され、翌年から復原修理が行われ、平成元年(1989年)に名古屋市の公文書館として開館した。所有は国(文部科学省)で、名古屋市が管理団体となっている。

館内で見ておきたいところ

玄関を入ると、正面に中央階段室が広がる。二階から三階までが吹抜けで、左右対称の構成、並ぶ化粧柱、途中で分かれて折り返す階段。ネオ・バロック様式の語彙が、館内のどこよりもはっきり出ている場所である。

柱を見てほしい。黒い石に見える柱が四本あるが、天然の大理石なのは下半分だけだ。上半分は「マーブル塗り」といって、色を付けた漆喰を手仕事で大理石に似せたもの。同じ技法は他の柱や壁面にも使われている。継ぎ目に一度気づくと、あちこち確かめたくなる。

ステンドグラスは二枚ある。階段を登り切った正面のものには、天秤の左右に色の異なる玉が載る。罪と罰が釣り合う、つまり公平な裁判を示す図柄と説明されている。もう一枚は吹抜けの天井にはめ込まれ、公明正大を表す日輪が描かれる。いずれも和製ステンドグラスの草分けである宇野澤辰雄の系列工房の手によるとも伝わるが、確証のある記録は残っていない。

三階の復原会議室が、もう一つの指定対象の内部空間。約40畳の広さで、残された文献、当時の写真、聞き取り調査をもとに大正11年当時の姿へ戻された。一枚織りの絨毯、シャンデリア、カーテン、壁紙、机と椅子まで、すべてが復原品である。時代の雰囲気を再現したのではなく、この部屋そのものを再現している。

入口で一つ小さな見どころ。車寄せの上には金色の装飾が付いていて、神鏡と神剣を組み合わせた意匠は公正な裁判を意味すると説明されている。

見学案内

入館は無料、開館時間は午前9時から午後5時まで。休館日は月曜日(休日の場合は直後の平日)、第3木曜日(休日の場合は第4木曜日)、12月29日から1月3日まで。館内の写真撮影は自由だが、営利目的の撮影や三脚など大型機材の使用は事前の問い合わせが必要になる。中央階段はイベント開催時に利用が制限されることがある。

アクセスは、地下鉄名城線「名古屋城」駅2番出口から東へ徒歩8分。名鉄瀬戸線「東大手」駅からは南へ徒歩5分、なごや観光ルートバス「メーグル」の「市政資料館南」からは徒歩5分ほど。無料駐車場はあるが台数が少なく、市も公共交通機関の利用を呼びかけている。建物は「文化のみち」の起点にあたり、周辺には旧川上貞奴邸をはじめとする近代建築が点在する。

Q&A

Q旧名古屋控訴院地方裁判所区裁判所庁舎は見学できますか。入館料はいくらですか。
A名古屋市市政資料館として一般公開されており、入館は無料です。開館時間は午前9時から午後5時まで。月曜日、第3木曜日、12月29日から1月3日は休館します。
Q旧名古屋控訴院地方裁判所区裁判所庁舎への行き方を教えてください。
A地下鉄名城線「名古屋城」駅2番出口から東へ徒歩8分です。名鉄瀬戸線「東大手」駅からは南へ徒歩5分、観光ルートバス「メーグル」の「市政資料館南」からは徒歩5分ほどで着きます。
Q旧名古屋控訴院地方裁判所区裁判所庁舎の館内で写真は撮れますか。
A見学できる範囲であれば個人での撮影は自由です。営利目的の撮影や、三脚など大型の撮影機材を使う場合は事前に問い合わせが必要です。
Q旧名古屋控訴院地方裁判所区裁判所庁舎は、どの部分が重要文化財に指定されていますか。
A外観部分と、玄関、中央階段室、三階会議室が指定の対象です。それ以外の室内の内装は指定から除かれているため、公文書館として使われている部屋とは見た目がかなり異なります。
Q旧名古屋控訴院地方裁判所区裁判所庁舎はなぜ貴重なのですか。
A戦前に建てられた8か所の控訴院庁舎のうち現存するのは名古屋と札幌のみで、大正11年竣工のこちらが最古です。関東大震災を境に途絶えた大規模煉瓦造建築の、最後の世代にあたる点も評価されています。

基本データ

名称旧名古屋控訴院地方裁判所区裁判所庁舎(現・名古屋市市政資料館)
所在地愛知県名古屋市東区白壁一丁目3番
指定区分重要文化財(建造物)/指定番号 02156
指定年昭和59年(1984年)5月21日
員数1棟
寸法煉瓦及び鉄筋コンクリート造、三階建、建築面積2,341.8平方メートル、スレート葺、玄関ポーチ付、正面中央塔屋付。大正11年(1922年)竣工
所有者国(文部科学省)/管理団体:名古屋市
公開状況名古屋市市政資料館として公開。午前9時から午後5時、入館無料。月曜日・第3木曜日・12月29日から1月3日は休館

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/1183
文化遺産オンライン
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/189023
名古屋市 市政資料館 施設案内(施設概要、事業概要)
https://www.city.nagoya.jp/kankou/rekishi/1004614/1004627/1016058.html
名古屋市 3D市政資料館バーチャルツアー
https://www.city.nagoya.jp/kankou/rekishi/1004614/1004627/1004628.html
名古屋市観光情報「名古屋コンシェルジュ」
https://www.nagoya-info.jp/spot/detail/154/

最終更新日: 2026.08.29