はじめに:日本陶磁器センター旧館 — 名古屋の陶磁器産業を物語る近代建築

名古屋市東区代官町に佇む日本陶磁器センター旧館は、昭和9年(1934年)に日本陶磁器工業組合連合会の共同販売所として建築された鉄筋コンクリート造のオフィスビルです。3階建て(一部4階)地下1階、建築面積291平方メートルのこの建物は、平成27年(2015年)8月4日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。陶磁器を扱う団体の建築にふさわしく、内外にタイルをはじめとする陶磁器素材がふんだんに使用されており、建物そのものが名古屋の陶磁器産業の誇りを体現しています。

歴史的背景

昭和6年(1931年)に日本陶磁器工業組合連合会が設立されました。明治後期以降、名古屋は日本最大の陶磁器生産・輸出拠点として発展を遂げ、九谷、東京、横浜、京都など各地から名工が集まりました。彼らが生み出した「名古屋絵付け」と呼ばれる絢爛豪華な装飾技法は、デコ盛り、洋風絵付け、ガラス盛り、金盛りなど多彩な技法を駆使し、世界の市場を魅了しました。

昭和9年(1934年)、連合会の共同販売所として現在の旧館が建築されました。ここは戦前の輸出陶磁器製品の品質確保と生産調整を行う拠点として重要な役割を果たし、戦後には3階の大会議室が輸出陶磁器に関する2国間貿易交渉の会場となりました。

昭和32年(1957年)、桜通の拡幅工事に伴い、旧館は曳家(ひきや)工法により現在地へ移築されました。跡地には山下寿郎設計事務所の設計による新館(日本陶磁器意匠センタービル)が建設されました。旧館・新館ともに平成24年(2012年)に名古屋市認定地域建造物資産に、平成27年(2015年)に国の登録有形文化財に登録されています。

文化財指定の理由

日本陶磁器センター旧館は「造形の規範となっているもの」という基準により登録有形文化財に登録されました。陶磁器を扱う団体の建築らしく、内外にタイル等の陶磁器がふんだんに使用されていることが大きな特徴です。特に3階大会議室では、ステージのアルコーブ(壁面の凹所)を外部に張り出し、細部にアールデコの意匠を採り入れるなど、洗練された造形が評価されています。戦前の鉄筋コンクリート造商業建築として、また名古屋の陶磁器産業の歴史を今に伝える貴重な建造物として、高い文化的価値が認められました。

建築の見どころ

旧館は鉄筋コンクリート造3階建て(一部4階)地下1階、煙突付きの建物です。建築面積は291平方メートルで、外観には陶磁器産業の建物にふさわしく豊かなタイル装飾が施されています。

内部の階段広場や廊下は、幅木にトラバーチン(縞状石灰岩)を使用し、床と腰壁はタイル張り、上部壁は漆喰塗りとし、その見切りにもトラバーチンを配するという丁寧な仕上げがなされています。最大の見どころである3階大会議室は、寄木板張りの床、板張りの腰壁、漆喰塗りの上部壁、浅い蒲鉾形の天井を持ち、北側正面には壁面装飾とアルコーブが設けられています。アールデコの意匠が随所に見られるこの空間は、戦後の輸出陶磁器貿易交渉の舞台ともなった歴史的な部屋です。

旧館は1階で隣接する新館(昭和33年・1958年竣工)と接続しています。新館はガラス面を広く取ったモダニズム建築で、旧館のアールデコ調とは対照的な建築様式を見せており、2棟が並ぶ姿は日本の近代建築の変遷を物語っています。

見学・アクセス情報

日本陶磁器センターは現在も一般財団法人日本陶業連盟の事務所として使用されています。新館4階には日陶連美術館があり、収蔵作品約400点のうち約70点が常設展示されており、日本の輸出陶磁器の芸術性を間近で鑑賞することができます。旧館は事務所として使用されているため、内部の見学には制限がある場合があります。特別公開やイベントの開催については事前にお問い合わせください。

建物は桜通沿い、東区代官町に位置しています。最寄り駅は名古屋市営地下鉄名城線の高岳駅で、徒歩約10分です。名鉄瀬戸線の東大手駅からもアクセス可能です。

周辺の見どころ

名古屋市東区は文化遺産の宝庫です。近隣には、昭和7年(1932年)竣工の登録有形文化財である名古屋陶磁器会館があり、1階展示場では名古屋の陶磁器輸出産業の歴史を無料で見学できます。白壁・主税・橦木の文化のみち地区には、明治・大正期の陶磁器貿易商の邸宅が保存されており、春田鉄次郎邸、井元為三郎邸、旧豊田佐助邸、文化のみち二葉館(旧川上貞奴邸)などの歴史的建造物が点在しています。また、徳川美術館と日本庭園・徳川園も徒歩圏内にあり、尾張徳川家の文化遺産に触れることができます。

Q&A

Q日本陶磁器センター旧館はいつ建てられましたか?なぜ移築されたのですか?
A昭和9年(1934年)に日本陶磁器工業組合連合会の共同販売所として建築されました。昭和32年(1957年)、桜通の道路拡幅工事に伴い、曳家工法により現在地へ移築されました。移築前の跡地には新館が建設されています。
Q建物のどのような点が文化財として評価されていますか?
A陶磁器産業の建物にふさわしく内外にタイルやトラバーチンをふんだんに使用した意匠が評価されています。特に3階大会議室のアルコーブやアールデコ調の細部装飾、寄木板張りの床、蒲鉾形天井など、洗練された造形が「造形の規範となっているもの」として登録基準を満たしています。
Q見学はできますか?
A旧館は現在も日本陶業連盟の事務所として使用されているため、内部見学には制限がある場合があります。ただし、隣接する新館4階の日陶連美術館では約70点の陶磁器作品を常設展示しています。特別公開の機会については事前にお問い合わせください。
Q最寄り駅からのアクセスを教えてください。
A名古屋市営地下鉄名城線の高岳駅から徒歩約10分です。名鉄瀬戸線の東大手駅からもアクセスできます。建物は桜通沿いに位置しています。
Q周辺に他の文化財はありますか?
A近隣には登録有形文化財の名古屋陶磁器会館(入館無料)をはじめ、白壁・主税・橦木の「文化のみち」エリアに明治・大正期の歴史的建造物が多数あります。徳川美術館・徳川園も徒歩圏内です。

基本情報

名称 日本陶磁器センター旧館(にほんとうじきせんたーきゅうかん)
文化財種別 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 平成27年(2015年)8月4日
登録基準 造形の規範となっているもの
建設年代 昭和9年(1934年)/昭和32年(1957年)移築
構造 鉄筋コンクリート造3階一部4階地下1階建、煙突付、建築面積291㎡
所在地 愛知県名古屋市東区代官町3903
所有者 一般財団法人 日本陶業連盟
アクセス 名古屋市営地下鉄名城線「高岳」駅より徒歩約10分

参考文献

日本陶磁器センター旧館 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/235958
日本陶磁器センター新館 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/291189
日本陶磁器センター旧館 — 国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010604
登録有形文化財(建造物)の登録についてお知らせします — 愛知県
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/bunkazai/0000080902.html
日本陶磁器センタービル — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/日本陶磁器センタービル
日本陶磁器センター — 公式サイト
https://www.toujiki.org/
愛知登文会 — 建物を楽しむために(タイル・窯業編)
https://www.aichi-tobunkai.org/aichi_tatemono/01monodukuri/01yogyo.pdf
日本陶磁器センタービル — 名古屋市
https://www.city.nagoya.jp/kankobunkakoryu/page/0000036284.html
タイル・陶壁プロジェクト(日本陶磁器センター旧館)— 多治見市モザイクタイルミュージアム
https://www.mosaictile-museum.jp/tile-toheki/pdf/kenchiku_02.pdf

最終更新日: 2026.04.07