桜通に面して建つ、タイル張りのオフィスビル
名古屋の中心部を東西に貫く桜通を進むと、茶系のタイルを横長に張った五階建てのビルが、低く連なる横長の窓を通りへ向けている。日本陶磁器センター新館。昭和三十三年(一九五八年)、陶磁器の製造業者を束ねる団体の拠点として竣工した建物で、いまもその団体の事務所として現役で使われている。上階に事務所が入り、四階には小さな美術館が置かれ、歴史ある会議室は催事用に貸し出されている。
この新館は単独で建っているわけではない。すぐ背後に一階部分で接続して、昭和九年(一九三四年)築の旧館が控える。昭和三十二年、桜通の拡幅にあたって、所有者はその旧館を曳家によって後方へ移し、空いた前面に現在の新館を建てた。両者は平成二十七年(二〇一五年)の同じ日に国の登録有形文化財となり、訪れる人の多くは、通りに向いた軽快な近代の顔と、その奥に控えるタイル張りの古い内部とを、ひと続きの建物として目にすることになる。
登録有形文化財という区分
新館は登録有形文化財であって、国宝でも重要文化財でもない。この区別は小さくない。平成八年(一九九六年)に始まった登録制度は、おおむね築五十年を超え、まちなみを形づくってきた近代以降の建物を主な対象とする、比較的ゆるやかな保護の仕組みである。指定の制度に比べ、所有者が建物を使い、手を加える自由が大きく確保されている。現役のオフィスが無理なくこの区分を担えるのも、そのためだ。
登録の基準は「造形の規範となっているもの」。設計を手がけたのは山下寿郎(一八八八~一九八三)の設計事務所で、名古屋支社を構えたのはその二年前のことだった。同事務所は十年ほど後に、日本初の超高層ビルである霞が関ビルディングやNHK放送センターを世に送り出す。陶磁器センターはその系譜の早い時期に位置する、控えめで均整のとれた一作といえる。誇示するのではなく、抑制のきいた戦後モダニズムの語法でまとめられている。
見どころ
まずは通りに面した立面を眺めたい。設計者は窓を横長の帯として連続させ、壁に穴を穿ったというより、軽い層が積み重なって浮いているように見せている。外装のタイルは温かみのある茶系で、これも横に張って低く水平な調子を強めている。陶磁器を扱う人々が建てた建物として、この素材の選択は意図的だ。なりわいが建物の表皮そのものに書き込まれており、タイルの多くは地元・尾張地域の生産による。
玄関ホールに入ると雰囲気が一変する。開口の少ない壁面と、円弧を描いて軽やかに昇る一筋の階段とを対比させた構成で、立ち止まって眺める価値がある。一階で接続する旧館に移ると、語法はアール・デコへと転じる。床と腰壁のタイル張り、幅木のトラバーチン、そして三階の大会議室では舞台のアルコーブが外壁の面から張り出す。昭和九年と昭和三十三年、世代の異なる二つの答えを並べて見られることこそ、訪問の醍醐味だろう。陶磁器のなりわいをどう収めるかという問いに、一世代を隔てて出された二つの解である。
四階には、連盟が運営する小ぶりな美術館がある。収蔵は数百点にのぼり、その一部が入れ替えながら展示される。明治後期以降、名古屋の名を海外に知らしめた輸出陶磁器を、静かにのぞける場となっている。
周辺とアクセス
建物が建つのは東区の代官町。城の東側に広がる、飾り気のない実務的な一帯で、同じ好景気の時代に建った陶磁器産業の建物が点在している。アール・デコの名建築として知られる昭和七年(一九三二年)築の名古屋陶磁器会館は徒歩圏内にあり、商家の建物や橦木館が残る文化のみち界隈も、北へ少し歩けば届く距離だ。
地下鉄では桜通線「高岳駅」が最も近く、徒歩およそ八分。東山線「新栄町駅」からはおよそ十分である。駐車場はないため、車の場合は近隣のコインパーキングを利用したい。常時開放の観光施設ではなく現役の事務所であるから、外観を通りから眺めるだけでなく上階まで見たい場合には、訪問前に連盟へ公開状況を確認しておくとよい。
Q&A
- 中に入れますか。外観を見るだけですか。
- 外観は桜通からいつでも眺められます。内部は現役の事務所で、四階に小さな美術館と貸会議室があり、立ち入りの可否は時期や用途によります。外観以上を見たい場合は、事前に日本陶業連盟へ公開状況をご確認ください。
- これは国宝ですか。
- いいえ。登録有形文化財です。平成八年に始まった、価値ある近代建築を対象とするゆるやかな保護の制度によるもので、重要文化財や国宝への「指定」とは異なる、より制約の少ない区分です。
- なぜ建物が二棟あるのですか。
- 昭和九年築の旧館を、昭和三十二年の桜通拡幅の際に曳家で後方へ移し、空いた前面に昭和三十三年の新館を建てたためです。両者は一階で接続し、平成二十七年に揃って登録されました。
- 設計者は誰ですか。
- 山下寿郎の設計事務所、現在の山下設計です。同事務所は後に、日本初の超高層ビルである霞が関ビルディングや、東京のNHK放送センターを手がけました。
- 周辺で他に見るべきものは。
- 昭和七年築の名古屋陶磁器会館が近く、北側の文化のみち一帯には橦木館などの旧商家が残ります。あわせて巡ると、名古屋の輸出陶磁器の歴史をより立体的につかめます。
基本情報
| 名称 | 日本陶磁器センター新館(にほんとうじきせんたーしんかん) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県名古屋市東区代官町3903 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録 平成27年(2015年)8月4日(登録番号 23-0422) |
| 建設年 | 昭和33年(1958年) |
| 構造 | 鉄骨鉄筋コンクリート造、地上5階地下1階建、建築面積約306平方メートル |
| 員数 | 1棟 |
| 設計 | 山下寿郎設計事務所(現・山下設計) |
| 所有者 | 一般財団法人 日本陶業連盟 |
| アクセス | 地下鉄桜通線「高岳駅」徒歩約8分/東山線「新栄町駅」徒歩約10分 |
| 公開状況 | 現役の事務所。四階に小規模な美術館、貸会議室あり。訪問前に公開状況の確認を推奨 |
参考文献
- 日本陶磁器センター新館 — 文化遺産オンライン(国立文化財機構)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/291189
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010605
- 登録有形文化財(建造物)の登録についてお知らせします(愛知県)
- https://www.pref.aichi.jp/soshiki/bunkazai/0000080902.html
- 一般財団法人 日本陶業連盟(公式サイト)
- https://www.toujiki.org/
- 株式会社 山下設計(公式サイト)
- https://www.yamashitasekkei.co.jp/
最終更新日: 2026.06.17