鳴海杻神社本殿 ― 建築面積5.2平方メートルの社に彫刻を詰めた大正の本殿

鳴海杻神社本殿は、愛知県犬山市大字羽黒字成海郷にある鳴海杻神社の本殿で、大正6年(1917年)の建築、令和6年(2024年)に登録有形文化財(建造物)となった。文化庁の国指定文化財等データベースは、この社を五条川南岸に位置する式内社と記す。式内社とは、10世紀初めに編まれた延喜式神名帳に名の見える神社をいう。

建物は小さい。建築面積は5.2平方メートルで、物置ほどの規模しかない。それでいて、屋根も組物も扉も、大きな社殿と同じ手数をかけて造られている。

平面は一間社。祭神を一組まつる村の神社の標準的な大きさである。屋根は入母屋造で、檜皮葺。ただし現状は銅板の仮葺がかかっている。訪れて目に入るのは檜皮の茶色い層ではなく金属の面であり、これは檜皮を傷めないための養生だと知っておくと、見えているものの意味が変わってくる。

6棟のなかで1棟だけ、登録の理由が違う

鳴海杻神社では、本殿・祭文殿・拝殿・社務所・弁天堂・藩塀の6棟が2024年にまとめて登録された。鳴海杻神社本殿の登録番号は23-0593で、群の先頭にあたる。

この本殿は6棟のなかで扱いが違う。登録有形文化財の登録基準は3つあり、同じ境内の5棟は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で登録された。本殿だけが「造形の規範となっているもの」である。周囲の景観に合っているからではなく、彫刻と屋根の構成それ自体が手本になる、という評価がついたことになる。

登録は指定と違い、所有者が建物を使いながら守っていく制度である。外観を大きく変えなければ内部の改装もでき、修理にかかる設計監理費の半額が国から補助される。犬山市はこの制度を積極的に使ってきた市で、市の集計では2025年時点の市内の国登録有形文化財(建造物)は158件、愛知県全体580件の約27%を占める。

屋根の三重奏と、扉の桐紋

鳴海杻神社本殿の正面に立つと、まず屋根の形を解きほぐすことになる。基本は前後に流れる入母屋の大屋根。その前面から千鳥破風が三角形に張り出す。さらにその下、入口を覆う向拝の軒には唐破風が乗る。反りと起りが組み合わさったあの独特の曲線である。建築面積5.2平方メートルの建物に3種類の破風を積み上げているわけで、大工の構想としてはかなり強気だ。

軒下の組物は出組。一手だけ前に出す形式である。床下で縁を支える腰組はさらに手が込んでいて、三手先を用いる。三手先は本来もっと大きな堂宇の軒に使う形式で、それを下部に転用しているところにこの本殿の性格が出ている。

正面中央の扉は両折の桟唐戸で、それぞれの扉板に桐紋が付く。桐は朝廷や公家に由来し、のちに武家も用いた紋章で、この社が自らをどう位置づけていたかがここに読み取れる。

彫刻は残る面のほとんどを覆う。本殿の左右を仕切る脇障子、向拝の柱と身舎をつなぐ海老虹梁、蟇股、梁の木口を飾る木鼻、破風の頂部から下がる懸魚。小さな建物に密度で押してくるので、正面から1枚撮って終わりにするより、ゆっくり一周したほうが得るものが多い。

見え方について実際的な注意を1つ。鳴海杻神社本殿は境内の中軸線のいちばん奥、祭文殿の背後に建つ。参道から正面を真正面に見ることはできない。よく見えるのは斜め横からで、脇障子の彫りや腰組の組み方も、結局はその角度のほうが読み取りやすい。

行き方と、見学のしかた

所在地は愛知県犬山市大字羽黒字成海郷109。最寄り駅は名鉄小牧線の羽黒駅で、境内は駅の東およそ1.1キロメートル、徒歩15分ほどの距離にある。羽黒駅は名鉄犬山線が名古屋方面から乗り入れる犬山駅の1駅南で、犬山城や城下町を回る日程に組み込みやすい。

拝観時間や拝観料についての案内は、神社側にも市側にも出ていない。撮影を禁じる掲示も公表されていない。見学は外観からで、鳴海杻神社本殿の内部を公開する仕組みは案内されていない。本殿は神をまつる建物なので、もともと参拝者に開くものでもない。建築を目当てに遠くから出向くのであれば、登録建造物を担当する犬山市教育部歴史まちづくり課(電話0568-44-0354)が現状の確認先になる。

ほかの5棟はいずれも徒歩圏どころか目の前にある。本殿のすぐ手前が祭文殿、その前が拝殿、拝殿と南の鳥居のあいだに藩塀が立つ。社務所は参道入口の東、弁天堂は入口西の湧水池の東岸にある。

Q&A

Q鳴海杻神社本殿は見学できますか。拝観料や拝観時間はありますか。
A境内は地域の神社で、拝観料や拝観時間を定めた案内は公表されていません。見学は外観からで、本殿内部を公開する案内は出ていません。遠方から訪ねる場合は犬山市歴史まちづくり課(0568-44-0354)に確認してください。
Q名古屋から鳴海杻神社本殿へはどう行きますか。
A名鉄犬山線で犬山駅まで行き、小牧線に乗り換えて1駅南の羽黒駅で降ります。境内は駅の東およそ1.1キロメートル、徒歩15分ほどです。
Q鳴海杻神社本殿はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A大正6年(1917年)の建築で、令和6年(2024年)に登録有形文化財(建造物)として登録されました。登録番号は23-0593です。
Q鳴海杻神社本殿の屋根が銅板に見えるのはなぜですか。
A本来の葺材は檜皮で、現状はその上に銅板の仮葺がかかっています。国のデータベースも構造形式を檜皮葺(銅板仮葺)と記載しています。
Q鳴海杻神社本殿は境内のほかの登録建造物と何が違いますか。
A6棟のうち「造形の規範となっているもの」として登録されたのは本殿だけです。ほかの5棟は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」による登録で、建築面積5.2平方メートルの建物に彫刻と重層した破風を収めた点が評価の分かれ目になっています。

基本情報

名称鳴海杻神社本殿
所在地愛知県犬山市大字羽黒字成海郷109
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年令和6年(2024年)登録、登録番号23-0593
員数1棟
寸法建築面積5.2平方メートル、一間社
所有者鳴海杻神社
公開状況境内からの外観見学。拝観時間・拝観料の公表なし。内部非公開

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「鳴海杻神社本殿」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014839
文化庁 文化遺産オンライン「鳴海杻神社本殿」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/609109
犬山市「登録文化財制度」
https://www.city.inuyama.aichi.jp/kurashi/bunka/1001063/1001067.html
犬山市「犬山市の文化財」
https://www.city.inuyama.aichi.jp/kurashi/bunka/1001063/1001068.html

最終更新日: 2026.09.02