旧羽州街道に面した味噌醤油の醸造元
ヤマモ味噌醤油醸造元は、秋田県湯沢市岩崎にある慶応3年(1867年)創業の味噌醤油醸造元で、明治16年(1883年)から昭和前期にかけて建てられた店舗兼主屋・土蔵・作業場の8棟が、令和6年(2024年)12月3日に国の登録有形文化財となった。敷地は旧羽州街道の北側にあり、味噌と醤油の醸造はいまもこの建物群の中で続いている。
創業者は初代の髙橋茂助である。醸造元が公開している沿革によれば、茂助は万延元年(1860年)に本家から分家し、その7年後に味噌づくりを始めた。岩崎は皆瀬川の舟運で栄えた城下町・宿場町で、仕込み水には皆瀬川の伏流水が使われてきた。家業は7代にわたって受け継がれ、現在は髙茂合名会社が醸造元を営んでいる。
蔵の呼び名には、歴代当主の名が残っている。茂助蔵は初代の名、兵助蔵は2代目の幼名、彦四郎蔵は4代目の名である。沿革には、明治16年に初代が居住蔵を、明治27年(1894年)に2代目が家財蔵を建てたと記されており、文化庁のデータベースが示す茂助蔵及び妙見蔵と兵助蔵の建築年に合う。家の歴史と建物の履歴が、蔵の名前の上で重なっている。
戦時中の話も伝わる。醸造元の記録では、長い煙突や大きな蔵が空襲の標的になりかねなかったため、蔵を黒く塗って目立たないようにしながら製造を続けたという。
8棟がまとめて登録された理由
8棟は令和6年(2024年)7月19日の文化審議会答申を経て、同年12月3日に登録された。登録番号は05-0251から05-0258まで連続している。答申はヤマモ味噌醤油醸造元を、旧羽州街道に南面する現役の味噌醤油醸造元として紹介し、8棟を一つの構成として説明する。
適用された登録基準は2つに分かれる。兵助蔵(旧家財蔵)と茂助蔵及び妙見蔵(旧居住蔵及び旧漬物蔵)の2棟は「造形の規範となっているもの」、残る6棟は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。前者はどちらも建物全体を鞘(さや)で覆った住まい寄りの土蔵で、地元の大工の腕が評価された。後者は、街道の景観をつくる店舗兼主屋と、醸造の工程を担う蔵や作業場である。
建築年代を古い順に並べると、敷地の育ち方が見えてくる。最も古いのが明治16年(1883年)の茂助蔵及び妙見蔵、次いで明治27年(1894年)の兵助蔵、明治中期の店舗兼主屋と仕込蔵。大正前期に諸味蔵、大正後期に作業場が加わり、昭和前期に酢蔵と通り向かいの彦四郎蔵が建った。明治のうちに住まいと蔵が整い、大正以降は生産のための建物が増えていく。
湯沢市はこの8棟を「ヤマモ味噌醬油醸造元店舗兼主屋ほか7棟」として紹介し、歴史的な醸造建築・工場建築を示す遺構と位置づけている。「醤」と旧字の「醬」は資料によって表記が分かれるが、指しているのは同じ建物群である。
敷地の構成
ヤマモ味噌醤油醸造元の建物は、街道に近い側から奥へ、住まい・蔵・醸造場の順に並ぶ。旧羽州街道に南面して建つのが店舗兼主屋で、その北側に兵助蔵、敷地の中央部に茂助蔵及び妙見蔵がある。この2棟は主屋の奥に続く内蔵で、家財を納め、ときには人が住んだ。
さらに奥、敷地の北側が醸造の区画である。北西部に麹づくりと仕込みを行う仕込蔵、その西の北西隅に酢蔵、北東隅に醤油の発酵と熟成を受け持つ諸味蔵が建つ。これらの蔵を中央で結ぶのが作業場で、醤油の火入れ・濾過・充填をここで行う。仕込みから瓶詰めまでの流れが、一つの敷地の中で建物の並びとして追える。
8棟のうち彦四郎蔵だけは、通りを挟んだ西側の角地に建つ。所在地の地番が他の7棟の岩崎124ではなく岩崎134になっているのはこのためである。
登録の対象には含まれていないが、敷地内には昭和4年(1929年)に作庭された庭園「辿柒園(せんしつえん)」がある。後述のファクトリーツアーでは、この庭も行程に入る。
見学とアクセス
ヤマモ味噌醤油醸造元は個人が所有する建物群で、醸造の現場として使われている。蔵や作業場の内部に入れるのは、醸造元が催すファクトリーツアーに参加した場合に限られる。ツアーは前日までの事前予約制で1名から申し込め、所要は約1時間、料金は5,500円。ファクトリーストア、兵助蔵のホール、庭園、工場、仕込蔵、諸味蔵を巡り、熟成期間の違う味噌を食べ比べる。食事と組み合わせたコースもあり、夜のコースでは妙見蔵にも入る(2026年9月25日、公式サイトで確認)。
実際に稼働している蔵に入るため、蔵に棲む菌への影響を避けて、当日の朝は納豆を食べないよう求められている。見学中の撮影はおおむね認められているが、撮影を断る場所もある。
予約なしで立ち寄れるのは店舗とカフェで、カフェの営業は午前10時から午後4時30分、休みは不定である。店舗兼主屋と彦四郎蔵の外観は旧羽州街道から見られる。敷地の奥にある蔵を間近に見るには、ツアーへの参加が必要になる。
鉄道ではJR奥羽本線の下湯沢駅から徒歩15〜16分ほど。十文字駅からはタクシーで約10分である。駐車場がある。問い合わせは電話0183-73-2902へ。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) ヤマモ味噌醤油醸造元店舗兼主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015123
- 国指定文化財等データベース(文化庁) ヤマモ味噌醤油醸造元兵助蔵(旧家財蔵)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015124
- 国指定文化財等データベース(文化庁) ヤマモ味噌醤油醸造元茂助蔵及び妙見蔵(旧居住蔵及び旧漬物蔵)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015125
- 国指定文化財等データベース(文化庁) ヤマモ味噌醤油醸造元彦四郎蔵(旧米蔵)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015126
- 国指定文化財等データベース(文化庁) ヤマモ味噌醤油醸造元仕込蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015127
- 国指定文化財等データベース(文化庁) ヤマモ味噌醤油醸造元諸味蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015128
- 国指定文化財等データベース(文化庁) ヤマモ味噌醤油醸造元酢蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015129
- 国指定文化財等データベース(文化庁) ヤマモ味噌醤油醸造元作業場
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015130
- 文化庁 令和6年7月19日 文化審議会の答申(登録有形文化財(建造物)の登録)
- https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/94084201_01.pdf
- 湯沢市 ヤマモ味噌醬油醸造元店舗兼主屋ほか7棟
- https://www.city-yuzawa.jp/site/bunkazai/6175.html
- ヤマモ味噌醤油醸造元(髙茂合名会社) COMPANY
- https://yamamo1867.com/company/
- ヤマモ味噌醤油醸造元(髙茂合名会社) HISTORY
- https://yamamo1867.com/history/
- ヤマモ味噌醤油醸造元(髙茂合名会社) RESTAURANT & TOUR
- https://yamamo1867.com/plan/
- あきた発酵ツーリズム ヤマモ味噌醤油醸造元/高茂合名会社
- https://hakko.akita-kenmin.jp/kamoshidokoro/424
最終更新日: 2026.09.25
基本情報
| 名称 | ヤマモ味噌醤油醸造元 |
|---|---|
| 所在地 | 秋田県湯沢市岩崎字岩崎124 |
| 所有者 | 個人 |
| 指定 | 登録有形文化財 8件 |
| 座標 | 39.20627, 140.51021 |