大多喜の屋根越しに立つ煉瓦の煙突

豊乃鶴酒造煙突は、千葉県夷隅郡大多喜町新丁の醸造所敷地に立つ1948年(昭和23年)頃の煉瓦造煙突で、2011年(平成23年)10月28日に登録有形文化財となった。高さは16メートル、基礎部分は一辺1.6メートルの正方形平面をとる。

位置は工場の正面、その西寄り。旧城下町のこのあたりに16メートルに届く構築物は他にない。瓦屋根の連なりを越えて頭を出すため、蔵元の門にたどり着く前から、通りのあちこちで姿を捉えることができる。

酒造りは米を蒸すところから始まり、まとまった量の蒸気はボイラーで起こす。醸造所に立つこの規模の煉瓦煙突は、その側の設備に属する。文化庁の解説は、この煙突が酒醸造所らしい景観をつくっていると述べている。到着した者が最初に受け取る印象を、簡潔に言い当てた記述である。

イギリス積と三段の迫り出し

豊乃鶴酒造煙突の煉瓦はイギリス積で積まれている。煉瓦の長い面だけが並ぶ段と、短い小口だけが並ぶ段を交互に重ねる積み方で、壁の内外二枚を互いに噛み合わせる働きを持つ。見方を覚えると、地上からでも水平の縞として読み取れる。

頂部は三段に迫り出す。上の段ほどわずかに外へ張り出し、煙突の頭に広がりのある襟をつくっている。足下には点検口が設けられ、煙道の内部に手が届くようになっている。

年代には意味がある。昭和23年頃といえば、太平洋戦争の終結から3年。資材が乏しく、新築そのものが珍しい時期にあたる。地方の小さな蔵元がこの水準の組積造を建てたという事実は、生産の立て直しにどれだけ急いだかを示している。2011年の登録では、同じ敷地の5棟1基が国土の歴史的景観に寄与しているものとして揃って登録有形文化財に加えられた。

見どころ

まず縞を探す。数メートル分の胴が一度に視野に入るところまで下がると、長手と小口の交互が縞として立ち上がってくる。そのまま視線を上へ送れば、頭頂の三段が空を背に厚みとして現れる。

すぼまり方も見ておきたい。基礎の一辺1.6メートルの正方形は、上へ行くほど細くなる。煉瓦で高く積むうえでの必然だが、この逓減がシルエットに独特の伸びを与えている。

色は時間帯で変わる。この時期の煉瓦は強い西日を受けても平板にならない。豊乃鶴酒造煙突は西からの光をまともに受ける位置にあり、日没前の数時間、胴がかなり暖色に寄る。その下で工場の屋根は先に影へ沈む。

豊乃鶴酒造煙突の見学

内部に入る構造ではなく、料金の設定もない。豊乃鶴酒造煙突は今も酒を造っている会社の敷地内に立っており、公道あるいは敷地入口のあたりから外観を眺めることになる。高さがあるぶん、この場所の6件のなかでは、近づかなくても最もよく見える一件といえる。

敷地内では自社の酒が販売されている。千葉県酒造組合は見学と試飲の受け入れがあると記しているが、いずれも事前の手配が要る。電話は0470-82-2026。営業時間は蔵元が公表していないので、人がいる時間帯を確かめるうえでも連絡しておくのが確実である。

道路からの撮影は自由。門をくぐった先は私有地なので、ひと言断ってから撮りたい。

大多喜駅は北へ約600メートル、徒歩8分ほど。ただし現在、列車は走っていない。いすみ鉄道は2024年10月の脱線事故を受けて全線で運転を見合わせており、代行バスが全駅に停車している。大原・大多喜間の再開見込みは2027年秋頃とされる。出発前に鉄道会社の案内で状況を確かめてほしい。蔵元には数台分の駐車スペースがある。

Q&A

Q豊乃鶴酒造煙突の高さはどれくらいですか?
A16メートルです。基礎は一辺1.6メートルの正方形で、胴は上へ行くほど細くなり、頂部で三段に迫り出します。
Q豊乃鶴酒造煙突はいつ建てられたのですか?
A1948年(昭和23年)頃、太平洋戦争が終わって間もない時期の建造です。登録有形文化財となったのはずっと後の2011年(平成23年)10月28日でした。
Q豊乃鶴酒造煙突はどこから見るのがよいですか?
A蔵元の前の通りから、胴全体が入るところまで下がって見るのがおすすめです。周囲の屋根を越える高さがあるため、門に着く前から通り沿いの複数の地点で見えます。
Q豊乃鶴酒造煙突を見るのに入場券は必要ですか?
A不要です。入場という仕組み自体がありません。外から眺めるだけなら費用はかかりません。買い物をしたい場合は敷地内で酒を購入できます。
Qそもそも豊乃鶴酒造のような酒蔵になぜ煙突が要るのですか?
A仕込みのたびに米を蒸す工程があり、商業規模の蒸気はボイラーで起こすためです。醸造所に立つこの高さの組積造の煙突は、その設備に付随します。豊乃鶴酒造煙突が工場の正面に位置するのもそのためです。

基本情報

名称豊乃鶴酒造煙突
所在地千葉県夷隅郡大多喜町新丁字下宿88
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年2011年(平成23年)10月28日登録
員数1基
寸法高さ16メートル、基礎は一辺1.6メートルの正方形、煉瓦造イギリス積
所有者豊乃鶴酒造株式会社
公開状況公道から常時見学可、内部立入不可、敷地内で酒類販売あり、見学・試飲は要事前電話連絡

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「豊乃鶴酒造煙突」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00008823
千葉県教育委員会「豊乃鶴酒造主屋ほか」
https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/bunkazai/bunkazai/q111-059.html
大多喜町「大多喜町役場中庁舎と塩田家住宅が国の登録有形文化財に登録されました」
https://www.town.otaki.chiba.jp/soshiki/shougaigakusyu/2/1/3/714.html
千葉県酒造組合「豊乃鶴酒造」
https://chiba-sake.jp/nansou/toyono/
いすみ鉄道 運行情報
https://isumirail.co.jp/

最終更新日: 2026.09.09