愛媛県庁本館:昭和初期の名建築が今も息づく現役庁舎

松山市の中心部に堂々と佇む愛媛県庁本館は、昭和4年(1929年)に竣工した鉄筋コンクリート造の洋風建築です。現在も知事が執務を行う現役の庁舎として使用されており、知事が業務を行う都道府県庁舎としては全国で3番目に古い建物です。令和3年(2021年)2月には国の登録有形文化財に登録され、その建築的・歴史的価値が正式に認められました。

歴史的背景

愛媛県庁本館は、明治6年(1873年)の愛媛県誕生以来、4代目の庁舎として建設されました。昭和2年(1927年)に着工し、昭和4年(1929年)に竣工。建設費はおよそ102万円で、現在の金額に換算すると100〜120億円に相当するとされています。

設計を手がけたのは建築家・木子七郎(きご しちろう、1884〜1955年)です。木子家は代々皇室のお抱え棟梁を務めた名家で、父の清敬(きよよし)は東京大学造家学科で教鞭を執ったこともあります。木子七郎は東京帝国大学建築学科を卒業後、関西を中心に活躍しました。愛媛との縁は、妻の父である新田長次郎が松山出身の実業家で、松山高等商業学校(後の松山大学)の開設に尽力した人物であったことによります。木子七郎は愛媛県庁本館のほか、近隣の重要文化財・萬翠荘(旧久松家別邸)も設計しています。

構造設計は、後に東京タワーの設計で知られることになる内藤多仲(ないとう たちゅう、1886〜1970年)が担当しました。戦時中には空襲を避けるため建物全体が迷彩色に塗装されていた時期もあります。平成6年(1994年)には洗い出し工法による大規模修繕が行われました。

文化財としての登録理由

愛媛県庁本館は令和3年(2021年)2月26日、国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その評価のポイントは以下の通りです。

H形平面という当時の都道府県庁舎としては珍しい平面構成を持ち、中央の車寄せ上部に三連の半円アーチを並べ、頂部にドームを冠した塔屋を載せて両翼を張り出す堂々とした外観を誇ります。外壁は石積みと平滑な擬石仕上げを組み合わせ、装飾は車寄せ開口部と窓廻りの縁取りに抑えつつ、内部では中央階段室や正庁などを華麗に飾るという、外観の端正さと内部の華やかさの対比が見事です。

度重なる改修を経ながらも、建築当初の間取りや仕上げが良好に保たれており、近隣の萬翠荘とともに鉄筋コンクリート造洋風建築の造形の規範となっている点が高く評価されています。

建築の見どころ

正面玄関から建物に入ると、黒と白の大理石が市松模様に敷き詰められたロビーが広がります。この大理石の中にはアンモナイトの化石がいくつも隠れており、訪れる人々を楽しませています。吹き抜けを貫通する円柱が県政の中心としての威厳を醸し出しながらも、柔らかな雰囲気を生み出しています。

建物のシンボルである緑色のドーム型塔屋は中央に位置し、内部は会議室として使用されています。上空から見ると、左右対称の建物はまるで翼を広げた鳥のような姿をしています。中央部と両翼の窓枠は各階で連続的に配置され、頂部がアーチ状に処理されています。2階の車寄せは正面に大きく張り出し、御影石で装飾されています。

内部の見どころとしては、3階の貴賓室が挙げられます。建設当時のシャンデリアや大理石造りの暖炉が残り、暖炉にもアンモナイトの化石が見られます。4階の正庁(表彰式典などに使われる部屋)や知事室も昭和初期の趣を色濃く残しています。玄関付近には建設当時から使用されているレトロな電話ボックスがあり、当時としては珍しかったエレベーターも設置されています。

平日であれば、ロビーや階段などの共用部分は申し込み不要で自由に見学できます。事前に県庁に申し込めば、貴賓室などを含むガイド付き見学も可能です。

アクセス情報

愛媛県庁本館は松山市の中心部に位置し、伊予鉄道の路面電車(市内電車)でのアクセスが便利です。最寄り電停は「県庁前」で、下車すればすぐ目の前です。大街道からは徒歩約5分、松山市駅からは徒歩約15分です。松山城のある城山公園の東御門を出てすぐの場所にあるため、松山城観光と合わせて訪れるのがおすすめです。

建物内にはみきゃんセンター(県民総合相談プラザ内)があり、愛媛県の公式マスコットキャラクター「みきゃん」のグッズや地元の特産品を購入できます。ただし、土日祝日は閉館となる場合がありますのでご注意ください。土日祝日の見学時には、入口で「来庁者入館カード」への記入が必要です。

周辺の観光スポット

愛媛県庁本館の周辺には、松山を代表する観光名所が集まっています。すぐ裏手の山上には、全国に12しかない現存天守を持つ松山城がそびえます。同じく木子七郎が設計した重要文化財・萬翠荘(フランス・ルネサンス様式の洋館)は城山の中腹にあり、徒歩圏内です。日本最古の温泉の一つとされる道後温泉へは、路面電車で約15分。大街道・銀天街の商店街も徒歩数分の距離にあり、食事や買い物を楽しめます。

Q&A

Q愛媛県庁本館は見学できますか?
Aはい。平日であればロビーや階段などの共用部分は申し込み不要で自由に見学できます。土日祝日は入口で「来庁者入館カード」への記入が必要です。事前に県庁に申し込めば、貴賓室など通常非公開の部屋を含むガイド付き見学も可能です。
Q設計者は誰ですか?
A建築設計は木子七郎(1884〜1955年)で、近隣の重要文化財・萬翠荘も手がけた建築家です。構造設計は、後に東京タワーの構造設計で知られる内藤多仲が担当しました。
Qアクセス方法を教えてください。
A伊予鉄道の路面電車(市内電車)に乗り、「県庁前」電停で下車すると目の前です。大街道からは徒歩約5分、松山市駅からは徒歩約15分です。
Q建物の中にアンモナイトの化石があるのは本当ですか?
Aはい。ロビーの黒白の大理石の床や、貴賓室の大理石造りの暖炉の中にアンモナイトの化石が含まれており、見つけるのも見学の楽しみの一つです。
Q現在も庁舎として使われているのですか?
Aはい。知事室や各部署の執務室が置かれ、現在も県庁の業務が行われています。知事が執務を行う庁舎としては、大阪府庁舎(1926年)、神奈川県庁舎(1928年)に次いで全国3番目に古い建物です。

基本情報

名称 愛媛県庁本館(えひめけんちょうほんかん)
文化財種別 国登録有形文化財(建造物) 令和3年(2021年)2月26日登録
設計 木子七郎(きご しちろう)
構造設計 内藤多仲(ないとう たちゅう)
竣工 昭和4年(1929年)
構造 鉄筋コンクリート造4階建、陸屋根、建築面積2,104㎡、塔屋付
所在地 愛媛県松山市一番町四丁目4-2
所有者 愛媛県
アクセス 伊予鉄道市内電車「県庁前」電停下車すぐ/大街道から徒歩約5分

参考文献

文化遺産オンライン — 愛媛県庁本館
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/588720
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013762
松山市公式ホームページ — 愛媛県庁本館
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/kanko/kankoguide/rekishibunka/bunkazai/kunitouroku/ehimekencho_honkan.html
愛媛県教育委員会 — 登録有形文化財 愛媛県庁本館
https://ehime-c.esnet.ed.jp/bunkazai/kennobunkazai/tourokubunkazai/touroku-kohyo/ehimekencyouhonkan.htm
JB本四高速 — 萬翠荘と愛媛県庁本館:木子七郎
https://www.jb-honshi.co.jp/shimanami/travel/architecture/p03.html
いよ観ネット — 愛媛県庁本館
https://www.iyokannet.jp/spot/3656
愛媛県公式ホームページ — 県庁本館見学・案内
https://www.pref.ehime.jp/kenmin/kengaku/

最終更新日: 2026.04.07