八束家住宅待合 ― 庭の南端に置かれた8.6平方メートルの建物

八束家住宅待合は、愛媛県松山市持田町の八束家住宅の庭の南端に建つ昭和11年(1936年)建築の木造平屋建で、平成27年(2015年)8月4日に登録有形文化財(建造物)となった。建築面積は8.6平方メートル。同じ日に登録された主屋の198平方メートル、蔵の29平方メートルと比べると、桁がひとつ違う。

茶の湯の露地では、客が席入りの時を待つ場所として腰掛待合を設ける。八束家住宅待合はその一例で、主屋の茶室の南向かいに庭を挟んで建ち、茶室と向かい合うように腰掛が据えられている。座敷、茶室、待合のあいだは飛石で結ばれ、客の動線がそのまま庭の骨格になっている。

形式は腰掛と雪隠を背中合わせにしたもので、南面には大小の便所が付く。露地の設備としては本式の構えである。

登録の理由と、庭園としての位置づけ

登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、登録番号は38-0113。第81回の登録で、主屋・蔵と同じ平成27年(2015年)8月4日である。文化庁の国指定文化財等データベースは、八束家住宅待合について、腰廻りや軒裏に杉皮を張るなど上質な意匠になると記す。

屋敷の庭園は、令和元年(2019年)10月16日に「八束氏庭園」として国の登録記念物になった。主要部がほぼ正方形の敷地に、北西の主屋、南西の主庭、東の前庭が置かれ、八束家住宅待合はその主庭の南端に位置する。建物として登録され、庭園の構成要素としても評価されているという二重の立場にある。

八畳の座敷から茶室へ、茶室から庭を渡って待合へ。松山では江戸時代から茶の湯が続いており、昭和11年(1936年)の新築にあたって、この動線を最初から計画に含めたことがうかがえる。

見どころ ― サルスベリの柱と、修理で残されたもの

腰掛はL字に廻らされ、その隅に琵琶棚を思わせる棚が設けられている。柱や鴨居には要所にサルスベリなどの自然木が使われる。サルスベリは樹皮がはがれて滑らかな幹肌になる木で、丸みを残した材が、直線でそろえられた座に少しだけ緩みを与える。腰廻りと軒裏には杉皮を張り、主屋の茶室と同じ手ざわりでそろえてある。

屋根は桟瓦を葺き、その周囲を金属板で納める。文化庁の構造表記は「瓦葺一部鋼板葺」だが、同じデータベースの解説文では銅板と記されており、記述に揺れがある。松山市によれば、平成23年(2011年)の修理で軒とけらば廻りの赤色鉄板を取り替え、青銅色のステンレスによる一文字葺きとした。

この修理の進め方が興味深い。瓦は当初の材をそのまま再び用い、軸部にかかる重さを減らすために一列分だけ減らしている。軒裏の化粧野地板の杉皮、垂木の杉丸太、下地の小舞竹は、材種も寸法も工法も当初にならった。腰掛はシロアリの害で傷みが進んでいたため造り替えになったが、杉の赤身の柾目材を使い、板の間に竹を入れる納まりまで元の形に戻している。

柱や鴨居に使われた自然木はほとんどが当初材のまま残る。8.6平方メートルの建物に対して、これだけ細かく手が入れられている。

見学方法とアクセス

八束家住宅待合は非公開である。所有は個人で、屋敷は今も日常の住まいとして使われている。待合は庭のなかにあるため、敷地に入らなければ見ることができず、その立入が認められていない。公開日や特別公開の予定も公表されていない(2026年9月5日確認)。

敷地は塀と表門に囲まれ、待合は主庭の奥に位置する。公道からの視認はほぼ望めないと考えてよい。敷地内での撮影はできず、公道から住まいの生活空間へ向けて撮影することも控えたい。

所在地の最寄りは伊予鉄道市内電車の城南線「南町」停留場、そこから南へ徒歩10分ほどである。松山城の東約1.5キロ、道後温泉の南西約1キロ。市内電車を使えば松山市駅からも道後温泉からも乗り換えなしで近くまで行ける。

文化財に関する問い合わせは松山市文化財課(電話089-948-6603)へ。市内の登録有形文化財の一覧は松山市の公式サイトに掲載されている。

Q&A

Q八束家住宅待合は見学できますか。
A八束家住宅待合は非公開です。庭のなかに建っているため、敷地に入らなければ見ることができませんが、八束家住宅は個人の住まいとして使われており、立入は認められていません。
Q八束家住宅待合はどのような建物ですか。何のためのものですか。
A茶の湯の露地に置かれる腰掛待合です。客が席入りの時を待つための建物で、主屋の茶室と庭を挟んで向かい合います。腰掛と雪隠を背中合わせにした形式で、南面に大小の便所が付きます。
Q八束家住宅待合の大きさはどのくらいですか。
A建築面積は8.6平方メートルです。同じ敷地の主屋が198平方メートル、蔵が29平方メートルですから、三棟のなかでは最も小さい建物にあたります。
Q八束家住宅待合はいつ修理されましたか。当初の材は残っていますか。
A松山市によれば、平成23年(2011年)に壁の塗替えと屋根の葺替えを含む修理が行われました。瓦は当初材を再利用し、軒裏の杉皮や杉丸太の垂木は当初の材種・寸法・工法にならっています。柱や鴨居の自然木もほとんどが当初材です。
Q八束家住宅待合はいつ登録有形文化財になりましたか。庭園も文化財ですか。
A登録は平成27年(2015年)8月4日、登録番号38-0113です。屋敷の庭園は令和元年(2019年)10月16日に「八束氏庭園」として国の登録記念物になっています。

基本情報

名称八束家住宅待合
所在地愛媛県松山市持田町3-242-1
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年平成27年(2015年)8月4日 登録/登録番号38-0113
員数1棟
寸法木造平屋建、瓦葺一部鋼板葺、建築面積8.6平方メートル
所有者個人
公開状況非公開(住宅として使用中。敷地内立入不可)

参考文献

最終更新日: 2026.09.05