八束家住宅蔵 ― 湊町から運ばれてきた明治の土蔵

八束家住宅蔵は、愛媛県松山市持田町の八束家住宅の敷地北西隅に建つ明治中期の土蔵造二階建で、平成27年(2015年)8月4日に登録有形文化財(建造物)となった。同じ敷地の主屋と待合が昭和11年(1936年)の新築であるのに対し、八束家住宅蔵だけは半世紀ほど古い。

文化庁の国指定文化財等データベースは、年代を明治中期、西暦1883年から1897年の間とする。もとは松山市湊町にあった八束家の旧屋敷に建っていた三棟の蔵のうちの一棟で、昭和11年(1936年)に持田町へ屋敷を移した際、この一棟だけが解体して運ばれ、あらためて組み上げられた。

規模は桁行二間半、梁間二間。屋根は切妻造桟瓦葺で、東を戸口として庇を付ける。南には木造平屋建の倉庫が付属し、蔵と合わせた建築面積は29平方メートルである。

登録の理由と、年代をめぐる二つの記述

登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、登録番号は38-0112。第81回の登録で、主屋・待合と登録日は同じである。文化庁のデータベースは八束家住宅蔵を、屋敷北西隅の景観を構成する土蔵と位置づけている。

建築年代については資料に幅がある。文化庁のデータベースが明治中期、1883年から1897年の間とするのに対し、松山市の解説は明治30年代、1897年から1906年ごろの建築とし、約130年前と記す。十年ほどの開きがあるため、本記事では一次資料である文化庁の記載を採り、この違いをここに明記しておく。昭和11年(1936年)の移築という点では、両者の記述は一致している。

移築を経た建物が登録の対象になるのは、登録有形文化財の制度が現在の姿を評価するためである。八束家住宅蔵の場合、湊町の旧屋敷で建てられた明治の技術と、持田町の屋敷に据え直された昭和11年(1936年)の判断が、一棟のうちに重なっている。

見どころ ― 黒い壁、四重の扉、丸太の丑梁

外壁は上下で仕上げが分かれる。二階の壁は黒漆喰塗り、一階の腰にあたる部分はモルタルの洗い出し仕上げで、足元の巾木には御影石を張る。黒、砂色、石の灰色が水平に三段。土蔵といえば白い漆喰を思い浮かべやすいが、八束家住宅蔵は黒でまとめられている。

東を向く戸口は四重の扉である。外側はコンクリート製の両開き戸、その内側の三枚は片引き戸で、外から順に漆喰塗りの防火戸、一部を格子とした板戸、網戸と続く。防火、防犯、通風のそれぞれに一枚ずつ役割が割り振られている。ここを開け閉てする手間から、中に納めていたものの重さが想像できる。

内部の小屋組では、大断面の丸太を丑梁として渡し、そこへ登り梁をかけて上部まで使えるようにしている。二階建の土蔵で、小屋裏の高さまで収納に充てるための工夫である。

南に付属する倉庫は、昭和11年(1936年)の移築時に建て増されたもの。真壁造で腰を杉皮で張り、外観の調子を母屋側にそろえている。杉皮の腰は敷地内の茶室や待合にも使われており、新旧の建物が同じ手ざわりで結ばれている。

見学方法とアクセス

八束家住宅蔵は非公開である。八束家住宅は個人の所有で、現在も住まいとして使われている。蔵の内部を見学することはできず、敷地内に立ち入ることもできない。公開日や特別公開の予定は公表されていない(2026年9月5日確認)。

蔵が建つのは敷地の北西隅で、屋敷は塀と表門に囲まれている。公道から屋根や壁の上部がわずかに見える程度と考えたほうがよい。敷地内での撮影はできず、公道からも住まいの生活空間に向けた撮影は控えたい。

最寄りは伊予鉄道市内電車の城南線「南町」停留場で、そこから南へ徒歩10分ほど。松山城の東約1.5キロ、道後温泉の南西約1キロにあたる。松山市駅、道後温泉のいずれからも市内電車一本で近くまで行ける。

文化財についての問い合わせは松山市文化財課(電話089-948-6603)が窓口となる。市内の登録有形文化財は松山市の公式サイトに一覧がある。

Q&A

Q八束家住宅蔵は見学できますか。内部に入れますか。
A八束家住宅蔵は非公開です。八束家住宅は個人の住まいとして使われており、蔵の内部見学はできません。敷地内への立入も認められていません。
Q八束家住宅蔵はいつ建てられたものですか。
A文化庁の国指定文化財等データベースは明治中期、1883年から1897年の間としています。松山市の解説は明治30年代、1897年から1906年ごろとしており、記述に十年ほどの差があります。本記事は一次資料である文化庁の年代を採っています。
Q八束家住宅蔵はどこから移築されたのですか。
A松山市湊町にあった八束家の旧屋敷からです。旧屋敷には蔵が三棟ありましたが、昭和11年(1936年)に持田町へ屋敷を移した際、そのうちの一棟が運ばれて現在地に建て直されました。
Q八束家住宅蔵の入口が四重の扉というのは、どういう構造ですか。
A東の戸口に扉が四枚重ねられています。いちばん外がコンクリート製の両開き戸、内側の三枚は片引き戸で、外から順に漆喰塗りの防火戸、一部を格子にした板戸、網戸となります。防火と防犯と通風を分担させた構成です。
Q八束家住宅蔵はいつ登録有形文化財になりましたか。
A平成27年(2015年)8月4日の登録で、登録番号は38-0112、第81回の登録です。同じ日に主屋と待合も登録されています。

基本情報

名称八束家住宅蔵
所在地愛媛県松山市持田町3-242-1
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年平成27年(2015年)8月4日 登録/登録番号38-0112
員数1棟
寸法土蔵造二階建及び木造平屋建、瓦葺、建築面積29平方メートル
所有者個人
公開状況非公開(住宅として使用中。敷地内立入不可)

参考文献

最終更新日: 2026.09.05