伊佐爾波神社の参道に北面する医家の住まい
久保家住宅主屋は、愛媛県松山市道後湯之町919-1にある明治期の木造平屋建住宅で、令和5年(2023年)2月27日に登録有形文化財(建造物)となった。
建物の正面は、道後温泉本館の東側から伊佐爾波神社へ上っていく参道に向いている。屋根は寄棟造の桟瓦葺で、四周に同じく桟瓦葺の下屋をめぐらせる。壁は木軸を見せる真壁とし、鼠漆喰で仕上げる。建築面積は183平方メートル。
建てたのは開業医の久保彦次である。文化庁の国指定文化財等データベースは建設年代を明治39年(1906年)頃とする。一方、松山市は久保彦次が久保醫院を開業した明治32年(1899年)頃と推定しており、両者に7年ほどの開きがある。松山市は棟札も墨書も残っていないため年代を断定できないと明記している。いずれにせよ明治後期、道後温泉本館が建ったころの建築である。
その後、昭和47年(1972年)と令和元年(2019年)に改修を受けている。
なぜ登録有形文化財なのか
登録有形文化財は、平成8年(1996年)に始まった制度で、使われ続けている近代の建物を対象とする。久保家住宅主屋の登録基準は第一の「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、登録番号は38-0166。
同じ日には、同じ屋敷地の離れ、待合、表門及び塀、仕切門及び塀の4棟も登録された。5棟がまとまって残っている点が大きい。道後湯之町の参道沿いは旅館の建て替えが進み、明治後期の建物はほとんど姿を消した。塀の内側に何がどう配置されていたのかを、屋敷単位で追える例は少ない。
もう一つ、この家には医家らしくない選択がある。茶室が庭の奥ではなく、玄関のすぐ西隣に置かれているのだ。来客を迎える座敷と壁一枚で接し、参道に面した北側に躙口を開く。人の出入りの多い医院の表側に、あえて茶の空間を寄せている。
見どころ
まず玄関の破風を見上げたい。元は檜皮葺で、現在は銅板一文字葺で覆われている。破風の線は下に垂れる反りではなく、上に張り出すむくりを描く。頂部には鳳凰を彫った懸魚が下がる。参道に向けた、はっきりとした見せ場である。
玄関の西が茶室にあたる。外からは、北面東端の躙口、竹を組んだままの下地窓、竹格子の窓が読み取れる。内部は二畳台目で向板が入り、亭主の座を示す台目畳が置かれる。中柱は皮付きの赤松。天井は手前座が竹棹縁の簾天井、客座が竿縁天井と張り分けられている。西隣には半畳の水屋。
東側は接客の側になる。八畳の客座敷は東面の北に床の間と付書院を構え、南寄りの床脇に天袋と千鳥棚を納める。欄間は南壁が松に朝日を主題とした彫刻、北壁が障子と、意匠を変えてある。その南にもう一室、八畳の次の間が続く。
二つの側をつなぐのが日常の動線だ。むくり破風の玄関には式台が据えられ、六畳の表玄関、六畳の次の間へと進む。北面中央の脇玄関は二畳大のたたきから板間に上がり、当初は畳敷だったと伝わる。その東の三畳の入側が、縁側と客座敷へ抜ける。
見学方法
久保家住宅主屋は個人の所有で、文化財としての一般公開は行われていない。拝観料も拝観時間も設定されておらず、内部を見学する仕組みはない。屋敷地の一部は店舗として活用されているため、現地の状況は変わりうる。
見られるのは参道側の外観である。塀の上に瓦屋根と棟の線がよく通り、表門の脇戸が開いているときは、その開口越しに玄関の破風と鳳凰の懸魚が見える。公道からの撮影に制限はない。門の内側は私有地なので、立ち入りや塀越しの撮影は所有者の許可なく行わないこと。
行き方は、伊予鉄道の市内電車で終点の道後温泉停留場まで。松山市駅からもJR松山駅からも路線がつながっている。道後ハイカラ通りを抜けて道後温泉本館まで進み、そこから東へ伊佐爾波神社の参道に入る。所要は徒歩8分ほど。停留場そばの商店街入口には観光案内所がある。登録内容についての問い合わせは松山市文化財課(電話 089-948-6603)が窓口となる。
Q&A
- 久保家住宅主屋の内部は見学できますか?
- できません。個人所有で、文化財としての一般公開は行われていません。拝観料や拝観時間の設定もなく、座敷や茶室、庭に立ち入ることはできません。
- 久保家住宅主屋はいつ建てられ、いつ登録されましたか?
- 文化庁のデータベースでは明治39年(1906年)頃の建築とされています。登録有形文化財(建造物)となったのは令和5年(2023年)2月27日、登録番号は38-0166です。
- 道後温泉停留場から久保家住宅主屋までどう行きますか?
- 道後ハイカラ通りを通って道後温泉本館へ出て、東の伊佐爾波神社参道に入ります。参道の北側に建っており、徒歩8分ほどです。
- 久保家住宅主屋は外から何が見えますか?
- むくり破風の玄関と鳳凰の懸魚、寄棟造桟瓦葺の屋根と下屋、参道沿いに続く鼠漆喰の塀です。表門の脇戸が開いていれば、北面の茶室の窓もうかがえます。
- 久保家住宅主屋を撮影してもよいですか?
- 公道からの撮影は自由です。門の内側は私有地ですので、無断で立ち入ったり塀越しにカメラを差し入れたりしないでください。
基本データ
| 名称 | 久保家住宅主屋(くぼけじゅうたくおもや) |
|---|---|
| 所在地 | 愛媛県松山市道後湯之町919-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号38-0166 |
| 指定年 | 令和5年(2023年)2月27日 登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積183平方メートル |
| 所有者 | 個人 |
| 公開状況 | 非公開。伊佐爾波神社参道から外観を見学できる。 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「久保家住宅主屋」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014533
- 松山市「久保家住宅主屋」
- https://www.city.matsuyama.ehime.jp/kanko/kankoguide/rekishibunka/bunkazai/kunitouroku/kuboke_omoya.html
- 松山市「国登録文化財」一覧
- https://www.city.matsuyama.ehime.jp/kanko/kankoguide/rekishibunka/bunkazai/kunitouroku_ichiran.html
最終更新日: 2026.09.05