薬品庫から店舗へ ― 用途を三度書き換えられた建物
久保家住宅離れは、愛媛県松山市道後湯之町918-1にある木造2階建の建物で、大正3年(1914年)頃に医薬品倉庫兼勉強部屋として建てられ、令和5年(2023年)2月27日に登録有形文化財(建造物)となった。
伊佐爾波神社の参道に面した医家の屋敷地、その北東隅に建つ。同じ屋敷で登録された5棟のうち、訪問者が中に入れるのはここだけである。屋根は入母屋造の桟瓦葺。2階の階高を高く取り、1階の西面と南面に桟瓦葺の下屋をめぐらせる。建築面積は40平方メートル。
当初の用途を松山市はそのまま記している。1階が医薬品の倉庫、2階が勉強部屋であった。文化庁のデータベースは昭和3年(1928年)、昭和24年(1949年)、平成23年(2011年)の改修を記録する。松山市によれば、昭和28年(1953年)に店舗へ改修して骨董商に貸したと伝わり、以後は店子が入れ替わりながら賃貸が続き、現在は飲食店として使われている。
なぜ登録有形文化財なのか
登録有形文化財は平成8年(1996年)に始まった制度で、いまも使われている建物を対象とする。久保家住宅離れはその趣旨にそのまま当てはまる。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、登録番号は38-0167で、主屋・待合・表門及び塀・仕切門及び塀とともに登録された。
価値は、手つかずで残っていることではなく、変化が記録として読めることにある。道後湯之町は20世紀を通じて湯治の町から観光の通りへ変わり、この小さな付属屋はそのたびに表情を変えられてきた。大正の軸部の上に昭和の店構えが載っている。両方をあわせて読むところに意味がある。
屋敷の他の4棟は非公開で扉が閉じている。この1棟だけが70年にわたり何らかの形で開かれてきた。久保家の建物のうち、多くの人が実際に体験しているのはここである。
見どころ
参道に向いた北面が店の顔にあたる。中央に引き違い戸の玄関を置き、桟瓦葺の庇を掛ける。入口の東には半間の戸袋、その上には下地窓風に組んだ玄関欄間。玄関の西にはガラス張りの出窓型ショーウィンドウが張り出し、屋根は銅板一文字葺とする。北東隅の勝手口は瓦葺の目隠し板塀の陰にあり、母屋から庇を掛けて玄関ポーチとしている。この正面は1階から2階までモルタルで塗り籠められ、東面はプリント鋼板で補修されている。
そのうえで、2階の窓を数えてみてほしい。2か所ある。どちらも窓ではない。内側にあたる壁は押入の背で、漆喰塗籠で仕上げられている。通りに向いた面が単調にならないように後から付けた飾りの窓である。建具が客商売をしている。
南側に回ると建物の性格が変わる。こちらは軸部を見せる真壁で、2階は西端の半間を除いてほぼ全面がガラス窓。窓の高さで縁を張り出して手摺を付け、上に霧除の庇を掛ける。この面が向いているのは主屋の庭座敷の方角である。2階の座敷はそれを眺めるために造られた。
内部も二つに割れている。1階は2間とも床が取り除かれて土間になっている。2階は階段をはさんで西が6畳、東が3畳。西6畳の北面には床の間があり、床框が2段になっていて後年の改修が疑われる。高欄と広いガラス窓と床の間は勉強部屋のもの、モルタルとショーウィンドウは店舗のものである。
見学方法
久保家住宅離れは個人の所有で、文化財としての公開時間や拝観料は設定されておらず、案内付きの見学もない。店舗として賃貸されているため、1階は営業時間中であれば客として入ることができる。ただし営業時間も借り手も業種も過去に何度か変わっており、今後も変わりうる。目的地として訪ねる場合は事前に確認したい。
外観はいつでも見られる。参道に立てば店構えと2階の偽窓が観察できる。ガラス張りの南面は塀の内側にあたるため、通りからは見えない。公道からの外観撮影に制限はない。内部を撮る場合は先に店の人に断ること。
行き方は伊予鉄道の市内電車で終点の道後温泉停留場へ。道後ハイカラ通りを抜けて道後温泉本館まで進み、東へ伊佐爾波神社の参道に入る。徒歩8分ほど。表門と鼠漆喰の塀を過ぎた、屋敷の通り沿いのいちばん奥に建っている。登録内容についての問い合わせは松山市文化財課(電話 089-948-6603)へ。
Q&A
- 久保家住宅離れの中に入れますか?
- 1階は店舗として賃貸されており、営業時間中であれば客として入れます。文化財としての公開や拝観料の設定はありません。2階は公開されていません。
- 久保家住宅離れはもともと何に使われていた建物ですか?
- 松山市の記録では、大正3年(1914年)頃に医薬品の倉庫兼勉強部屋として建てられました。同じ屋敷地にあった医家の付属屋です。
- 久保家住宅離れはいつ登録されましたか?
- 令和5年(2023年)2月27日に登録有形文化財(建造物)となりました。登録番号は38-0167で、久保家の他の4棟と同時の登録です。
- 道後温泉停留場から久保家住宅離れまでどう行きますか?
- 道後ハイカラ通りを通って道後温泉本館へ出て、東の伊佐爾波神社参道に入ります。徒歩8分ほどで、参道北側、塀が続く屋敷の東の端に建っています。
- 久保家住宅離れの2階の窓が変わって見えるのはなぜですか?
- 通り側2階の2か所の窓は実際には開きません。裏側は漆喰で塗り籠めた押入で、店舗へ改修した際に通りからの見え方を整えるために設けられた飾りの窓です。
基本データ
| 名称 | 久保家住宅離れ(くぼけじゅうたくはなれ) |
|---|---|
| 所在地 | 愛媛県松山市道後湯之町918-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号38-0167 |
| 指定年 | 令和5年(2023年)2月27日 登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、建築面積40平方メートル |
| 所有者 | 個人 |
| 公開状況 | 文化財としての公開はなし。店舗として賃貸されており、1階は営業時間中に入れる。 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「久保家住宅離れ」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014534
- 松山市「久保家住宅離れ」
- https://www.city.matsuyama.ehime.jp/kanko/kankoguide/rekishibunka/bunkazai/kunitouroku/kuboke_hanare.html
- 文化遺産オンライン「久保家住宅離れ」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/548728
最終更新日: 2026.09.05