水口酒造店舗兼主屋:道後温泉とともに歩む大正建築の登録有形文化財

愛媛県松山市、趣ある石畳が続く「にきたつの道」沿い——日本最古の名湯として知られる道後温泉からわずか徒歩5分の場所に、水口酒造店舗兼主屋は静かに佇んでいます。大正6年(1917年)に棟上されたこの木造2階建ての建物は、平成28年(2016年)11月に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。道後地区唯一の造り酒屋として明治28年(1895年)に創業した水口酒造の歴史を今に伝える、大正期商家建築の好例です。

日本最古の温泉地に寄り添う酒蔵の歩み

道後温泉は、日本書紀や源氏物語にも登場する約3,000年の歴史を誇る名湯です。道後温泉本館は明治27年(1894年)に改築され、平成6年(1994年)には日本初の重要文化財指定公衆浴場となりました。

その本館改築の翌年、明治28年(1895年)に初代・水口大七郎が創業したのが水口酒造です。看板銘柄「仁喜多津(にきたつ)」の名は、日本最古の歌集『万葉集』に収められた額田王(ぬかたのおおきみ)の歌に由来します。斉明天皇7年(661年)、九州へ向かう船団が伊予の熟田津に立ち寄った際に詠まれたとされるこの歌は、道後の地の古い歴史を物語るものです。「仁愛と喜び多き津渡」の意を込めて名付けられた仁喜多津は、百三十年余にわたり道後の地酒として愛され続けています。

登録有形文化財に登録された理由

水口酒造店舗兼主屋は、平成28年(2016年)11月29日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。大正期の商家建築の好例であり、柱と貫を現しにした外観が道後の町並みの風情を形作る建造物として評価されています。

建物の外観は漆喰塗りの腰羽目板張りで、2階は建ちが高く洋風の丸窓を備えるなど、大正期の建物らしい自由な雰囲気にあふれています。小屋裏の構造も特筆すべき点で、大広間の中央部にはトラス構造が採用される一方、その他の部分は伝統的な和小屋で構成されています。このトラスと和小屋の併用は、西洋の工法を取り入れながらも日本の木造住宅の伝統を守った大正期の構造手法を示す貴重な事例です。道後温泉本館にも同じトラス工法が用いられており、地域の建築的なつながりを感じることができます。

建物の用途は建築当初から現在まで変更なく、造り酒屋の店舗と住宅を兼ねた兼用住宅として使われ続けています。建具等に一部変更があるものの、構造躯体は建築当初のままという点も、文化財としての価値を高めています。

建築の見どころと内部の美

1階は店舗部分として大きな土間を設け、帳場(番台)、敷台、そして玄関が配置されています。玄関からは客用前の間、寝室、居室、2階広間へと出入りできるよう、動線が見事に整理されています。

居室部には6畳の和室と8畳の座敷が並びます。座敷は二方に縁を廻らし、書院が設けられた格式ある造りです。天井は匙面の棹縁天井、障子は腰付障子と、細部にまで行き届いた意匠が見られます。床柱には緋鉄刀木(ひてつどうき)、違い棚には橡(とち)が使われており、銘木類を贅沢に用いた大正期の建築美を堪能できます。

2階には圧巻の24.5畳の大広間が広がります。トラス構造による高い天井が開放的な空間を実現し、南面と東面にかけて設けられた欄干からは、階下の庭を眺めることができます。また、入口の暖簾は毎月テーマに合わせて色が変わるという遊び心も、この建物ならではの魅力です。

伝統と革新が共存する「生きた酒蔵」

水口酒造は歴史的建造物であると同時に、現役の造り酒屋として活発な活動を続けています。家訓「暖簾を守るな 暖簾を破れ」の精神のもと、伝統を守りつつも常に新しい挑戦を行っています。

看板の清酒「仁喜多津」は全国新酒鑑評会で通算7度の金賞を受賞した実力派です。平成8年(1996年)に発売された「道後ビール」は、ケルシュ、アルト、スタウト、ヴァイツェン、湯あがりIPAの5種類を揃え、道後温泉の定番土産として親しまれています。さらに道後焼酎、酒粕と愛媛県産ボタニカルを使用した「道後ジン」、瀬戸内・岩城島産レモンを使った「道後リモンチェッロ」、「道後サイダー」など、多彩な商品を展開しています。

酒蔵見学・ビール工場見学も実施しています。11月から4月は酒蔵見学、5月から10月はビール工場見学が中心となり、会社の歴史や製造工程の説明、登録有形文化財の主屋案内、製品の試飲が含まれます。予約制(2名以上)で受け付けています。

周辺情報・道後エリアの楽しみ方

水口酒造は道後の文化観光の拠点として最適な立地にあります。石畳のにきたつの道を歩けば、重要文化財の道後温泉本館、万葉集をテーマにした砥部焼の壁画が美しい道後温泉別館「飛鳥乃温泉(あすかのゆ)」、活気ある道後ハイカラ通り商店街へすぐにアクセスできます。

水口酒造の直営店も周辺に充実しています。「道後一会(どうごいちえ)」は蔵元直売店&カフェバーとして、日本酒やビールの試飲・購入が楽しめます。蔵横の「にきたつ蔵部」では蔵元限定品を含むお土産やギフトを購入できます。道後温泉本館向かいの「道後麦酒館」では、ブルワリー直送の道後ビールと愛媛の味を堪能できます。

松山市内にはこの他にも松山城、正岡子規記念館、坊っちゃん列車が走る路面電車など、文学と歴史の香り漂う見どころが数多くあります。

Q&A

Q登録有形文化財の建物内部は見学できますか?
A酒蔵見学・ビール工場見学のプログラムに参加することで、主屋内部をご覧いただけます。11月〜4月は酒蔵見学、5月〜10月はビール工場見学が中心です。事前予約制(2名以上)で、会社の歴史紹介、文化財建物の案内、製品の試飲が含まれます。
Q外国語対応はありますか?
A見学ツアーは主に日本語での案内となりますが、海外からのお客様も歓迎しています。建築や製品は言語を問わずお楽しみいただけます。道後温泉の観光案内所では多言語でのサポートも受けられます。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A通年でお楽しみいただけます。冬季(11月〜4月)は日本酒の仕込み時期にあたり、酒蔵見学で伝統の酒造りを間近に感じられます。春は道後エリアの桜が美しく、秋には地元の秋祭りの神輿も見学できます。入口の暖簾は毎月色が変わるため、訪れるたびに新鮮な印象を楽しめます。
Qアクセス方法を教えてください。
A伊予鉄道「道後温泉駅」から徒歩約4分です。道後温泉駅を下車後、道後ハイカラ通り商店街を直進し、にきたつの道沿いに進んでください。松山市中心部からは伊予鉄道の路面電車で道後温泉駅(終点)までお越しいただけます。
Q見学をしなくても商品を購入できますか?
Aはい。直営店「にきたつ蔵部」や「道後一会」は予約不要でどなたでもご利用いただけます。日本酒、クラフトビール、焼酎、ジン、各種お土産品の購入が可能で、試飲も楽しめます。

基本情報

名称 水口酒造店舗兼主屋(みなくちしゅぞう てんぽけんおもや)
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)、平成28年(2016年)11月29日登録
建築年 大正6年(1917年)
構造 木造2階建て、トラス構造と和小屋の併用
創業 明治28年(1895年)、初代 水口大七郎
所在地 〒790-0848 愛媛県松山市道後喜多町975
アクセス 伊予鉄道「道後温泉駅」より徒歩約4分
営業時間 10:00〜17:00(本社は日曜・祝日休業、直営店は店舗により異なる)
公式サイト https://minakuchi-shuzo.jp/

参考文献

水口酒造店舗兼主屋 — 松山市公式ホームページ
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/kanko/kankoguide/rekishibunka/bunkazai/kunitouroku/toroku_minakuchi.html
水口酒造 公式サイト
https://minakuchi-shuzo.jp/
温泉のすぐそばにある酒蔵「水口酒造」— note
https://note.com/minakuchishuzo/n/ne9cc8f82e75f
日本最古の歌集「万葉集」にまつわるお酒とは? — note
https://note.com/minakuchishuzo/n/n6a5ad62cf440
水口酒造 — いよ観ネット
https://www.iyokannet.jp/spot/1980
愛媛・道後温泉唯一の地酒蔵 水口酒造 — Sake World
https://sakeworld.jp/sakebrewery/2407-ehime-minakuchi/
水口酒造 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E5%8F%A3%E9%85%92%E9%80%A0
万葉集と道後温泉 — 松山市公式ホームページ
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/kanko/kankoguide/kankomeisho/dogoonsen/rekishi/man-you.html

最終更新日: 2026.03.22