旧北陸線トンネル群とは

旧北陸線トンネル群は、福井県敦賀市から南条郡南越前町にかけて残る旧北陸本線敦賀―今庄間の鉄道遺構で、明治26年(1893年)から明治29年(1896年)にかけて築かれた11基のトンネルに暗渠とロックシェッドを加えた13基が、平成28年(2016年)に登録有形文化財となった。

トンネルはいずれも単線用の断面で、長さは鮒ヶ谷トンネルの64メートルが最も短く、山中トンネルの1,170メートルが最も長い。残る2基は、線路の下に谷水を通した罠山谷暗渠と、昭和28年(1953年)にプレストレストコンクリートで造られた落石よけの山中ロックシェッドである。13基はそろって平成28年2月25日に登録され、基準はいずれも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。

線路がはずされたあと、旧線跡は道路として使われるようになった。旧北陸線トンネル群は、見学のために囲われた遺構ではない。明治のトンネルが今も地域の生活道路の一部として車と人を通している、その現役ぶりが最大の特徴である。

木ノ芽の山地を越えた旧北陸線トンネル群の歴史

長浜と敦賀を結ぶ鉄道が開通したのち、北陸線は北へ延び、明治29年(1896年)に第一期区間の敦賀―福井間が開業した。なかでも敦賀―今庄間は越前と若狭を隔てる木ノ芽の山地を越える区間で、トンネルとスイッチバックが続く難所だった。文化庁の日本遺産ポータルに載るストーリーによれば、この区間ではおよそ30キロのあいだに12のトンネルを掘る必要があり、煉瓦も石もすべて手で積まれた。掘削中には洪水や土砂崩れに見舞われ、工夫は復旧のための資材を現場まで背負って運んだという。

開業後も、急な勾配は運転の重荷であり続けた。重い列車は後ろから押す補助の機関車をつないで峠を越え、その付け外しのために敦賀駅と今庄駅ではすべての列車が停車した。山中トンネルの今庄側には、大正8年(1919年)にスイッチバック式の山中信号所が設けられている。

のちに山の下を貫く長大な北陸トンネルが開通すると、この旧線は役目を終え、線路跡は道路に転じた。旧北陸線トンネル群は平成26年(2014年)に土木学会の選奨土木遺産に選ばれ、平成28年(2016年)には13基が登録有形文化財に登録された。長浜市・敦賀市・南越前町の鉄道遺産をつなぐ日本遺産「海を越えた鉄道~世界へつながる 鉄路のキセキ~」の構成文化財にも含まれている。

敦賀から今庄へ、旧北陸線トンネル群の並び

旧北陸線トンネル群を敦賀側からたどると、最初に現れるのが敦賀駅の北東約3.7キロにある樫曲トンネルである。そこから北へ約6キロ離れて葉原トンネルがあり、さらに約1.1キロ先に鮒ヶ谷トンネル、その約200メートル先に曽路地谷トンネルが続く。

曽路地谷トンネルから約1.3キロ進むと罠山谷暗渠があり、その先で間隔が一気に詰まる。約400メートル北の第一観音寺トンネルを皮切りに、第二観音寺(約80メートル先)、曲谷(約50メートル先)、芦谷(約100メートル先)、伊良谷(約90メートル先)、山中(約90メートル先)の各トンネルが、短い明かり区間をはさんでほとんど途切れずに並ぶ。峠越えでトンネルが最も密集する区間である。

山中トンネルの約1キロ北東に山中ロックシェッドがあり、旧北陸線トンネル群の北の端は今庄駅の北約1.6キロに口を開ける湯尾トンネルである。13基の多くは敦賀市にあり、山中トンネルが敦賀市と南越前町の境をまたぎ、ロックシェッドと湯尾トンネルは南越前町に属する。

煉瓦と石、旧北陸線トンネル群の造り分け

旧北陸線トンネル群の価値の一つは、同じ時期に同じ区間で築かれながら、トンネルごとに造り方が違う点にある。敦賀市が日本遺産のためにまとめた解説は、坑門や内壁にさまざまな工法が見られるとし、近代の土木技術が自立し、規格化へ向かう途中の姿をよく示していると述べる。

いちばん分かりやすい違いは材料である。樫曲・伊良谷・山中の各トンネルは坑門まで煉瓦で積んでおり、石積みを多く使うこの区間のなかでは特別な意匠とされる。一方、曽路地谷・鮒ヶ谷・第一観音寺などのトンネルは側壁や坑門を石で築き、アーチだけを煉瓦にしている。側壁まで煉瓦のトンネルでは、壁をイギリス積み、アーチを長手積みとするのが基本になっている。

請け負った者もさまざまだった。樫曲トンネルは工部大学校で土木を学んだ太田六郎、芦谷トンネルは地元北陸の業者による共同企業体が手がけ、難工事となった伊良谷トンネルは最後に鹿島組が直接施工したとされる。坑門の前で石の仕上げや煉瓦の目地を見比べていくと、旧北陸線トンネル群が一つの設計事務所の作品ではなく、多くの手で積み上げられたものだと分かってくる。

旧北陸線トンネル群の訪ね方と通行の注意

旧線跡は今は生活道路で、車でも徒歩でも通行できる。拝観料や受付はなく、トンネルは道路の一部として通り抜ける形になる。現在の基準からすると幅は狭く、坑内は暗い。単線幅のため、坑口の信号で片側ずつ交互に通すトンネルもあるので、車は前照灯をつけ、信号と表示に従って進みたい。専用の駐車場はない。

車の場合、港都つるが観光協会の案内では、北陸自動車道の敦賀インターチェンジから樫曲トンネルまで約10分、葉原トンネルまで約20分である。同会は北陸自動車道の杉津パーキングエリアまでの目安として、敦賀インターから一般道で約30分、高速道路を福井方面へ使えば約10分とも示している。杉津付近では、日本海と敦賀湾を見下ろす眺めが開ける。

公共交通では、JR敦賀駅から敦賀市コミュニティバス東郷線で「樫曲」停留所まで12〜24分ほど乗り、そこから樫曲トンネルまで歩いて約5分である。葉原トンネルへは「葉原」停留所から歩いて約25分かかる。東郷線は事前の予約が必要である。タクシーなら敦賀駅から樫曲トンネルまで約10分、葉原トンネルまで約20分が目安となる。

敦賀市は、旧北陸線トンネル群の周辺で熊の目撃情報があったとして、通行の際の注意を呼びかけている。また長浜市・敦賀市・南越前町の観光連携協議会は、各トンネルの写真と解説を載せた「トンネルカード」を、敦賀駅の交流施設や今庄駅のお土産販売所などで数量限定で配っている。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧北陸線樫曲トンネル」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010951
文化庁 国指定文化財等データベース「旧北陸線山中ロックシェッド」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010962
文化庁 国指定文化財等データベース「旧北陸線湯尾トンネル」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010963
日本遺産ポータルサイト「海を越えた鉄道~世界へつながる 鉄路のキセキ~」
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/stories/story090/
日本遺産ポータルサイト 構成文化財「樫曲トンネル」
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/4961/
土木学会 選奨土木遺産「旧北陸本線トンネル群」
https://committees.jsce.or.jp/heritage/node/834
敦賀市「国・県指定文化財一覧」
https://www.city.tsuruga.lg.jp/page/4435.html
敦賀市「旧北陸線トンネル群」のトンネルカードを配布しています
https://www.city.tsuruga.lg.jp/page/3635.html
港都つるが観光協会「旧北陸線トンネル群」
https://tsuruga-kanko.jp/spot/history_culture/hokuriku-line-tunnel/
ふくいドットコム「旧北陸線トンネル群」
https://www.fuku-e.com/spot/detail_1640.html

最終更新日: 2026.10.07

基本情報

名称旧北陸線トンネル群
所在地福井県敦賀市・南条郡南越前町(旧北陸線跡)
所有者福井県・敦賀市・南越前町
指定登録有形文化財 13件
座標35.74172, 136.11947