北国街道板取宿に残る文政6年の旅籠
旧増尾家住宅主屋は、福井県南条郡南越前町板取にある江戸時代後期の民家で、文政6年(1823年)の建築とされ、平成28年(2016年)8月1日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
もとは旅籠である。参勤交代の大名が泊まる本陣ではなく、徒歩で峠を越える一般の旅人を泊めた宿だった。家の前を通るのが北国街道で、越前から栃ノ木峠を越えて近江国、いまの滋賀県へ抜け、京へ向かう道である。
文化庁の国指定文化財等データベースは、この建物を1棟、木造2階建、茅葺、建築面積111平方メートルと記録する。種別の欄には「産業3次」とあり、住まいである以前に商いの場だったことが、そっけない分類語のなかに残っている。
板取は、平地の大きな宿場である今庄からおよそ10キロ登った位置にあり、そこからさらに5キロほどで栃ノ木峠に達する。天正6年(1578年)、柴田勝家が織田信長の安土城への道のりを短縮するため街道を改修し、人と馬の往来が増えた。初代福井藩主の結城秀康は板取に関所を置き、のちには藩士が駐在する口留番所となる。
増尾家は屋号を「米屋」といい、当主が村役人を務めたとも伝わる。江戸後期の板取には50戸を超える家があり、そのうち7戸が旅籠だったという記録が残る。いま茅葺屋根の家は4棟である。
兜造という屋根と、登録の理由
登録は第84回の登録分にあたり、登録番号は18-0157。適用された登録基準は「造形の規範となっているもの」である。
屋根は兜造。入母屋屋根の正面側の軒を切り上げた形で、玄関の上に大きな三角形の妻壁が立ち上がる。ここに開口を取れば、二階に光と風が入る。中部の豪雪地帯の民家が、養蚕や物置に使う二階を換気するために選んだ形である。増尾家の場合は妻側に入口があり、いわゆる妻入なので、兜が街道をまっすぐ向いて見える。
内部の間取りは、農家ではなく宿のそれだ。正面側に土間のニワが通り、その奥の床上部が二列に分かれる。街道側の列はクチノマ、ナカノマ、オクノマの三室が並び、奥の列はダイドコと仏間になる。客は手前の列を進み、家の者は奥の列で暮らした。
街道に向いた兜屋根と、土間の奥に三室を連ねた客座敷。この二つが揃っていることが、登録の理由として挙げられている。福井県内に茅葺民家は他にもある。ただ、北国街道の旅籠がどう組み立てられていたかを、いまも見せてくれる建物はごく少ない。
雪はこの建物の造りの多くを説明する。今庄地区では平成23年(2011年)に積雪244センチを記録したと伝えられる。壁の下部には冬ごとに横板が張られ、雪の重みを受けるが、雪の多い年にはその板ごと埋もれてしまう。
板取を歩く
見学は外観からになる。内部の定期公開は行われていない。板取の茅葺民家には管理人が置かれ、実際に暮らしている方もいるので、ここで求められるのは観光地の作法というより、よその集落を訪ねるときの作法である。石畳の道を外れない。声を落とす。カメラは建物へ向け、庭先や窓には向けない。道から外観を撮ることについて制限は設けられていない。
観光情報では板取宿の見学の目安として9時から17時が示されており、見学者用の駐車場もある。建物についての問い合わせ先は南越前町教育委員会(0778-47-8005)。
車なら北陸自動車道の今庄インターチェンジから約20分。鉄道の最寄りは今庄駅だが、2024年3月16日以降、この駅はJR西日本ではなくハピラインふくいの管轄である。北陸新幹線が敦賀まで延伸した際、旧北陸本線の敦賀・大聖寺間が第三セクターに移管されたためで、駅名は変わっていないので案内表示に戸惑うことはない。駅から板取まではさらに10キロほどあり、車かタクシーが要る。
季節を選べるなら秋がいい。集落全体が坂になっていて、雨水や雪解け水は石畳の脇の水路を勢いよく下っていく。水路の一部は各戸の敷地にも引き込まれている。真冬は栃ノ木峠へ向かう道の状態が読みにくく、県内でも屈指の雪の深い集落になる。
地図を検索するときの注意をひとつ。この板取は福井県である。同じ漢字を書く板取が岐阜県関市にもあり、混同されやすい。福井の板取へは今庄から入る。
Q&A
- 旧増尾家住宅主屋の内部は見学できますか?
- 内部の定期公開は行われていません。見学は板取宿の石畳の道からの外観に限られます。所有は南越前町で、問い合わせは南越前町教育委員会(0778-47-8005)が窓口です。
- 旧増尾家住宅主屋はいつ建てられ、いつ登録されたのですか?
- 文化庁の記録では文政6年(1823年)の建築です。登録有形文化財(建造物)への登録は平成28年(2016年)8月1日、登録番号は18-0157です。
- 旧増尾家住宅主屋の「兜造」とはどのような形ですか?
- 入母屋屋根の正面側の軒を切り上げ、玄関の上に妻壁の三角形を立ち上げた茅葺屋根の形式です。輪郭が武士の兜に似ることからこう呼ばれます。二階に光と風を通す実用的な工夫でもあります。
- 旧増尾家住宅主屋のある板取宿へはどう行けばよいですか?
- 北陸自動車道の今庄インターチェンジから車で約20分です。最寄り駅は今庄駅ですが、2024年3月からハピラインふくいの駅になっています。駅からは約10キロあり、車かタクシーを使ってください。
- 旧増尾家住宅主屋は板取宿で唯一の登録有形文化財ですか?
- 公開資料で確認できる限り、板取宿で単独の登録をもつ建物はこの主屋だけです。集落に残る他の茅葺民家は、国の登録ではなく「ふくいの伝統的民家」など県の枠組みで扱われていると説明されています。
基本情報
| 名称 | 旧増尾家住宅主屋(きゅうますおけじゅうたくしゅおく) |
|---|---|
| 所在地 | 福井県南条郡南越前町板取35-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号18-0157 登録基準「造形の規範となっているもの」 |
| 指定年 | 平成28年(2016年)8月1日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、茅葺、建築面積111平方メートル/文政6年(1823年)建築 |
| 所有者 | 南越前町 |
| 公開状況 | 外観のみ見学可。内部の定期公開なし。見学者用駐車場あり。問い合わせ:南越前町教育委員会 0778-47-8005 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース — 旧増尾家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00011126
- 南越前町観光情報サイト — 板取宿
- https://www.minamiechizen.com/spot/19085/
- ふくいドットコム(福井県観光公式サイト) — 板取宿
- https://www.fuku-e.com/spot/detail_1125.html
- 福いろ(福井市公式観光サイト) — 板取宿
- https://fuku-iro.jp/spot/detail_11288.html
最終更新日: 2026.08.24