名にそぐわぬ重厚なつくり

「炭部屋」という名からは、小さく簡素な建物を思い浮かべるかもしれない。しかし主屋の北西方に離れて建つこの一棟は、そうした予想とは異なる。建築面積およそ六十八平方メートル、一階に三室、二階に居室を備えた堂々たる二階建で、外壁は漆喰塗、二階には虫籠窓を設ける。西側では米蔵と接し、付属棟が密に寄り集まる一画を成している。

いずれも福岡県うきは市浮羽町山北の楠森河北家住宅に属する。河北家が代々土地を有してきた地である。建築は万延二年(一八六一)頃、江戸時代の末に近い時期にあたり、平成十六年(二〇〇四)に国の登録有形文化財となった屋敷内八棟の一つに数えられる。

登録の理由と価値

屋根は東西棟の切妻造、桟瓦葺で、南面には戸口二箇所を設け、下屋庇をつける。腰は縦板張として下部を守り、二階は漆喰塗の壁面に虫籠窓を残す。付属施設と位置づけられながら、これだけ丁寧で厚みのある仕事がなされている点こそ、注目を集めた理由である。

登録の基準は「造形の規範となっているもの」である。素朴な名称と重厚な構造との一見した食い違いそのものが、多くを教えてくれる。大きな農家にあって、蔵・炭・秤・薪などの名をもつ建物は付け足しではなく、堅固に建てられ、ここでは居住の場をも兼ねていた。

見どころ

下から上へと建物を読みたい。板張の腰、漆喰の壁、二階の虫籠窓は、それぞれ風雨・防犯・通風という実用の要請に応えており、その積み重ねが外観に層をなした表情を与えている。炭部屋が西で米蔵に接する様子は、屋敷が働く建物を離して置かず、裏庭に連なる一群としてまとめた構成をよく示す。

屋敷は私邸であり定期的な公開はないため、炭部屋は単独の見どころというより、残された全体の一要素として味わうのがよい。この一帯を訪れる人は外観を眺め、周囲の谷あいで時を過ごす。清水湧水や、水路に舞う初夏の蛍が、ゆっくりとした歩みに応えてくれる。

Q&A

Q本当に炭のために使われたのですか。
A名称は用途の一つを伝えていますが、実際は一階三室・二階居室を備えた堂々たる二階建で、収納にとどまらず家の暮らしを支える建物でした。
Q二階の格子窓は何ですか。
A虫籠窓と呼ばれる格子状の窓で、古い蔵や町家に見られます。採光と通風を得ながら防犯にも役立ちます。
Qいつ頃の建物ですか。
A万延二年(一八六一)頃、江戸時代の末に近い時期の建築です。
Q屋敷は公開されていますか。
A私邸のため定期的な一般公開はありません。外観見学は事前にうきは市教育委員会へ相談してください。

基本情報

名称楠森河北家住宅炭部屋
所在地福岡県うきは市浮羽町山北2056
指定区分登録有形文化財(建造物)
登録年月日2004年3月2日(告示3月29日)/第41回/登録番号 40-0036
登録基準造形の規範となっているもの
員数1棟
構造及び形式土蔵造2階建、瓦葺、建築面積68㎡
年代江戸時代(万延2年/1861頃)
公開状況一般公開なし(うきは市教育委員会へ要問合せ)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース — 楠森河北家住宅炭部屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004086
文化遺産オンライン — 楠森河北家住宅炭部屋
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/180306
うきは観光サイト UKIHA love — 楠森河北家住宅
https://ukihalove.jp/contents/kawakitamichiakiseika/
うきは市 — 楠森河北家住宅(国の登録有形文化財)
https://www.city.ukiha.fukuoka.jp/kiji0035114/index.html

最終更新日: 2026.07.04