荒川砂防堰堤群とは
荒川砂防堰堤群は、福島県福島市を流れる荒川の流域に大正14年(1925年)から昭和32年(1957年)にかけて築かれた砂防施設のうち、平成20年(2008年)に国の登録有形文化財(建造物)に登録された15基をまとめた呼び名である。福島県は「荒川砂防堰堤群(土木遺産)」の名で紹介しており、福島市の文化財一覧では各基の所有者を国土交通省としている。
15基の内訳は、荒川本川の荒川第一・第二・第三・第五・第六・第七・第八堰堤、荒川第四床固工、地蔵原堰堤、川上第一堰堤の10基と、支川の塩の川第一・第四堰堤、東鴉川第一・第三・第四堰堤の5基である。床固工1基を除く14基が砂防堰堤で、いずれも重力式コンクリート造の堤体の表面を石積で仕上げている。
登録は2回に分かれる。平成20年(2008年)3月7日に地蔵原堰堤と荒川本川の8基(登録番号07-0084〜0092)、同年7月8日に荒川第四床固工と支川の5基(07-0102〜0107)が登録された。15基とも登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。
暴れ川と荒川砂防堰堤群の始まり
国土交通省福島河川国道事務所によれば、荒川は東吾妻山(標高1,975メートル)、一切経山(標高1,949メートル)、鉄山(標高1,710メートル)などを水源とし、丘陵を深く削りながら西鴉川・東鴉川・塩の川などの支川を集めて地蔵原堰堤に至る。そこから下流は半径約8キロメートルの扇状地を流れ、福島市街の南で阿武隈川に注ぐ。川の長さは26.6キロメートル、流域面積は178.1平方キロメートルである。
福島県はこの川を名前どおりの「暴れ川」で、全国でも有数の急流河川と紹介している。砂防工事の始まりは明治33年(1900年)で、福島県が荒川流域で山腹工に着手した。県の工事は明治・大正・昭和と続いたが、大雨のたびに大量の土砂が流れ出して川が埋まり、氾濫が繰り返された。
群のなかで最も古い地蔵原堰堤は、大正10年(1921年)に着工し、大正14年(1925年)に完成した。文化庁の解説は、阿武隈川改修工事の一環として最初に建設された基幹の堰堤と位置づける。その後も改築と補強が重ねられ、福島県によれば昭和28年(1953年)にほぼ現在の姿になった。
転機は昭和11年(1936年)で、荒川流域が国の直轄砂防の施工区域に入り、翌昭和12年(1937年)に荒川第一堰堤が完成した。昭和13年(1938年)には東鴉川で土石流が起き、支川にも堰堤が築かれていく。福島県は、荒川の治水・砂防の枠組みが昭和20年(1945年)までにほぼ出来上がったと説明している。堰堤の建設は戦後も続き、15基のうち最も新しい東鴉川第四堰堤は昭和32年(1957年)の完成である。
荒川砂防堰堤群の15基の並び
番号は造られた順に近いが、川の上での順序とは一致しない。文化庁の解説に記された位置関係に従い、荒川本川を下流から上流へ並べると次のようになる。括弧内は文化庁のデータベースに載る築造年と規模である。
- 荒川第四床固工:昭和29年(1954年)、長さ184メートル、高さ2.7メートル。福島市上名倉の中流域にあり、15基のなかで最も下流
- 地蔵原堰堤:大正14年(1925年)、昭和28年(1953年)改修、堤長74メートル、堤高8.7メートル。扇状地の扇頂部に立つ
- 荒川第五堰堤:昭和29年(1954年)、昭和48年(1973年)増設、堤長150メートル、堤高12メートル。塩の川との合流点の下手
- 荒川第一堰堤:昭和12年(1937年)、堤長57メートル、堤高10メートル。第五の約300メートル上流
- 荒川第六堰堤:昭和25年(1950年)、堤長54メートル、堤高12メートル。第一の約900メートル上流
- 荒川第二堰堤:昭和13年(1938年)、昭和16年(1941年)増設、堤長54メートル、堤高13メートル。第六の約1,600メートル上流で、土湯温泉の上手
- 川上第一堰堤:昭和21年(1946年)、堤長70メートル、堤高9.0メートル。第二の約570メートル上流
- 荒川第七堰堤:昭和26年(1951年)、堤長69メートル、堤高12メートル。川上第一の約200メートル上流
- 荒川第八堰堤:昭和27年(1952年)、堤長60メートル、堤高12メートル。第七の約400メートル上流
- 荒川第三堰堤:昭和15年(1940年)、堤長47メートル、堤高15メートル。第八の約1,200メートル上流で、本川の最上流
支川では、左岸から合流する塩の川に、合流点近くの塩の川第四堰堤(昭和31年・1956年)と、その約1キロメートル上流の塩の川第一堰堤(昭和29年・1954年)がある。右岸から合流する東鴉川には、土湯温泉の街なかに東鴉川第一堰堤(昭和23年・1948年)、その475メートル上流に東鴉川第三堰堤(昭和26年・1951年)、さらに3.2キロメートル上流に東鴉川第四堰堤(昭和32年・1957年)が並ぶ。
文化庁の解説に記された間隔を足すと、本川の第五堰堤から第三堰堤まではおよそ5.2キロメートルになる。下流では堤長150メートルの第五堰堤が広い谷を横切り、上流へ行くほど谷が狭まって、第三堰堤では堤長47メートルに対し堤高15メートルという背の高い形になる。
荒川砂防堰堤群に共通する造りと評価
荒川砂防堰堤群の堰堤は、重力式コンクリート造の堤体の表面に石を積んで仕上げている。文化庁の解説を見ると、上流面の法勾配を4.5分、下流面を2分とするものが多い。高さ1に対して水平に0.45、0.2だけ傾ける勾配で、下流面はほぼ垂直に近い。石の積み方は1基ごとに異なり、横目地が通る布積、石を斜めに組む谷積、丸い川石を使う玉石積が使い分けられている。
細部の工夫も堰堤ごとに違う。荒川第五堰堤と荒川第四床固工では、石が抜け落ちないよう天端の下流側の角石を流れに対して斜めに積んでおり、文化庁は珍しい造りと記している。荒川第七堰堤には名称・事業主体・建設年を刻んだ銘板がはめ込まれ、川上第一堰堤は戦中から戦後にかけて工事が続いた荒川で唯一の堰堤とされる。各基の造りと見どころは、それぞれのページで扱っている。
土木学会は平成19年(2007年)、霞堤と水防林による近世からの治水と、大正・昭和の直轄事業による砂防堰堤群などが一体となって働く仕組みを評価し、「荒川流域治水・砂防事業」を選奨土木遺産に認定した。翌年の文化財登録はこれに続くもので、15基はいずれも砂防施設として今も使われている。国土交通省によれば、平成16年(2004年)末までに荒川本川・東鴉川・塩の川で計30基の砂防堰堤が完成しており、登録された15基はそのうち古い世代にあたる。
荒川砂防堰堤群の見学とアクセス
荒川砂防堰堤群は屋外の防災施設で、見学の受付や見学料はない。現役の施設のため、見学は周辺から外観を眺める形になり、堤体に登ることはできない。福島県は、施設によって異なるものの往復2時間以上のウォーキング、または軽登山としての見学になると案内している。荒川沿いを歩いて砂防施設をめぐる体験ツアーも用意されている。
起点にしやすいのは、地蔵原堰堤の近くにある福島市の荒川資料室(福島市荒井字地蔵原乙1番地の21)である。荒川の河川・砂防事業を写真やパネル、水系の立体模型で紹介する施設で、開館は午前10時から午後4時まで、休館は12月29日から1月3日まで、入館は無料である。駐車場は約30台分ある。
公共交通で行く場合は、JR福島駅東口から福島交通バスの「土湯温泉」行きに乗り、約30分の「自治研修センター」で降りて徒歩約10分で荒川資料室に着く。荒川本川上流の堰堤群や東鴉川の堰堤は、同じ路線の終点・土湯温泉が最寄りになる。車では東北自動車道の福島西インターチェンジから約20分である。
雨の後は谷の水かさが急に増すので、河原や川岸には近づかないようにしたい。上流の堰堤ほど道が細く、山道を歩く装備が必要になる。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)地蔵原堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006772
- 国指定文化財等データベース(文化庁)荒川第五堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006773
- 国指定文化財等データベース(文化庁)荒川第一堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006774
- 国指定文化財等データベース(文化庁)荒川第六堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006775
- 国指定文化財等データベース(文化庁)荒川第二堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006776
- 国指定文化財等データベース(文化庁)川上第一堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006777
- 国指定文化財等データベース(文化庁)荒川第七堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006778
- 国指定文化財等データベース(文化庁)荒川第八堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006779
- 国指定文化財等データベース(文化庁)荒川第三堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006780
- 国指定文化財等データベース(文化庁)荒川第四床固工
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007171
- 国指定文化財等データベース(文化庁)塩の川第四堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007172
- 国指定文化財等データベース(文化庁)塩の川第一堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007173
- 国指定文化財等データベース(文化庁)東鴉川第一堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007174
- 国指定文化財等データベース(文化庁)東鴉川第三堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007175
- 国指定文化財等データベース(文化庁)東鴉川第四堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007176
- 国土交通省東北地方整備局福島河川国道事務所 荒川流域の砂防事業
- https://www.thr.mlit.go.jp/fukushima/sabo/100/110.html
- 国土交通省東北地方整備局福島河川国道事務所 業務概要(2025年版)
- https://www.thr.mlit.go.jp/fukushima/panf/pdf/2025gyoumugaiyou.pdf
- ふくしまインフラツーリズム(福島県)荒川砂防堰堤群(土木遺産)
- https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/infra/arakawa.html
- 福島市 荒川資料室
- https://www.city.fukushima.fukushima.jp/shisetsu/kanko/2051.html
- 福島市の文化財 【国登録】地蔵原堰堤
- https://www.city.fukushima.fukushima.jp/kanko-bunka-sports/rekishi-bunkazai/1/4/11516.html
- 土木学会選奨土木遺産 荒川流域治水・砂防事業
- https://committees.jsce.or.jp/heritage/node/58
最終更新日: 2026.10.02
基本情報
| 名称 | 荒川砂防堰堤群 |
|---|---|
| 所在地 | 福島県福島市土湯温泉町ほか |
| 所有者 | 国土交通省 |
| 指定 | 登録有形文化財 15件 |
| 座標 | 37.68618, 140.32846 |