旧須田歯科医院:飛騨高山に残る大正期洋風建築の貴重な遺構
岐阜県高山市桜町、江名子川の右岸に静かにたたずむ旧須田歯科医院は、大正時代(1919〜1926年)に建てられた木造2階建ての医院兼住宅です。伝統的な町家建築が連なる飛騨高山の街並みの中で、大正期の洋風建築への志向を今に伝える希少な建造物として、2021年(令和3年)に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。
歴史的背景
大正時代(1912〜1926年)は、日本が急速に近代化を遂げた時代です。西洋の建築様式や医療技術、生活文化が地方都市にまで浸透し、医師や歯科医師などの専門職は、その進歩性を示すかのように洋風の建物を構えるようになりました。江戸時代からの商家建築が立ち並ぶ高山も例外ではなく、大正期には洋風の意匠を取り入れた建物がいくつか建てられました。
旧須田歯科医院は大正後期に建築され、昭和20年代頃まで歯科医院兼住宅として使用されていました。約100年の歳月を経た現在も、建物はほぼ当時の姿を保っており、伝統的な町家が並ぶ高山の街並みの中で、大正期の洋風建築を伝える貴重な存在となっています。
2021年(令和3年)7月16日に文化審議会が文部科学大臣に答申し、同年10月14日に国の登録有形文化財に登録されました。また、高山市の景観重要建造物にも指定されており、歴史的景観の保全に寄与しています。
文化財指定の理由
旧須田歯科医院が登録有形文化財に登録された主な理由は、和風の町家が連なる高山の市街地にあって、大正期の洋風志向を示す数少ない建造物であるという点にあります。1階を洋風、2階を和風とする和洋折衷の構成は、大正時代の文化的な過渡期を如実に反映しており、建築史的にも貴重な資料です。
下見板張の外壁、縦長の両開き窓、寄棟造の屋根といった洋風建築の要素が良好に保存されていること、そして周囲の伝統的街並みとの対比がこの建物の歴史的価値を一層際立たせています。
建築の見どころ
旧須田歯科医院は、木造2階建て、寄棟造平入、鉄板葺の建築で、建築面積は約61平方メートルです。道路からやや後退して東面し、東面中央に玄関を張り出しています。
外壁は下見板張(したみいたばり)と呼ばれる横板を重ねて張る洋風の外壁仕上げで、高山の伝統的な漆喰壁や格子戸とは一線を画しています。南面と東面には、縦長の両開き窓が設けられ、歯科診療に必要な採光を確保しながら、建物に洋風のリズムを与えています。
最大の特徴は、1階と2階の様式の違いです。歯科医院として使用された1階は洋風に設えられ、近代的な医療空間としての機能を担いました。一方、家族の居住空間であった2階は和風の造りとなっており、畳敷きの部屋が設けられています。この「下洋上和」の構成は、西洋の専門性と日本の生活様式が共存した大正時代の文化的特質を見事に体現しています。
訪問案内
旧須田歯科医院は、高山市桜町の江名子川右岸に位置しています。現在は株式会社結高山が所有する民間の建物であるため、内部の見学はできない場合がありますが、特徴的な洋風の外観は通りや江名子川遊歩道から鑑賞することができます。
JR高山駅から徒歩約15分で到着します。古い町並みを抜けて南方面へ進み、江名子川方面へ向かうルートがおすすめです。近くの市営弥生橋駐車場(有料)を利用できます。
周辺の見どころ
建物のすぐそばを流れる江名子川は、かつて高山城の堀の役割を果たした歴史ある水路です。川沿いには朱塗りの桜橋、石造りの日影橋、木造の助六橋など19もの橋が架かり、風情ある散策路として人気があります。春には桜が川面に映え、秋にはライトアップイベントが開催されます。
周辺には、三町筋(さんまちすじ)の伝統的な町並み、国指定重要文化財の日下部民藝館や吉島家住宅、高山祭屋台会館、宮川朝市など、飛騨高山を代表する観光スポットが徒歩圏内に集まっています。また、同じく登録有形文化財である旧村上歯科医院(中町カーサ)や旧山岸写真館など、大正〜昭和初期の洋風建築を巡る散策も楽しめます。
Q&A
- 旧須田歯科医院はいつ建てられましたか?
- 大正後期(1919〜1926年)に建てられました。昭和20年代頃まで歯科医院兼住宅として使用されていました。
- 建物の内部を見学することはできますか?
- 現在は民間企業(株式会社結高山)が所有しているため、一般公開は行われていない場合があります。外観は通りや江名子川遊歩道から自由に鑑賞できます。
- この建物の建築的な特徴は何ですか?
- 1階が洋風、2階が和風という和洋折衷の構成が最大の特徴です。下見板張の外壁、縦長の両開き窓、寄棟造の屋根など、大正期の洋風建築の意匠が良好に残されています。
- 最寄り駅からのアクセスは?
- JR高山駅から徒歩約15分です。古い町並みを通り、江名子川方面へ向かいます。近くに市営弥生橋駐車場(有料)があります。
- 周辺に他の文化財はありますか?
- 徒歩圏内に国指定重要文化財の日下部民藝館や吉島家住宅、登録有形文化財の旧村上歯科医院(中町カーサ)、旧山岸写真館など、多くの歴史的建造物があります。
基本情報
| 名称 | 旧須田歯科医院(きゅうすだしかいいん) |
|---|---|
| 文化財区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 令和3年(2021年)10月14日 |
| 建築年代 | 大正期(1919〜1926年) |
| 構造・規模 | 木造2階建、寄棟造、鉄板葺、建築面積61㎡ |
| 所在地 | 岐阜県高山市桜町98 |
| 所有者 | 株式会社結高山 |
| アクセス | JR高山駅から徒歩約15分 |
参考文献
- 文化遺産オンライン – 旧須田歯科医院
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/587193
- 国指定文化財等データベース – 旧須田歯科医院
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014013
- 中日新聞 – 県内2件が国登録文化財に 高山の旧歯科医院と大野の旧酒店(2021年)
- https://www.chunichi.co.jp/article/292457
- 高山市 – 景観重要建造物の指定について
- https://www.city.takayama.lg.jp/shisei/1000061/1005212/1004120.html
- 飛騨高山旅ガイド – 江名子川遊歩道
- https://www.hidatakayama.or.jp/spot/detail_1178.html
- 高山市文化財保存活用地域計画 資料編
- https://www.city.takayama.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/018/881/list.pdf
- 文化庁 – 登録有形文化財(建造物)
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html
最終更新日: 2026.04.07