矢筈積とは
矢筈積は、石やタイルを斜めに向き合わせ、矢羽根状の模様をつくって積む工法である。矢筈は矢の弦をかける部分で、その形に似ることからこの名がある。
石垣では、角の鋭い石を組み合わせて成立する。愛媛県の旧川之石浦庄屋二宮家住宅石塀は江戸末期の築造で、「町の中心部にある旧庄屋宅の外塀。大小様々な緑泥片石を鋭角で組み合わせ、全体として矢筈積に近い造りとする。旧敷地側で大規模な石を積み平石で頂部を整える一方、裏側では小規模な石をより不規則に積む。矢筈積が完成する前の石造技術を示している」と解説されている。
この記述で注目したいのは「矢筈積が完成する前の石造技術を示している」という評価である。矢筈積は技法として成立した時期があり、それ以前の段階を示す遺構として価値づけられている。
緑泥片石は薄く板状に割れる石で、鋭角に組み合わせやすい。材の性質が積み方を可能にしている。
近代建築のタイルにも
石に限らない。東京都の一橋大学旧門衛所は昭和6年の建築で、「外装はモルタル塗、腰スクラッチタイル矢筈積及び下見板張で、側面に鉄板葺の出窓を設けたフランス瓦葺ハーフティンバーの瀟洒な洋風建築」と解説されている。腰壁のスクラッチタイルを矢筈に張った例である。
石の積み方の名が、タイルの張り方にも転用されている。長手積やイギリス積が煉瓦の積み方を指すのと同じように、矢筈積は模様の名として材を越えて使われる。
現地では石やタイルの向きを見るとよい。左右で傾きが逆になり、V字が縦に連なる模様が見えれば矢筈積である。布積や乱積が水平方向の目地で見分けるのに対し、この積み方は斜めの向きで判別する。
参考文献
- 文化庁 文化財の紹介 登録有形文化財(建造物)
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html
- 国指定文化財等データベース(文化庁)旧川之石浦庄屋二宮家住宅石塀/大小様々な緑泥片石を鋭角で組み合わせ、全体として矢筈積に近い造りとする
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002697
- 国指定文化財等データベース(文化庁)一橋大学旧門衛所/外装はモルタル塗、腰スクラッチタイル矢筈積及び下見板張
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001766
- 国指定文化財等データベース(文化庁)篠山神社透塀/石積は江戸切仕上げ切石乱積みで築く
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014430
最終更新: 2026.09.10