庄屋屋敷を囲む33メートルの青石

旧川之石浦庄屋二宮家住宅石塀は、愛媛県八幡浜市保内町川之石にある江戸末期の石造の塀で、平成14年(2002年)2月14日に登録有形文化財に登録された。延長は33メートルあり、旧庄屋宅の外塀として町の中心部に残る。

庄屋は江戸時代の村役人で、年貢の徴収や村内の行政を担った。川之石浦の庄屋を務めた二宮家の屋敷を囲んでいたのがこの塀である。文化庁の国指定文化財等データベースは築造の年代を江戸末期、西暦では1830年から1867年の範囲とする。

使われている石は緑泥片岩で、この地方では青石と呼ばれる。八幡浜から佐田岬半島にかけて産出し、家の基礎や段畑の石垣にも広く用いられてきた材である。割れ口が平らになりやすく、薄く剥がれる性質を持つ。

矢筈積が完成する前の手つき

旧川之石浦庄屋二宮家住宅石塀が登録有形文化財となった際の登録基準は「再現することが容易でないもの」である。登録番号は38-0024、第32回の登録にあたる。造形の美しさではなく、いまでは作り直せない技術であることが評価された。

文化庁の記載によれば、大小さまざまな緑泥片石を鋭角に組み合わせ、全体として矢筈積に近い造りとする。矢筈積は石を斜めに傾けて交互に重ね、矢羽根のような模様を作る積み方で、保内では宮内川の護岸にも見られる。ただしこの塀は、その様式が完成する前の段階を示すものと位置づけられている。

表と裏で積み方が違うのも見どころである。旧敷地側では大きめの石を積み、頂部を平石で整える。一方、裏側は小さめの石をより不規則に重ねる。人目に触れる面とそうでない面で手間の配分を変えた結果が、そのまま残っている。

八幡浜市は、旧川之石庄屋跡に残る石垣を防火のために設けられたものとし、青石の自然石を鋭角に積む手法を今では見ることの少ない貴重なものと説明している。同市の記述では、敷地内の土蔵は文久2年(1862年)の建築で、3メートルを超える青石の灯籠と井戸も残る。

石の並びを追いながら歩く

塀の前に立って最初に気づくのは、石の大きさが揃っていないことである。整形した切石を積む塀とは成り立ちが違う。産地で採れた青石をそのまま、角度を合わせながら噛ませていく。目地はほとんど直線にならず、斜めに走る線が上下に折り返しながら続く。

33メートルという長さは、歩けば1分もかからない。それでも端から端まで見ていくと、石の傾きの向きが場所によって変わっているのが分かる。積み手が石ごとに角度を判断した痕跡である。

頂部に並ぶ平石の列は、雨水を切って塀の内部に水が入るのを防ぐ役割を持つ。この列があるかないかで、同じ石積みでも耐久性が変わる。

青石は乾いているときは灰緑色に見えるが、雨に濡れると緑がはっきり浮かぶ。曇りの日や雨上がりに訪れると、石の色が塀全体で揃って見える。

川之石は江戸後期から昭和初期にかけて、海運、鉱山、木蝋、蚕種、紡績で栄えた港町である。八幡浜市によれば、この庄屋屋敷の場所には明治20年(1887年)に宇和紡績の創立事務所が置かれた。江戸期の塀が近代産業の出発点と同じ敷地に立っていることになる。

見学方法とアクセス

旧川之石浦庄屋二宮家住宅石塀は個人の所有と見られ、文化庁のデータベースでも所有者名は空欄になっている。建物ではなく屋敷の外塀であるため、公道に面した部分は外から自由に眺められる。ただし敷地内は私有地であり、内部の公開は行われていない。門をくぐったり敷地に立ち入ったりすることはできない。

見学に料金はかからず、時間の制限もない。住宅地の中にあるので、早朝や夜間に長く滞在するのは避けたい。撮影を禁じる掲示は確認できないが、隣接する住居が写り込まないよう配慮したい。

公共交通ではJR予讃線の八幡浜駅が起点になる。駅前から伊予鉄南予バスの伊方町役場前行きに乗り、「保内庁舎前」で降りる。所要は約25分で、そこから塀までは徒歩10分ほどである。

塀の隣には川之石地区の交流拠点施設があり、周辺には町歩き用の駐車場も設けられている。車で訪れる場合はそちらを利用したい。

Q&A

Q旧川之石浦庄屋二宮家住宅石塀は見学できますか。料金はかかりますか。
A公道に面した部分を外から眺めることができ、料金はかかりません。ただし敷地は私有地で、内部は公開されていません。門の内側に立ち入ることはできないため、道路側からの見学に留めてください。
Q旧川之石浦庄屋二宮家住宅石塀へのアクセスと、最寄り駅からの所要時間を教えてください。
A最寄り駅はJR予讃線の八幡浜駅です。駅前から伊予鉄南予バスの伊方町役場前行きに乗り、約25分の「保内庁舎前」で下車。そこから徒歩10分ほどです。車の場合は周辺の町歩き用駐車場が利用できます。
Q旧川之石浦庄屋二宮家住宅石塀に使われている石は何ですか。
A緑泥片岩で、この地方では青石と呼ばれます。八幡浜から佐田岬半島にかけて産出し、家の基礎や段畑の石垣にも広く使われてきました。薄く剥がれる性質があり、斜めに積む技法に向いています。
Q旧川之石浦庄屋二宮家住宅石塀はなぜ文化財に登録されたのですか。
A登録基準は「再現することが容易でないもの」です。大小の青石を鋭角に組む積み方は矢筈積が完成する以前の段階を示すもので、現在では新たに造ることが難しい技術と評価されました。
Q旧川之石浦庄屋二宮家住宅石塀は撮影できますか。
A撮影を禁じる掲示は確認できません。ただし現に人が暮らす住宅地にあるため、隣接する住居や住民が写り込まないよう配慮し、公道から短時間で済ませてください。

基本情報

名称旧川之石浦庄屋二宮家住宅石塀
所在地愛媛県八幡浜市保内町川之石3番耕地10-1
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年平成14年(2002年)2月14日登録
員数1棟
寸法石造、延長33メートル
所有者個人(文化庁データベースの所有者名欄は空欄)
公開状況敷地内は非公開。公道から外観のみ見学可

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース ― 旧川之石浦庄屋二宮家住宅石塀
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002697
八幡浜市 ― 明治の町並み
https://www.city.yawatahama.ehime.jp/doc/2014091200025/
八幡浜市 教育委員会 文化振興課
https://cms.city.yawatahama.ehime.jp/soshiki/kyoikuiinkai/bunkashinkou/
八幡浜市 ― 交通機関案内
https://www.city.yawatahama.ehime.jp/doc/2020081800014/

最終更新日: 2026.09.05