地盤が一階分高いから二階建になった

愛媛蚕種株式会社第2蚕室は、愛媛県八幡浜市保内町川之石にある大正8年(1919年)建築の木造2階建蚕室で、平成11年(1999年)6月7日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。内陸へ向かって上がっていく敷地の、第1蚕室から北へ続く位置に建ち、現在も愛媛蚕種株式会社が所有し使用している。

階数の違いは設計の好みではなく、地形の結果である。文化庁の解説は理由を端的に記す。第1蚕室より一階分高い地盤に建つため、2階建になったと。建築面積は210平方メートルで第1蚕室とほぼ同一、屋根も同じく瓦葺である。境に立って見れば、高さの異なる2棟に納められた一連の作業床が、切れ目なく続いていることが分かる。

その2棟の間に、煉瓦造の防火壁が立ち上がる。生きた蚕を扱い、飼育期には室内を暖める必要のある木造の建物群にあって、この種の組積造の仕切りは合理的な備えだった。片方で火が出ても、もう片方と、そこに置かれた一年分の生産が同時に失われることはない。壁は屋根の稜線を断つ位置に見え、第1蚕室と第2蚕室の境界を最もはっきり示す目印になっている。

事業の拡張を記録した登録

登録番号は38-0006、第17回登録、告示は平成11年7月19日。他の2棟と同じく登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、種別は産業1次・建築物、員数1棟、木造2階建、瓦葺と記載される。

同じ敷地の3棟が同日に登録された。明治後期の事務室・玄関が38-0004、第1蚕室が38-0005、そしてこの第2蚕室が38-0006。坂に沿って並ぶこの順序が、そのまま拡張の記録になっている。明治17年(1884年)、町の呉服商であった兵頭寅一郎が「日進館」の名で蚕種製造に乗り出し、街路の角に洋風の事務室が構えられた。需要の伸びに応じて蚕室が北へ足されていく。敷地の紹介によれば、登録された3棟の奥にはさらに複数の蚕室が建てられたという。

文化庁の解説は、この建物について構造の記述にとどまらない。第1蚕室とともに東側の坂道沿いに独特の景観をつくること、そして地域の産業発展の過程を示すものとして貴重であることを挙げている。装飾の乏しい作業棟が国の登録に値する理由は、この一文に集約される。評価の軸は意匠ではなく、建物が地域経済について何を示しているかにある。

坂道から読む

東側の坂道を上がっていくと、2棟は煉瓦の仕切りで一度断たれる長い板の壁として現れ、勾配に合わせて段を上げていく。開口部には建築当時のガラスが残る箇所があり、歩きながら見ると映り込みが波打つ。愛媛県による登録群の解説も、3棟に共通する特徴として、和風の造作の内側に収まる洋式トラスと、ひずみを残したままのガラスを挙げている。

川之石という町そのものにも目を向けたい。ここは早くから、しかも複数の方向へ同時に工業化した港である。明治11年(1878年)に県内初の銀行が創業した。現在の伊予銀行の源流にあたる。明治20年(1887年)には四国最初の紡績会社である宇和紡績(のち東洋紡績)が設立され、明治22年の試運転では四国で初めて電灯が灯った。大峰鉱山の銅鉱石は沖合の佐島で精錬され、その鉱滓から緑がかったからみレンガが生まれ、今も町の塀や路地の縁に残る。蚕種会社はこの並びから外れた存在ではなく、同じ流れの中にある。

実際の訪問について。同社は営業中で建物も使用中であるため、内部の一般公開はなく、拝観料や見学時間の設定もない。できるのは路地と東側の坂道を歩くことで、外観と2棟の関係はそこから十分に見て取れる。公道からの撮影に問題はないが、敷地内に関わることは事前に確認したい。川之石3-11-1の交流拠点施設「みなせ」を拠点とする保内ボランティアガイドの会が、事前予約制で地区のまち歩きを案内している。

行き方は分かりやすい。JR予讃線八幡浜駅から保内方面のバスに乗り、保内庁舎前バス停下車、徒歩約10分。旧東洋紡績の赤レンガ倉庫、昭和8年(1933年)の美名瀬橋、登録有形文化財である昭和12年(1937年)の内之浦公会堂も徒歩圏に収まるので、半日をかけて地区を一巡する計画が立てやすい。

Q&A

Q愛媛蚕種株式会社第2蚕室はなぜ2階建なのですか。第1蚕室は3階建ですが。
A第1蚕室より一階分高い地盤に建っているためです。敷地が内陸へ上がっていくので、第2蚕室は高い位置から始まり、2層で隣の3階建と同じ作業床の高さに揃います。建築面積はどちらも210平方メートルです。
Q愛媛蚕種株式会社第2蚕室と第1蚕室は何で仕切られていますか。
A2棟の間に建ち上げられた煉瓦造の防火壁です。構造的に建物を分けるとともに、どこで一方が終わり他方が始まるかを外から示す継ぎ目にもなっています。
Q愛媛蚕種株式会社第2蚕室はいつ文化財に登録されましたか。
A登録年月日は平成11年(1999年)6月7日、告示は同年7月19日、登録番号は38-0006です。建築は大正8年(1919年)で、第17回の登録にあたります。
Q愛媛蚕種株式会社第2蚕室は見学できますか。
A内部は公開されていません。愛媛蚕種は現役の企業であり、見学制度や公開時間の設定はありません。外観は敷地東側の道路から見学・撮影できます。川之石地区のまち歩きは保内ボランティアガイドの会が事前予約で受け付けています。
Q愛媛蚕種株式会社第2蚕室の周辺には他に何がありますか。
A川之石地区には旧東洋紡績の赤レンガ倉庫、昭和8年の美名瀬橋、擬洋風建築の旧白石和太郎洋館、同じく登録有形文化財の内之浦公会堂(昭和12年)があります。その間の道沿いには、佐島の精錬所由来のからみレンガを積んだ塀が残ります。

基本情報

名称愛媛蚕種株式会社第2蚕室(えひめさんしゅかぶしきがいしゃだいにさんしつ)
所在地愛媛県八幡浜市保内町川之石3-70
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号38-0006
指定年平成11年(1999年)6月7日登録/同年7月19日告示(第17回登録)
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積210平方メートル
所有者愛媛蚕種株式会社
公開状況内部非公開。外観は東側の道路から見学可。地区のまち歩きは保内ボランティアガイドの会が事前予約制で対応。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 愛媛蚕種株式会社第2蚕室
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00001147
文化庁 国指定文化財等データベース 愛媛蚕種株式会社第1蚕室
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00001146
文化庁 国指定文化財等データベース 愛媛蚕種株式会社事務室・玄関
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00001145
保内町まちなみガイド 保内ボランティアガイドの会発足について
https://www.honaimachinami.com/volunteer-guide/
八幡浜市 明治の町並み
https://www.city.yawatahama.ehime.jp/doc/2014091200025/

最終更新日: 2026.08.04