上毛電気鉄道大胡駅受電鉄塔 ― 昭和初期の鉄道電力遺産が語る近代化の歩み
群馬県前橋市、赤城山の南麓を東西に走る上毛電気鉄道上毛線。その路線のほぼ中央に位置する大胡駅の構内に、ひときわ特徴的なシルエットを見せる鉄塔が立っています。1928年(昭和3年)の開業と同時に建設された「受電鉄塔」です。電力会社から送られてくる高圧電力を受け取るこの鉄塔は、約1世紀にわたり現役の姿を保ち続け、2007年(平成19年)に国の登録有形文化財に登録されました。
駅舎、電車庫、変電所、避雷鉄塔などとともに、大胡駅一帯は日本の初期電気鉄道インフラが一体となって残る極めて貴重な場所です。鉄道ファンはもちろん、近代産業遺産に関心のある方や、群馬県の知られざる文化財を訪ねてみたい方にとって、ここでしか味わえない魅力があります。
受電鉄塔とは
上毛電気鉄道大胡駅受電鉄塔は、変電所の南約40メートルに位置する鉄骨造の構造物で、高さは8.5メートルです。電力会社から送電される三相交流の高圧電力を受電する役割を担っています。北側には手動による回転碍子(がいし)が取り付けられており、断路器としての機能を果たしています。
この鉄塔の最も大きな特徴は、その独特の形状にあります。南北に配された2基の門形鉄塔を連結して「椅子形」と呼ばれる構造としており、他ではなかなか見ることのできないユニークなシルエットを生み出しています。重い電力設備と送電線を支えながら構造的安定性を確保するための、昭和初期の電気技術者たちの創意工夫が凝縮された設計です。
登録有形文化財に選ばれた理由
受電鉄塔は2007年(平成19年)7月31日、大胡駅構内の他の施設とともに国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その評価のポイントは複数あります。
第一に、1920年代後半に建設された電気鉄道の受電設備が、建設当時の形態をほぼそのまま保って現存していることは全国的に見ても極めて稀です。多くの類似施設は更新や撤去が進んでおり、開業時のオリジナルが残ること自体に大きな歴史的価値があります。第二に、2基の門形鉄塔を連結した椅子形の構造は独創的であり、建造物としての造形的価値が認められています。第三に、駅舎・電車庫・変電所・避雷鉄塔・中継鉄塔・引留鉄塔とともに、電気鉄道の運行に必要なインフラが一式そろった形で残っている点が、日本の鉄道遺産として類を見ない重要性を持っています。
大胡駅の登録有形文化財群
受電鉄塔は、大胡駅に集まる複数の登録有形文化財のひとつです。すべて1928年(昭和3年)の上毛線開業に合わせて建設されたもので、それぞれが鉄道運行に不可欠な役割を果たしてきました。
大胡駅駅舎は開業以来、乗降客を迎え続けてきた木造の駅舎です。大胡駅電車庫は下見板張り・キングポストトラス構造の矩形木造車庫で、桁行32メートル、梁間11メートルの規模を誇り、日本初期の電車庫遺構として貴重です。現在も開業時に製造されたデハ101号が動態保存されているほか、東急電鉄から譲渡された凸型電気機関車デキ3021号や東武鉄道で活躍した2軸貨車テ241号なども展示されています。大胡駅変電所は受電した交流電力を直流に変換して電車の運行に供給する施設です。そのほか、避雷鉄塔・中継鉄塔・引留鉄塔がそれぞれ電力供給システムの一端を担っています。
これらの施設群は、群馬県近代化遺産にも登録されており、2016年には「上毛電気鉄道関連施設群」として土木学会選奨土木遺産にも選定されています。
上毛電気鉄道の歴史
上毛電気鉄道株式会社は1926年(大正15年)に設立され、1928年(昭和3年)11月10日、昭和天皇の即位御大典に合わせて中央前橋〜西桐生間25.4キロメートルの全線が一斉に開業しました。着工からわずか約9ヶ月という驚異的なスピードでの建設でした。
赤城山南麓の養蚕地帯と前橋・桐生の主要都市を結ぶことを目的として計画され、当初から1,500ボルトの高圧直流電化を採用するなど、地方鉄道としては先進的な仕様が取り入れられました。大胡を起点に伊勢崎を経て本庄までの延伸計画もありましたが、資金難により実現しませんでした。
現在は東武鉄道の連結子会社として運営されており、赤城駅で東武特急「りょうもう」と接続しています。元京王井の頭線3000系や東京メトロ03系といった譲渡車両が活躍する姿は、鉄道ファンにとっても大きな魅力です。
見学のご案内
大胡電車庫は予約制で見学が可能です。通常13時〜15時の間、約30分の案内付きツアーが実施されています(業務の都合により実施できない場合もあります)。見学では、歴史ある木造車庫の内部、ベルト駆動式の工作機械が並ぶ工作室、動態保存されているデハ101号やデハ104号の車内、屋外に展示されている電気機関車や貨車、さらに鉄道部品が展示された資料館などを巡ることができます。入場料は170円で、記念硬券入場券が贈呈されます。
受電鉄塔をはじめとする電力設備は、駅ホームや周辺の公共エリアから見ることができます。毎年1月・4月・10月(鉄道の日前後)には「上毛電鉄感謝フェア」が開催され、普段は見られない施設の特別公開や電気機関車の試乗会などが行われます。
見学の予約は、上毛電気鉄道本社(電話:027-231-3597)または公式ウェブサイトの問い合わせフォームから可能です。
周辺の見どころ
大胡駅周辺には、赤城山南麓の自然や観光を楽しめるスポットが点在しています。道の駅「ぐりーんふらわー牧場・大胡」はオランダ風の風車がシンボルの道の駅で、ポニーや羊などとのふれあい、地元の農産物直売、キャンプ・BBQエリアなどが楽しめます。ぐんまフラワーパークプラスは赤城山中腹に位置する県立の花のテーマパークで、大胡駅からタクシーで約15分です(2025年秋リニューアルオープン予定)。春のチューリップや冬季のイルミネーションが特に人気です。赤城山では、大沼・小沼でのハイキングや紅葉狩りなど、四季折々の自然が楽しめます。上毛線の終点である西桐生駅にも、1928年築のマンサード屋根の洋風駅舎(登録有形文化財・関東の駅百選)があり、合わせて訪れる価値があります。
上毛線全線が乗り降り自由な「赤城南麓1日フリー切符」(大人1,300円)を利用すれば、路線上の複数の文化財を効率よく巡ることができます。
アクセス
東京方面からは、東武鉄道浅草駅から特急「りょうもう」で赤城駅まで約2時間、赤城駅で上毛電気鉄道に乗り換え大胡駅まで約15分です。あるいは、JR上越新幹線で高崎駅へ、JR両毛線に乗り換えて前橋駅下車、日本中央バスのシャトルバスで中央前橋駅へ移動し、上毛線で大胡駅へ向かうルートもあります。大胡駅は有人駅で、島式ホーム1面2線の地上駅です。電車庫および文化財群は駅の西側すぐ、徒歩約1分の距離にあります。
Q&A
- 受電鉄塔を間近で見ることはできますか?
- 受電鉄塔は駅ホームや周辺の公共エリアから見学できます。現役の電気設備であるため、鉄塔の直下への立ち入りは安全上制限されていますが、椅子形の特徴的なシルエットは近くからもはっきりと確認でき、撮影も可能です。
- 電車庫の見学は外国語で対応していますか?
- 見学ツアーは基本的に日本語で行われています。外国語対応のガイドは通常ありませんが、歴史的な建物や機械類、車両の見学は視覚的に十分楽しめます。翻訳アプリや日本語が話せる同行者がいると、より深い理解が得られます。
- 見学におすすめの時期はいつですか?
- 電車庫の見学は予約制で年間を通じて可能です。1月・4月・10月のイベント開催日は最も多彩な催しが楽しめます。春の桜の時期や秋の赤城山の紅葉シーズンは、周辺の景色もあわせて楽しめるためおすすめです。
- 入場料はかかりますか?
- 登録有形文化財の外観の見学は無料です。電車庫の見学ツアーでは170円の入場料がかかり、記念硬券入場券が贈呈されます。上毛線の1日フリー切符は大人1,300円です。
- 大胡駅には登録有形文化財がいくつありますか?
- 大胡駅構内には、駅舎・電車庫・変電所・受電鉄塔・避雷鉄塔・中継鉄塔・引留鉄塔の7件の登録有形文化財があり、すべて1928年の開業時に建設されたものです。
基本情報
| 名称 | 上毛電気鉄道大胡駅受電鉄塔(じょうもうでんきてつどう おおごえき じゅでんてっとう) |
|---|---|
| 所在地 | 群馬県前橋市茂木町30-2他 |
| 建設年 | 1928年(昭和3年) |
| 構造 | 鉄骨造、高さ8.5m、1基 |
| 文化財指定 | 登録有形文化財(建造物)|2007年(平成19年)7月31日登録 |
| 所有者 | 上毛電気鉄道株式会社 |
| アクセス | 上毛電気鉄道上毛線 大胡駅下車 徒歩約1分 |
| 電車庫見学予約 | 上毛電気鉄道本社 TEL:027-231-3597 |
参考文献
- 上毛電気鉄道大胡駅受電鉄塔 ― 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/153195
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006592
- 大胡電車庫見学 ― 上毛電気鉄道公式サイト
- https://jomorailway.com/garage.html
- 大胡駅 ― Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E8%83%A1%E9%A7%85
- 上毛電気鉄道上毛線 ― Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E6%AF%9B%E9%9B%BB%E6%B0%97%E9%89%84%E9%81%93%E4%B8%8A%E6%AF%9B%E7%B7%9A
- 大胡電車庫で古豪に親しむ 上毛電気鉄道 ― 日本旅行 汽車旅コラム
- https://www.nta.co.jp/jr/train/kishatabi/column/20131101.htm
最終更新日: 2026.03.26