水面に立つ六角形の小塔

旧西岡水源池取水塔は、北海道札幌市豊平区の西岡公園内にある明治42年(1909年)建設の煉瓦造・木造の取水施設で、平成13年(2001年)8月28日に国の登録有形文化財となった。

池をめぐる園路を歩いていくと、対岸の白樺越しに姿が見えてくる。水面から立ち上がる赤煉瓦の円筒。その上に載る小さな六角形の木の箱。そして尖った屋根。

基礎は内径1.5メートル、高さ6.6メートルの円柱状煉瓦造である。上部の胴体部は木造で、平面は六角形、外壁は下見板張、各面に縦長の窓が開く。屋根は六角錐形の鉄板葺。建築面積はわずか1.5平方メートルしかない。

この数字がすべてを説明している。人が集まる建物ではない。水を取り込むための装置であり、寸法は弁を回す一人分でよかった。

月寒の兵営へ水を送るために

この塔は軍の水道施設として生まれた。明治42年、陸軍は月寒川の上流部を堰き止め、月寒に置かれた第7師団歩兵第25連隊のための水道を敷いた。「月寒水道」と呼ばれた系統である。ここで取り込まれた水は埋設の導水管を自然流下で下り、兵営へ届いた。管の上に維持管理用として設けられた道が、のちの水源池通の前身になったと伝わる。

設計は井上二郎。文化庁のデータベースにも設計者名が明記されている。これほど小さな工作物で設計者が判明している例は多くない。同時期の水道付属施設の多くは、作り手の名を伴わずに現代へ届いている。

北海道の近代水道としては函館(明治22年)、岩見沢(明治41年)に次ぐ古さとする資料もある。ただし軍用の系統と市町村営の系統をどう並べて数えるかによって順序は変わりうるため、順位そのものは幅を持って受け取るのが妥当だろう。

戦後、施設は民生に移された。地元の記録によれば、昭和24年に豊平町が一般家庭への給水を始め、昭和36年の豊平町と札幌市の合併にともなって市の水道施設になったという。昭和40年代後半、市内に大規模な浄水施設が整うと西岡の浄水場は役目を終え、貯水池一帯が公園として整備された。取水塔だけが、水の中に残った。

登録された理由

平成13年の登録は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準による。評価を支えているのは、おおむね次の三点である。

  • 北海道に残る陸軍の土木構造物そのものが少なく、水道に関わるものはさらに少ない。
  • 技師の仕事である煉瓦の円筒と、大工の仕事である下見板張の小屋が、一つの構造物の中で上下に接している。その境目は対岸からもはっきり見える。
  • 外形が変わっていない。後年の機械を外付けした跡もなければ、煉瓦をコンクリートで巻いた補強もない。

登録有形文化財は、重要文化財に比べて規制の緩やかな制度である。現状を凍結するのではなく、大きな改変の前に届け出を求める仕組みで、水面に置かれた小さな工作物を札幌市が維持していく形とは相性がよい。

登録番号は01-0029、官報告示は登録の2週間後にあたる平成13年9月14日である。

訪ねる

西岡公園には門も入園料もない。したがって取水塔は、季節も時間も問わず眺められる。ただし塔は池の中に立ち、橋は架かっていない。見学は常に水越しになる。屋外の撮影に制限はない。内部は非公開で、そもそも入れる広さがない。

公共交通なら地下鉄南北線の澄川駅から中央バス西岡環状線(澄73または澄74)に乗り、「西岡水源池」下車。そこから徒歩1分ほどで園内に入る。車では札幌の中心部からおよそ30分。駐車場は夏期で約50台、積雪期は約20台に減る。

入口脇の管理事務所は9時から17時まで開いている。休館日は4月から11月が火曜日、12月から3月は火曜日と水曜日。暖候期の金曜には職員が園内を案内する「おさんぽガイド」があり、13時までに管理事務所へ集合すれば申込なしで参加できる。所要は2時間ほどで、案内は日本語で行われる。

注意点を二つ。ここは整えられた芝生ではなく、本物の森と湿地である。マダニに咬まれる危険が実際にあるため、春以降は長袖・長ズボン・足を覆う靴が望ましい。市内とはいえヒグマが行き来する一帯でもあり、熊鈴を持つ判断は妥当である。湿地には木道が渡してあるが、木道から下りることは認められていない。

色が最もよいのは10月下旬で、カラマツやカエデの色が煉瓦の背景に回り込む。厳冬期は水面が凍り、白の中に暗い六角形が浮かぶ。ただし園路は雪に埋もれ、歩みは遅くなる。北東の丘には羊ヶ丘展望台があり、車ならこの二か所を続けて回れる。

Q&A

Q旧西岡水源池取水塔は見学できますか。入園料はかかりますか。
A見学できます。料金はかかりません。取水塔がある札幌市豊平区の西岡公園は門のない都市公園で、時間や季節を問わず立ち入ることができます。
Q旧西岡水源池取水塔の内部に入ることはできますか。
Aできません。取水塔は池の中に立ち、橋は架かっていません。内部は非公開で、建築面積も1.5平方メートルしかないため入れる空間がありません。見学は対岸の園路から水越しに行うことになります。
Q旧西岡水源池取水塔へは札幌中心部からどう行きますか。
A地下鉄南北線で澄川駅へ出て、中央バス西岡環状線(澄73・澄74)に乗り換え、「西岡水源池」で下車します。園内までは徒歩1分ほどです。車の場合は中心部から30分前後で、駐車場は夏期約50台です。
Q旧西岡水源池取水塔は何のために建てられ、誰が設計したのですか。
A明治42年、月寒に駐屯した陸軍第7師団歩兵第25連隊のための水道「月寒水道」の取水施設として建てられました。設計者は井上二郎で、文化庁のデータベースにも名が記されています。
Q旧西岡水源池取水塔を見に行くなら、どの季節がよいですか。
A10月下旬が見頃です。対岸のカラマツやカエデが色づき、赤煉瓦との対比が生まれます。厳冬期は結氷した水面越しの眺めになりますが、園路の歩行に時間がかかります。いずれの時期もマダニ対策と熊鈴の携行をおすすめします。

基本データ

名称旧西岡水源池取水塔(きゅうにしおかすいげんちしゅすいとう)
所在地北海道札幌市豊平区西岡公園内(公園住所:札幌市豊平区西岡487番地)
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 01-0029
指定年平成13年(2001年) 登録8月28日/告示9月14日
員数1基
寸法煉瓦及び木造、鉄板葺、建築面積1.5平方メートル。煉瓦造基礎は内径1.5メートル、高さ6.6メートル
所有者札幌市
公開状況公園内から常時外観見学可・無料。内部非公開。管理事務所は9時から17時(休館日:4月から11月は火曜、12月から3月は火曜・水曜)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 旧西岡水源池取水塔
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00002188
文化遺産オンライン 旧西岡水源池取水塔
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/137958
西岡公園 公式サイト
https://www.sapporo-park.or.jp/nishioka/
札幌市 施設案内 西岡公園
https://www.city.sapporo.jp/shisetsuannai/520.html
ようこそさっぽろ(札幌観光協会) 西岡公園
https://www.sapporo.travel/spot/facility/nishioka_park/

最終更新日: 2026.08.27